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ウィズコロナで私がやめたこと

私は以前、医学系の研究所で働いていた。夫は今も研究職であり、我が家は10年以上前から家庭内の会話にPCRとか電気泳動とかいう単語が飛び出す家だった。

だからなのか、コロナに対しても早くから割と悲観的に考えていた。
私は花粉症なので、松の内が開ける頃からGW頃までマスクが欠かせない。1月中にGWまで余裕で保つ量のマスクは確保した。案の定、2月に入ると店頭からマスクが消えた。

2月半ば、今でいうエッセンシャルワーカーだった私は、ステイホームで世界を救いたかった。でもエッセンシャルワーカーにテレワークは望めない。せめて皆がステイホームしてくれればいいのに、私の仕事は寧ろ忙しくなるばかりだった。

3月に入ると、出勤前の検温が義務付けられた。だが「測ってきてここに(体温を)書いてね」と言われただけで、具体的に何度あったらどうなるのかは聞いていない。
この頃にはマスクやトイレットペーパーを求める人で、開店30分前のドラッグストアに行列が出来ていたし、スーパーからは米が消えた。トイレットペーパーなんか国産だし、米だってほぼ国産で去年フツーに取れているのだから、米不足になるワケないのに。

3月半ばには「お金なんかいらないから働きたくない」と思った。緊急事態宣言とか出るようなことになったとしても休めない職種だけど、金要らないからそんな時には出勤拒否したい。
ウイルス感染が恐いんじゃなくてパニックに陥ってる民衆が恐い。ウイルスなんかよりよっぽど恐い。そう思った。

飲酒量は増えていたし、睡眠時間は減っていた。

3月下旬、アルコールで覿面に手荒れするから、極力消毒しないかわりに手洗いは普段より念入りにしていた。それすら手荒れの原因になってカサカサだし痒いし、手全体にステロイドを塗り込んで綿手袋するレベルだった。

ほんの少しずつでも、客1人1人がギスギスしたりイライラしたりしていると、こちらは1日に何百人も相手にするからそれが積もり積もって、地味ながら着実に精神を病んでいく感があった。

外に出なくていいなら私は別に出たくないんだけど。仕事も無くなって構わないんだけど。

月末、小池都知事が会見した日、2日悩んだ結論を出した。仕事辞めよう。もし感染したら、猫はどうするんだ。仕事をしている限りハイリスクな環境から逃れられない。そんなリスクを冒してまでする仕事とは思えなかったし、職場で私の代わりは用意出来ても猫の飼い主業に代わりはいない。何より現状では割に合わない。
翌日、上司に伝えた。めちゃくちゃ慰留されたが、何処の部門であっても残る気はなかった。

情報を得ようと見ていたテレビも、やがて最低限のニュースと大河くらいしか見なくなった。ワイドショーには最早反吐が出そうだ。

盆も正月もない業界だけど、盆と正月が一緒に来るとはこういうことか、というような忙しい日々が続いていた。機械のように感情を殺して働いた。
花粉症だからとずっと眼鏡をかけて仕事していたけど、本当は「目からもうつる」と聞いたからだ。マスクと眼鏡で耳の上が痛くなるが、感染するワケにはいかない。

緊急事態宣言が出ると、うちの職場にも飛沫防止シートが設置された。あんな物でも意外なほど安心感はあった。が、暖簾のようにわざわざこちらに顔を出して声を掛けてくるおばちゃんは本当に意味が分からなかったし、「長くて邪魔」と短くしようとする同僚も意味が分からなかった。同じ環境で同じ仕事をしていても、感じる危機感やストレスはまるで違うらしい。それもまたストレスの原因になった。

退職する前に、残る同僚のために改善してほしい点を本部にズラズラと伝えた。きちんと対応してくれた本部の人には感謝している。
有給も消化し、4月末日付で無事退職した。

最終出勤日から2週間は、ほぼステイホームしていた。通販した本を読んだり、料理をしたり、猫と一緒に泥のように眠ったり。元々インドア派なので全く苦痛ではない。寧ろ用もないのに外に出る意味が分からない。
スーパーと病院とポストくらいしか行かなかったし、家から徒歩200m圏外には車でしか出なかった。だって私が感染していない保証なんかないのだから。

ウィズコロナで私は仕事を辞めた。あとテレビを見なくなった。

私が仕事を辞められたのは、夫がいるからだ。辞めていいよ、辞めなさい、と言ってくれた夫には感謝している。
仕事を辞めたことに後悔は微塵もない。今は辞めてよかったとしか思わないし、復帰したいとも思わない。自分の労働に対価が見合わないと感じたのだから、未練などあるはずがない。

アフターコロナなんて時代が来るのか分からないけど、もうエッセンシャルワーカーにはならないだろう。給料が倍くらいになっていたら、考えるかもしれないが。

たまに用があって外に出る時には、こんな中でも働かなければならない人たちになるべく迷惑をかけないよう考える。

今も一歩も外に出ない日の方が多い。これから雨の日や暑い日が増えるから、よりそうなるだろう。人の多い所にはなるべく近付きたくない。

仕事を辞めたことで、感染リスクもストレスも疲労も大幅に減った。やりたいことをやる時間が出来た。

コロナは生き方を見直す良い機会だったのかもしれない。あくまでも私の場合だが。

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ミヤカナ
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