おっかけ
Q1:・・・・・・。
Q2:・・・・・・。
Q1:何だよさっきから。
Q2:・・・・・・。
Q1:どこの誰だか知らないけど、こういう事するのは・・・ん?
Q2:どうやらお気付きのようで。
Q1:・・・久しぶりだな。
Q2:10年ぶりかしら。
Q1:もうそんなに経つのか・・・。
Q2:・・・・・・。
Q1:・・・雰囲気変わったな。
Q2:だって・・・10年よ?
Q1:・・・・・・。
Q2:まだ捨てられただなんて思ってないですからね。
Q1:もう終わった事じゃないか。
Q2:私の気持ちはまだ変わってない。
だって私にはもうあなたしか居ないのだから・・・
Q1:いい加減にしてくれよ。
Q2:元々あなたと私は一心同体だったじゃない・・・ねぇ?
Q1:だから気持ち悪いんだよ・・・もうつきまとうのはやめてくれ。
Q2:行き場がないのよもう。あなたしか居ないの。
ほら・・・もう一度あたしの事拾いなさいよ。ねぇ!?ほら!!
Q1:いい加減にしろ!!
Q2:・・・・・・。
Q1:もう捨てたんだよ・・・もう童貞は捨てたんだよ!!
Q2:捨てられた童貞の事も少しくらい考えてくれたっていいじゃない!!
Q1:だからとっくに卒業したんだ!!もう良い大人なんだよ俺は!!
Q2:大人・・・笑わせるわ。
Q1:何がおかしい。
Q2:昔はあんなに「童貞、最高!!」「童貞、最高!!」と
走り回っては童貞のあたしをなぐさめてくれていたのに・・・。
Q1:とっくに忘れたよそんな昔話。もう俺は子供じゃないんだ。
Q2:・・・そんな事わざわざ言ってるうちなんてまだまだお子ちゃまよ。
Q1:だから子供扱いすんなよ!!つーかお前・・・そんなんだった!?
Q2:捨てられてから今日までこの10年間色々あったのよ!!
Q1:色気付きすぎだろいくら何でも!!何あったんだよこの10年で!!
Q2:童貞が何してようが勝手でしょ!?
Q1:そもそも何の用だよこんな夜道で俺の事つけ回しやがって!!
Q2:いや・・・だからそれは・・・
Q1:何だよ。
Q2:まぁその・・・ヨリ戻したいなぁ~みたぃな?
Q1:・・・はぁ?
Q2:何かまたやり直したくなっちゃったってゆーか。
Q1:お前今さら何言い出すんだよ・・・。
Q2:何回も言わせないでよもう!!いいじゃない別に!!
Q1:無理だろ今さら!!
Q2:ねぇ~またあたしの事拾ってよぉ~ね~ぇ~。
Q1:やめろよその猫なで声気持ち悪い。
何で今さら捨てた童貞もっかい拾わなきゃなんないんだよ。
Q2:ねぇ~ん・・・
Q1:ていうかお前・・・女なの!?女だったの!?
Q2:え、童貞ですけど!?
Q1:いやそうだけどそういう意味じゃねぇよ!!
何だよキャバ嬢みたいに色気付きやがって!!
Q2:女が女らしくして何が悪いのよ!!
Q1:マジかぁ・・・お前、そうだったのか・・・。
Q2:・・・ちょっとあたしの事なんだと思ってたのよ?
Q1:いやだって・・・あんな地味だったじゃん?
だからさぁ普通に・・・男友達として接してたわ。
Q2:何それぇ~ヒドくなぁ~ぃ!?たしかに
地味でしたけどぉぃくらなんでもなくなぁいそれぇ~!?
Q1:どこで覚えたんだよその節回しは!!
Q2:あなたに捨てられてからずっとあたし、
女を磨き続けてたんだから!!
Q1:童貞のくせに何してんだよ!!
Q2:童貞だった人に言われなくないわよ!!
Q1:童貞に言われたくねえよ!!
Q2:あたしはねぇこの10年間・・・
たくさんの男に拾われては捨てられ拾われては捨てられ・・・
Q1:何ちゃっかり拾われてんだよ!!
何拾ってんだよそいつらもそいつらで!!
Q2:拾った男達に貢がせて貢がせて・・・
あたしはこの美貌を手に入れた。
Q1:最初誰だか分かんないなと思ったらやっぱイジってたのかよ!!
Q2:拾われて捨てられを繰り返しながら自分磨きに力を注いでたのよ!?
Q1:ピカピカ光るどころかズタズタに汚されてんじゃねぇか!!
履き違えも大概にしろ!!もっと自分を大切にしろよ!!
Q2:こうなったのもねぇ元はといえばアンタのせいなんだから!!
Q1:だから知らねえよ・・・。
Q2:ほら早く戻りなさいよ童貞に!!
Q1:えぇー・・・。
Q2:もう一度拾いなさいよあたしを。ほら。
Q1:拾えも何も・・・捨てたのいつだと思ってんだよ。
Q2:たしか・・・22くらいの時?
Q1:今年32だぜ?32のそこそこなオッサンに
今さら童貞に戻れとかアホだろ・・・。
Q2:いいじゃない別に。素敵じゃない元ヤリチンの原点回帰。
Q1:ある意味純粋な童貞よりダサいよ。
Q2:あら、そう?
Q1:だってさぁ冷静に考えてみ?
童貞は一度捨てたらそれっきりなんだぞ?
Q2:普通はね。
Q1:そもそも童貞は一人一つって決まってるはずだろ!?
Q2:・・・・・・。
Q1:なのに拾うだのなんのって頭おかしい人だろもう・・・。
Q2:・・・あなた童貞のこと何も知らないのね。
Q1:何が。
Q2:この世界中では今、無数の童貞が飛び交っているのよ?
Q1:・・・はぁ?
Q2:本当に何も知らないのね・・・いいわ教えてあげる。
Q1:・・・・・・。
Q2:童貞はね・・・今一部で価値が膨大に跳ね上がっているの。
Q1:どういうことだよ。
Q2:童貞・・・それは世界中の男たちが産声を上げると共に
宿される守護神・・・いや母親のような存在。
Q1:な、何だよ急に。
Q2:童貞は一度手放したら最後、二度と取り戻せない事から
はるか遠い昔では神性な存在として扱われていたの。
Q1:・・・童貞がぁ?
Q2:童貞を捨てる・・・それは同時に
性なる母との決別であり、幻想から現実、
子供から大人の扉を開くと共に自立への始まりでもあるの。
Q1:・・・・・・。
Q2:しかし大人の階段を踏み出すと同時に、
あの頃のスイートピュアドリームはいつしか遠のき
やがて消え去ってしまう・・・
Q1:・・・・・・。
Q2:あなたもそうだったでしょ?
Q1:たしかに・・・理不尽な妄想空想を膨らましては胸を焦がした
あのころの感覚、少しずつ薄れて来てるような気がする。
Q2:そこで人類は考えた。
童貞が無いのなら・・・また集めたら良いのだと。
Q1:・・・まさか
Q2:“DTSVproject”。
Q1:???
Q2:そう、童貞サルベージ・・・男たちはいつしか裏社会を通じ、
野生の童貞を不正に密猟し始めたのよ!!
Q1:何かもう廃人の発想だよそれ!!素直に捨てようとしろよ!!
Q2:童貞・・・いやDTは
Q1:いや呼び方!!誰かがいつぞやに流行らそうとした割に
そんな浸透しなかったヤツみたく呼ぶなよ!!
Q2:そうして中古DT売買は裏で日常化し、
それに伴い良質なDTは高所得者にストックされ、
安いDTはヤフーオークションに高値で転売される始末・・・!!
Q1:必死だな!!必死すぎる!!
Q2:このようにDT達は世界中で大量にサルベージされては
毎晩湯水のごとく使い捨てられているわけ。
Q1:そんな事までして・・・。
Q2:・・・・・・。
Q1:・・・・・・。
Q2:どうやら再入学する覚悟が出来たようね。
Q1:勝手に決めつけんなよ。何だその卒業にちなんだ呼び方。
Q2:DTは捨てられぬまま年々増加しているのよ?
Q1:そんな事実聞かされたとこでどうすりゃ良いんだよ・・・!!
もう非DTの俺には関係ない話だろ!?
Q2:あと数十年先に待ち構えてるのはそう・・・DT化社会。
Q1:DT化社会!?
Q2:DT達はこのまま異性と交われず、やがていつか世界中が
DTというDTで溢れ返るでしょうね。
Q1:そ、そんなバカな話あるわけが・・・!!
Q2:DTを捨てれば捨てるほどストックの無い人が
バカを見る時代が訪れるのよ?
Q1:バ、バカバカしい・・・。
Q2:あの時捨てずに取っておけばよかった・・・
そんな人達が続出するわ。
Q1:・・・・・・。
Q2:そう・・・10年前何の躊躇いも持たず私を捨てた、
アンタみたいな男でね!!
Q1:!!!!!!
Q2:お遊びはここまでよ・・・心の準備は出来たかしら?
Q1:だ、だって今さらそんな事言われたってしょうがないじゃないか!!
Q2:さぁ童貞になるの!?ならないの!?
Q1:・・・・・・。
Q2:・・・・・・。
Q1:分かった。
Q2:え!?
Q1:俺・・・再入学するよ。童貞に。
Q2:・・・本当に良いのね?
Q1:そんなに捨てられた童貞たちが苦しんでるなんてこと知ったら
何ていうか、放っておけないんだよな・・・。
Q2:・・・大人になったね。
Q1:そうなのか?
Q2:分かった・・・じゃあ付きまとう必要なんてもう無くなるのね。
Q1:そうなのかな・・・。
Q2:・・・良かった、あなたのDTで。
Q1:よ、よせよ・・・。
Q2:よしてよ・・・。
Q1:よせよ・・・。
Q2:よしてよ・・・。
(プルルルルルルルル)
Q1:・・・・・・。
Q2:誰?
Q1:あぁいや、何でも・・・。
Q2:誰よ?
Q1:いやだいじょぶだから、うん。
Q2:出なさいよ。
Q1:いやその・・・
Q2:出なさいよ早く!!
Q1:(ピッ)もしもし・・・?
あぁいやゴメンゴメンいま残業でさ・・・うん。
Q2:・・・・・・。
Q1:もうすぐ帰るから。
うん・・・え?いやいや恥ずかしいって。
Q2:・・・・・・。
Q1:・・・愛してるよ。はい。はーい。(ピッ)
Q2:・・・・・・。
Q1:・・・・・・。
Q2:・・・・・・。
Q1:じゃ童貞に戻ろうか。
Q2:誰よ!?誰よ今の!!
Q1:いやまぁその・・・
Q2:アンタまさか・・・まだあの泥棒猫と!?
Q1:・・・付き合って今年で10年になる。
Q2:・・・・・・。
Q1:あと貰った処女と3人で暮らしてる。
Q2:・・・・・・。
Q1:まぁでもいいじゃん?もう俺が童貞になれば丸く収まるじゃん?
Q2:・・・・・・。
Q1:4人で暮らそうよ4人で。
Q2:分かったわ・・・
Q1:な、何だよそんな怖い顔すんなよー。
Q2:ただし・・・世界中の中古DTと一緒にね!!
Q1:!?
Q2:(スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ)
Q1:お、おいやめろよ何してんだよ!!
Q2:あたしのお腹にはねぇ・・・
野生のDTを吸い寄せられるアプリが組み込まれているのよ!!
Q1:お前外だけじゃなく内側もイジってたのかよ!?
つーか何だよそのアプリ何に使うんだよ!!
Q2:(スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ)
Q1:スゥゥゥゥゥゥゥゥゥじゃねんだよだから!!
そのダッチワイフみたいなおちょぼ口やめろよ!!
あ!!何だあのおびただしい数の黒い影は・・・!!
Q2:(スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ)
Q1:まさかホントに呼び寄せてんの!?やめろって!!
こんなおびただしい数の童貞捨てきれるわけないだろ!!
Q2:(スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・)
Q1:やめろぉぉぉぉぉぉ!!!
こうしてQ1は無数のDTを背負わされるも、
DTの力を使い四方八方に売り捌く事によって危機回避した