【短編】バトン②
第一話は、こちらから。
あれから救急車が来て今村くんが運ばれていくのを見て、僕はなんとなく家には帰れないような気分になった。
今村くんが、あんな怪我をしたのはこの封筒が原因だということは目に見えてわかっていて、すぐにでも、僕も手放したいと思った。
しかしながら、現金なのであればいくらあるのか。それだけは確認したいと思うのは人間なればこその感覚なのではないだろうか。
果たして、何をして得たものなのか。
今村くんからはなんのヒントも得られなかった。
僕は、人目に触れない物陰に隠れて封筒の中を見た。
「え…。」
開けてしまったことが間違いだと気づくには、そう時間はかからなかった。
現金は300万円。それともうひとつ、白い封筒が出てきた。白い封筒には鍵がふたつ入っていた。どこの、なんの鍵なんだろうか。
何と繋がっていて、どこに連れて行かれるんだろう。
今村くんは、死んでしまうんだろうか。
頭の中に言い知れない恐怖が浮かぶ。
なぜ、今村くんは、あんな目に遭ったんだろう。いや、その答えは、あんな目に遭うだけのことをしたんだろう、ということ。
恐らく、銃で撃たれた。銃を持っているような人物との繋がりが今村くんにあるということ。自ら繋がったのか、巻き込まれたのか。今村くんは、はっきりと名前を呼ばれていた。
友達だっただろうか。
今村くんと僕は。僕はそもそも今村くんをどれだけ知っているだろうか。
高校2年から3年に進級しすぐに誕生日を迎えた僕に今村くんがくれたものがあった。
「教えてよ。今村くん。いったいこれは何?」
って聞くと、くくって、笑って、そのうちわかるって言ったんだ。
結局わからなくて、ずっと押し入れにしまったままだった。
ずっと忘れていたのに、なぜか今思い出す。
僕が今、預かった現金と鍵も全く意味がわからない。これが、どこにつながるものでも……これを託した今村くんに、答えを聞けることはあるんだろうか。
僕のとるべき行動は……
封筒をシャツに隠して、ふっと息をついた。
家に帰ろう。
きっと、高校3年生の僕がやったことは正しい。
わからないものはとりあえず目につかない場所に仕舞い込んで間違いない。
今村くんは、さっき、後で教えると言ったんだ。
だから、信じる。
今村くんは死なない。きっと、助かる。
少しだけ、人目を気にしながら家まで遠回りをして帰る。
自分の部屋の押し入れを開けた。
高校3年生の僕が仕舞い込んだ今村くんからの貰い物が、ガタンと音を立てて転がってきた。
僕はそれを見て、やっと意味がわかった。
「ばかだ。今村くんは。」
鍵穴のある手帳。2年も前に何かを書いたのか。
現金と一緒に入っていた白い封筒に入った二つの鍵。大きいものと小さいもの。
小さい鍵を鍵穴に入れて回すとカチッと音がして、手帳が開いた。
ページを捲ると挟んであったものが床に落ち散らばった。
「教えてよ。今村くん。いったいこれは何?」
知らない街の知らない地図にたくさんの数字が書かれていた。
バトン② 20220511
バトン③に続く