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【連載 RingNeプロジェクト】第3回 DAO型組織って何だ?

最近、Web3.0やブロックチェーンという言葉を世間で耳にするようになるにつれ、DAOという組織形態が注目されているそうだ。

DAO型組織とは何か?

DAOとはDecentralized Autonomous Organizationの略で、つまり自律型分散組織のことを指す。
これまでの組織形態では社長やリーダーなど意思決定をする人物がトップにおり、そこから上意下達で物事が決定される仕組みになっていた。
その一方でDAO組織の場合、自律して動く個人が協力・議論をすることで組織を運営していくという形をとる。

従来型組織とDAOの違い(出典:Coincheck

元々はユーザーの自由とプライバシーを保護し、データーやデジタルトークンなどの所有権やプラットフォームの管理を参加者に委ねることでより安全でより民主的なネット世界の実現をめざしたものになる。

例えば世界中にサーバーを分散管理させることでデーターの改ざんや消失を防ぐブロックチェーン。
デジタル資産(NFT:Non-Fungible Token)をバーチャルの世界で所有し、組織内で経済圏を構築するメタバースなどがある。

それではこのDAOというITの世界から始まった組織形態を人間社会に実装するとどうなるのか?
実際にDAOという組織形態でフェスティバルを運営しているRingNe DAOを中の人としてのぞいてみた。

実際にDAO型組織に参加して感じたこと

まず『RingNe』というのは、これまで過去2回の連載で解説してきたように「人間が死後、植物に転生することが科学的に解き明かされた世界」を描いたSF小説である。
それで、RingNe DAOというのは小説『RingNe』の世界観を現実世界で体験するフェスティバルを企画・運営するDAO型組織である。

RingNeフェスティバルは2023年から2025年までの3年がかりで行うプロジェクトであり、南足柄市の夕日の滝で年に1度フェスティバルを開催する。
参加者の規模は約300人ほどで、地元の自治体も巻き込んで行う。

そしてイベントを運営する側も100名以上にのぼり、全国各地からインターネットを通じて参加者各自がマルシェイベント、映像制作、音楽制作、プロジェクトマネジメントなど得意分野を活かしている。

しかし、それぞれの参加者に金銭的な報酬が支払われるわけではない。
あくまでも全国各地からRingNeプロジェクトを成功させるために集まった仲間たちが、それぞれの才能を活かして楽しむというものである。
フェスティバルの運営費用そのものはクラウドファンディング、補助金、各自の持ち出しなどで賄われ、最終的な収益はフェスティバル当日のチケット販売や物販等で相殺する。

つまりRingNe DAOは多くの参加者にとってはプロボノ活動と言った方がイメージは近いかもしれない。
プロボノというのは元々弁護士等の専門職が無償で社会貢献活動を始めたことに由来するが、現代では社会人が自身の専門・得意分野を活かして社会貢献するという意味で使われることが多い。

実際に筆者の知り合いは大手企業での経験を活かしてグラミン銀行(バングラデシュ発祥のマイクロファイナンス機関)のボランティア活動に本業の傍ら取り組んでいる。

RingNe DAOの参加者の多くは本業を持っている。
会社員やアーティスト、ミュージシャン、フォトグラファー、企業経営者、デザイナー、コミュニティ運営など多種多様な職業の人が参加している。

しかし、ここで勘の良い人は気づいたかもしれない。
RingNe DAOの参加者が本業としているのは表現活動、いわば雇用形態といえばフリーランスとして活躍している人が多くいる。

DAO組織というのはただ個人個人が分散していて、民主的に意思決定をしているということだけではない。
貢献したメンバーに何らかのインセンティブ(報酬・動機付け)があるのだ。

フリーランスの芸術家は各個人で自分自身に表現したい世界があり、それと同時に活躍の場、次の仕事につながるネットワークを求めている。
このRingNe DAOを構成するメンバーはやはりみんな個性的で、個性が渋滞を起こしている。
そして各個人の世界観はどれも独特で、把握するまでに時間がかかってします。
僕自身、このRingNe中心メンバーで声優や役者、ダンサー、絵描き、コーチングなど色々な活動をしてきた瀧本くんという友人がある。
かれこれ4年の付き合いになるが、ここ最近になってようやく彼の表現したい世界観が理解できるようになってきた。
おそらく、他の各表現者の方々もそれくらい深い世界をもっているのかもしれない。

だからこそ、DAOという組織形態で各人が自由に個性を表現しながら一つの世界観を創り上げ、その過程でお互いにインスピレーションや仕事の依頼といった形でインセンティブがあるのだ。
去年参加したRingNe フェスティバル第一章の制作過程では、参加者同士で仕事を依頼し合ったり、新しい作品が生まれる場面が見受けられた。

つまりRingNeプロジェクトにおけるDAOというのは一つの目的を持った「仲間」が全国各地からインターネットを通して繋がり、時には実際に会い、新しい価値やアイデアを生み出す場として機能している。
僕自身は文章を書いたり、写真を撮ったりするくらいしかクリエイティブなことはできないけど、自分自身の「好き」に愚直で一生懸命な方々と触れ合えることはとても良い経験になったし、そして何より僕自身も会社以外で活躍の場を持てたことはとてもうれしく感じている。

DAO型組織が持続可能であるために

まずDAO型組織というのは責任の所在が曖昧で、各個人のゆるい繋がりであるため、責任を持って収益を目指す営利組織には不向きである。
RingNe DAOに至っても前回のフェスティバルでは必要以上に経費が発生してしまい、出資者がその赤字を補填するケースがあった。
さらにこのDAOの運営にはフリーランスとしてお金と心に余裕の大人だけではなく、駆け出しのフリーランスや心の障害を持つ若い方々も多く参加している。
もちろんフリーランスの世界は実力や実績で評価されるシビアな世界だ。
しかし、次の仕事依頼につながる投資だからとはいえ、フェスティバルの企画から本番まで関わった彼らへの対価が「やりきった達成感」だけでは持続可能な形ではない気がした。
「貧すれば鈍する」。
どうしたって経済的な余裕がなければDAOに参加することもできなければ、新しいアイデアに頭を使うことだってできなくなる。

つまり、DAO型組織を持続可能なものにするためには、参加者自身に余裕があること、そして外部からの収益を確保し、「外貨準備高」を得られる仕組みがなければ長続きしない。
現状のDAOはクラウドファンディングや有志のポケットマネーなどで賄われているが、個人の優しさや責任感に頼るだけではいずれ破綻する。
それに、DAOに参加している多くの若いフリーランスや心の障害を持つ人たちの経済状況は非常に厳しい。

非正規雇用や障害年金でなんとか食いつないでいることなんてざらにある。
だからDAO型組織で貢献した個人へのインセンティブを「やりがい」や「自己肯定感」だけでなく、必要な個人に合わせて「金銭的対価」というオプションを加えてもいいのではないだろうか?

組織の世界を体現するような音楽や芸術。
誰かに描いてほしいと思っていたデザイン、アート作品、文章などなど。
明日生きるためにお金を必要としている若いフリーランスのため、彼らの才能に対価を払い、応援し、それが外の世界でも認められるレベルまでお互いにフィードバックとブラッシュアップをしていけるような互助的な組織になってほしいと思う。


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