脚光人生
〈誕生〉
この日だけは生まれないで
流産の可能性もあった命は予定日よりだいぶ早く生まれそうであった
父が出張で不在、立ち会えないその日、親族一同の祈りを無惨に断ち切り、わざわざ未熟児として誕生させていただいた
〈持久走大会〉
小学2年、体も小さく特段運動が得意ではないため、大会のルートを自転車を漕ぎながらついてくる母と共に毎日走る練習
当日はクラスの女子で2位
頑張ると結果がついてくるらしい
〈トラウマ1〉
小学4年、授業中はトイレに行ってはいけませんと担任は言った
市の音楽祭に向け音楽室でクラス全体で練習中、どうしてもトイレに行きたくなった
まだ授業が終わるまで40分はある
我慢
は限界がくる
もうだめ、と声を上げようとした瞬間、決壊
泣き出す生徒に担任が気づき、近くのクラスメイトに保健室に連れて行かれる
直接見ていないが注がれる視線たち
その後、何故かいじめられることはなかった
だから、最大の敵は"トイレに行けない"ということだった
学校に行くのが怖くなった
親にはすぐに言えなかった
とはいえ、いよいよ耐えきれずとある朝母に打ち明ける
後日、母は学校へ出向き、担任と穏やかに話をした
生徒は学校に行く気持ちが少し軽くなった
が、休み時間毎にトイレに行く習慣はしばらく消せなかった
〈学芸会〉
小学5年、担任から主役をやらないかと提案された
これまで目立ちたくない気持ちが勝ち、一つしかセリフがないような役を選んできた
だからセリフの多さ、注目度の高さに怯み断る
代わりにその担任から劇中の歌い手(3人)になるように言われ引き受ける
翌年同じ担任の違う劇で初めて自らなりたい役に立候補したが、希望者2人によりクラスメイトの前でセリフオーディションで決めることになった
投票差は見せてもらえないものの見事役を勝ち取る
〈宿題〉
小学6年、夏休みの宿題でいくつかのテーマの中から一つ選び絵を描く
絵が好きな父の手伝いのもと、家の前の景色の中にトンボがいる風景をチョイスする
夏休み明け、ホームルームで担任がすごい賞を獲った人がいます!と興奮気味に言ったあと、父と作り上げたトンボの絵の作者の名を呼ぶ
文部科学大臣賞、全国の小学6年生の中で最も優れた作品と評されたよう
東京にて受賞者を集めた表彰式が行われた
地元の新聞社からの取材も受けた
すごさの実感はあまり湧かないが、父も小学生の頃同じ景色の絵で受賞していたことはすごいと思う
〈部活〉
中学で吹奏楽部に入る
楽器未経験、一番吹きやすかったトランペットを選ぶ
一年くらいで大会の曲を吹き切るだけの体力がないことが明白になる
バンドの要になるトランペットの音が曲後半なくなるため、バンドの後ろで部員と顧問の視線に苦しむ
それでも曲の特性上ソロはやってくる
大会は吹き切る重圧の中、顧問、部員、客の視線に耐える
〈書道〉
小学2年生から書道教室に通い、以後冬休みは書き初め作品を毎年提出、県で優秀作品に選ばれる
練習は同じく書道をしていた母が付き添う
中学2年、初めて母の付き添いなしに練習し、提出
その年の作品は県に選ばれなかった
翌年は高校受験を控えていて、冬の書き初めはその年で最後にするつもりだった
頑張っても結果がついてこないこともあるらしい
〈生徒会〉
中学2年の後半に生徒会に入らないかと提案され入る
その年の春、生徒会から3年生の卒業式で送辞を読む人をじゃんけんで決めることになり、見事担当者になる(やりたくはなかった)
国語の先生とワンツーマンで文章構成、読み方の練習を部活後に行う
当日全校生徒の前で滞りなく披露
読む前の一礼を忘れたことを除いて
〈文化祭〉
高校3年、文化祭のステージで吹奏楽部の親友とゆずの曲をメドレーでデュエット
歌手になりたいといううっすらした夢をここである程度消化する
当日は片思いしていた部活の後輩に連絡し観に来てもらい、これをきっかけに付き合い始める
その数日後の夏祭り後、やっぱり好きな人がいるからとあっさり振られる
〈トラウマ2〉
大学2年、裏門から大学を出て1人帰宅中に突然後ろから不審者に抱きつかれる
振りほどき顔を見ようとすると、顔にパンチ、腰に蹴りをくらい、正体を確認できないまま逃げる
追いかけてこなかったが、帰宅後電話した友達のすすめで警察を呼ぶ
事情聴取の一環で現場で事件を再現する際、あんなに人通りの少なかった道をまあまあの人たちが通り警察と被害者をいぶかしげな目で見る
情報が少なくおそらく犯人は捕まっていないが、以後後ろからの足音がどんな時も怖くなる
〈葬式〉
事件の2日後は父方の祖父の葬式があり事件の翌日に帰省
未成年のため既に両親には事件の連絡が警察からなされており、立て込んでいるなかいらぬ心配をかける
葬式で孫からの送る言葉を読むことになっていた
母方の祖父の時も読んだため2回目
前日だが一切内容を決めておらず半徹夜で完成させる
当日寝不足のため祭壇の前に進み出る際盛大に転けそうになるが意地で持ち堪える
親族一同を泣かせる送る言葉を読み上げる
読み上げた孫は出棺時誰よりも泣く
〈同窓会〉
成人式の後、中学時代の生徒を集め同窓会を開くことになったと聞く
既にその会の何人かいる幹事の一人であり、中学の吹奏楽部の友達から幹事をやらないかとLINEで誘われる
もっと適役がいるだろうと断る
大丈夫大丈夫、じゃあ幹事LINE招待するね〜!と半ば強制的に入ることになる
一番最後のメンバーだったがなぜか会場の下見にその友達と2人で行くことになる
あみだくじで役割決め、1人で当日の司会担当になる
流石に向かないだろうとやや駄々をこねる
なぜなら中学時代は休み時間を勉強か本に当てていたからである
大丈夫大丈夫〜!と拒否権をあたたかく撲殺される
年明け早々エクセルで台本作り
当日まあまあ集まった参加者を前に司会進行
何事もなく会は終了
酔っ払った当時の担任が終了後、司会者へ陽気に一言
もうちょっと元気よくやってもよかったんじゃな〜〜い??
だ か ら 隠 キ ャ に さ せ る な と ゆ う た や な い か
〈定期演奏会〉
大学4年、学生として参加できる最後の吹奏楽の演奏会
高校からホルンに切り替えこの時はホルン歴7年目
目玉の曲の冒頭ソロは上手い後輩に任せる予定だった
ただ、楽器も持っていないし、もしかすると10年続けた吹奏楽人生最後の演奏会かもしれない
せっかくならと一念発起、自らパートメンバーと顧問に頼み、任せてもらえることに
当日は県内の親族が会場に集い、サークルのメンバーの後押しもあり、後悔しない程には成功
演奏中の顧問の笑顔のグッジョブが印象深い
演奏後に一礼しながら受ける会場の拍手
吹奏楽10年にして初めてソロを気持ちが良かったと感じる
〈入社式〉
晴れて社会人
第一志望の会社に入社
入社式にて10数人の新入社員代表で社長を前にし挨拶を述べる
比較的規模の大きい配属地で期待の新人と大げさに励まされる
入社し1年経つ頃だいぶ大きなミスをする
課長にしっかり注意される
その後自ら考え行動したことを周りから生意気と言われることが出てくる
課長の圧が心なしか強くなっているように感じ始める
プレッシャーにより空回りが多くなる
仕事に行きたくなくなる
持ち合わせたキャパ以上に実力があるように見せるリスクを痛感し別の道を選ぶ
〈結婚式〉
社会人5年目、大学のサークルの同期の結婚式にお呼ばれする
さらに、社会人になって買った宝の持ち腐れになっている自持ちのホルンでの演奏を依頼される
演奏は新郎のピアノ伴奏と共に行い、1ヶ月強化練習
当日30人程の参列者を前にし、演奏はアマチュアにしてはまずまずの出来
聞き手がいる演奏ができる喜び
名誉な脚光
不名誉な脚光
それらが少しずつ、けれども大胆に人を変えていく