最強威力のエアライフルなら猪は獲れるのか、問題。
このnoteをいつも読んでいる38フリークの皆様にはこんなことを説明する必要はないのですが、それでもやっぱり検索が多いのがハイパワーエアライフルについてです。
国内の狩猟用エアライフル(空気銃)の許可口径は8mm以下となり、その範囲で存在する最大口径は7.62mmとなっています。
初心者の方からのよく、
『鹿や猪の止め刺しに適した口径やパワーはどのくらいか?』
というものや、もっと極端な話では
『エアライフルで鹿や猪を取るのに必要なパワーはどのくらいか』
といった質問が寄せられます。
これはとても答えづらい質問です。
例えば散弾銃の12番スラッグであっても、鹿や猪を半矢で逃すこともあるように、エアライフルが7.62mm口径であっても、当てどころによってはキジを半矢で逃すことはあるでしょう。
逆に4.5mmエアライフルでもキジの頭に当てれば十分に止められます。
さて、これは商品の良し悪しの話では全くない、と前置きをした上で、世の中には超ハイパワーを売りにしたこんなエアライフルがあります。
最強威力のエアライフルとは
トルコのハッサン社が販売するパイルドライバーというエアライフルは超ハイパワーが売りで、7.62mm口径の出力はなんと196ft/lbsとなっています。
※詳細は不明ですが国内取扱のあくあぐりーんさんでは275ft/lbs(!!)を謳っています。
さて問題は、このエアライフルなら絶対に鹿や猪が獲れるでしょうか?
試しに実際の数字で分析してみましょう。
7.62mmの標準ペレットの重量は44.75grです。
パワーは重量と弾速【(弾頭重量(gr) x 弾速の二乗(fps) ÷ 450400 = エナジー(ft-lbs))】で決まりますから、
これで196ft/lbsを出そうと思うと弾速は1405fpsとなります。
音速は1115fps程度ですから、1405fpsでは圧倒的な超音速であり、ペレットでは絶対に精度が出ません。このセッティングでは5shots/50mで手のひらに収めるのも難しいレベルでしょう。
そもそもメーカー公称値の出力が何grのどんな弾を使っているのかも重要です。※機械的セッティングが同じであれば重量を変えても出力は大体近いところに収まります。(重量を重くすれば弾速が落ちるため)
さて、このカタログスペックをよく見ると弾速が1100fpsと書いてあり、その出力が196ft/lbsだとすると、弾の重さは73grと逆算できます。
1100fpsというのはエアライフルの精度が出るギリギリの高弾速です。
ただし、73grといった高重量のペレット弾は市販されていないはずですから、てるてる坊主型のペレットではなく、ライフルバレット型のエアスラッグ弾を使うことになるはずです。しかしさすがにここまで重いエアスラッグはなかなかありません。
ZANスラッグでも最大68grです。つまり入手の手間やコストもそれなりに掛かるはずです。
※国内でハッサンを取り扱うあくあぐりーんさんでは、専用に131grスラッグを販売しています(50発入りで5500円)ここまで手を掛けて面倒を見てくれるのならありがたいですね。
四つ足を獲るためのパワーとは
ではエアライフルで猪や鹿を獲るにはこの超ハイパワーが必要でしょうか?
装薬銃の話は門外漢ですのでざっくりとした数字しか示せませんが、
例えば散弾銃の12番スラッグだと490gr /1500fps= 2450ft/lbs、20番スラッグであれば385gr/1500fps =1920ft/lbsといった出力です。
弱い出力と呼ばれる410番のスラッグでも650ft/lbsほどです。
つまりエアライフルがどんなにハイパワーといえども、装薬スラッグ弾とは相当な出力の開きがあります。
200ft/lbsの超ハイパワーエアライフルでさえ、猪や鹿相手には非力すぎると言われる410番スラッグの1/3以下のパワーです。
例えば12番スラッグであれば猪や鹿の頭、心臓周りなど、当てれば即倒するバイタルゾーンはそれぞれ20cmほどはあるでしょう。
しかしながら、超ハイパワーと言えども12番スラッグの1/10以下の出力のエアライフルの場合は、同じ狙点で即倒させるのは難しいでしょう。
装薬スラッグのように圧倒的な破壊力で物理的に動けなくすることは難しいため、生命維持機能を奪う狙点=眼底、眉間、耳の穴、頚椎、心臓本体、といったバイタルゾーンのピンポイント、数cm程度の範囲を狙って仕留めることになるからです。
そしてこれを実現するにはまず射手の腕、獲物との距離、そして銃の精度が必要です。
そのうち特に問題になるのは精度の話で、基本的にエアライフルは亜音速域の弾速で、過剰なパワーを求めない代わりに高い精度を出しています。
これをパワーに極振りした場合、先のデータのように精度が犠牲になります。そうなると当然、正確に獲物に当てることは難しくなるでしょう。
この精度とパワーのバランスがどのくらいなら最適なのか、は私も経験があるわけではないので分かりませんし、獲物との距離=猟場にもよると思います。
ただ止め撃ち用途であれば、6.35mm(44ft/lbs程度)使う方は多いですし、中には5.5mm(30ft/lbs程度)で行なっている方もいます。
そして当たり前ですが、だからといってこれで猪や鹿の尻に撃っても死にません。結局は当てどころです。
※猪の狙点についてはこちらの記事が参考になるかもしれません。
さて、5.5mm30ft/lbsで至近距離止め撃ちが可能ということは、理論的には離れていても残存エネルギーが30ft/lbsあれば獲ることは『可能』とは言えるでしょう。
7.62mm口径のエアライフルで一般的な44.8grペレットを精度の出る886fpsで撃った場合の銃口出力は78ft/lbs、50m先の残存エネルギーは57/ftlbsあります。
6.35mm口径のエアライフルで一般的な25.4gpペレットを精度の出る886fpsで撃った場合の銃口出力は44ft/lbs、50m先の残存エネルギーは31/ftlbsあります。
いずれにせよ、エアライフルにおいては精度が最も重要であり、それありきのパワーです。
パワーのみがあったところで、装薬スラッグ弾と同じ程度の精度では猪や鹿は獲れないと考えた方が良いでしょう。
となると、100ft/lbsでも200ft/lbsでも一緒じゃない?パワーはある程度抑えても精度が高くて使いやすい方がまだ可能性はあるんじゃない?と私は考えてしまいます。
ちなみに以前試射テストしたFX の最新プレジションモデル、DYNAMIC700の7.62mmは、49grスラッグを970fps程度で飛ばせましたので出力は102ft/lbsほど、50m先でも89ft/lbsあります。
先の止め撃ち時の威力を考えると、これでも十二分にハイパワーですね。
さて、エアライフルのパワーについてこんな面白い動画を見つけました。
7.62mmと6.35mmのエアライフルを同じ70ft/lbsの出力に調整して、どちらが貫通力や破壊力があるかを検証したものです。
結構長いですが、四つ足を撃つ際の参考になると思います。
6.35mmの方が貫通力が高い、というリアルな結果はとても面白いですね。これを見る限り70ftlbsでもパワーは十分すぎると言えるのではないでしょうか。知らんけど。
ハイパワー(大口径)エアライフルのデメリット
最後に、これは四つ足目的でなくても皆さんに知っていただきたいことなのですが、ハイパワー/大口径にするとハイパワーというメリットの代わりにデメリットも生まれます。
発射音が大きい
音とは空気の振動です。吐出する空気が多いほど音量は大きくなります。
つまりハイパワーであるほど音量は増し、同じ銃でも大口径モデルの方がうるさくなります。
燃費が悪い
吐出する空気が多いということは、当たり前ですが一回に使用する空気量も多いということです。
さらに、大口径の場合はバレル容積も大きくなるため、エネルギー効率が落ちて燃費が悪化します。
概算ですがエアライフルの同モデルを、口径別に比較した場合、(それぞれ標準出力)満充填からの発射可能数は4.5mm=200発、5.5mm=100発、6.35mm=50発、7.62mm=25発といった感じで、1/2ずつ減っていきます。
ランニングコストが高い
弾代は大口径ほど高価になります。またエアスラッグなどではさらに高くなります。
例えば7.62mmでは、
JSB 44.75gr/50.15grペレット:1発32円
ZAN スラッグ68gr:1発46円
AG スラッグ131gr:1発110円
となります。
これに燃費も入れてみましょう。
500ccボトルの空気銃での燃費を下記のように計算します。
5.5mm 30ft/lbs:200発=1発1.75円
6.35mm 45ft/lbs:100発=1発3.3円
7.62mm 80ft/lbs:50発=1発6.6円
7.62mm 200ft/lbs:19発=1発17.4円
となります。
例えば一番ハイパワーな7.62mmで重い特別なエアスラッグを使って、と想定すると1発あたりの射撃単価は130円(!!)ほどになります。
7.62mmの標準ペレット/標準出力での射撃単価では50円ほど、5.5mmの場合は12円ほどです。
ひと口にエアライフルと言っても、これだけコストに差があるのです。
さらに燃費が悪ければ都度充填の手間も発生します。
これは決して大口径が悪くて、小口径が偉い、という話ではありません。
皆さんがエアライフルを選ぶときに、そのパワーは本当に必要か、その代償、デメリットは理解できているか?ということをお伝えしたいわけです。
必要なシーンも少なからずあり、理解した上で安全に使用する分にはむしろ応援しております。
一番悲しいのはせっかく買ったのに、思ったものと違った、とエアライフルの本当の楽しさに気づかずに手放されてしまうことです。
このエアライフルの口径とパワーについては、今なお誤解が多い話題です。詳しい話は以前にも記事を書いておりますのでこちらをご参照ください。
まとめ
というわけで、ハイパワーエアライフルで鹿や猪が獲れるかと言えば、獲れるのでしょう。実際そういう話も聞きます。
ただ適した道具かと聞かれたら私は首を傾げざるを得ません。
猪や鹿を獲るのにわざわざエアライフルを使う理由ってなんでしょう?
捕獲難易度は上がるし、銃本体や周辺機材などイニシャルコストがかかり、ランニングコストも凄い安いわけでもなく、維持の手間もかかります。
え?射撃音が小さくないと獲れない猟場…?その猟場は果たして安全な猟場なのでしょうか?(棒読み)
一方、止め撃ちの道具としてはとても有用だと思います。だとしても精度が重要ですので、ハイパワーモデルだとしても6.35mmで50ft/lbs程度、7.62mmなら90ft/lbs程度を見ていれば確実でしょう。これはコストの安い標準ペレットで精度を失わない出力の目安です。
とはいえ止め撃ちといっても箱罠で近づいて使用できる、とか、括り罠で安全に配慮して10m離れて撃つのか、といった条件により適したパワーも変わってくると思います。
そもそもエアライフルで猪鹿猟をしても良いのか?
最後に大切な話です。
現在の鳥獣保護管理法、狩猟にまつわるルールでは、エアライフルで猪や鹿を撃つことは禁止されていません。
なぜかというと法律が施行されたときには、まだエアライフルのパワーは小さく、物理的に不可能だと思われていたため、わざわざ明記する必要がなかったためです。
そのため、現在では罠猟での猪や鹿の安全な止め撃ち方法としてエアライフルが使用され、これは恐らく多くの狩猟者の役に立っているはずです。
しかし例えばエアライフルで猪や鹿猟を行い、万一何か問題が起きたとき、いったいどんな結末が待っているでしょうか。
確実に仕留められない銃、静かさが有利な銃・・・もしエアライフルで猪鹿猟をしたいと思ってこれを読まれている方は、倫理的にそれが本当に問題がないのか今一度考えてみてください。
エアライフルで猪や鹿を獲ってはいけない、そんな規制ができたときには止め撃ちに使っていた多くの罠師の方々にも迷惑がかかるでしょう。
規制されていないからやってもいい、獲ってもいい、そういった解釈は大変危険だと思います。
自分が問題の当事者になり容疑を突きつけられたとき、きっと公安委員会はこう言うでしょう。『ダメとは言っていないが、良いとも言っていない』
というわけで、尻毛がボーボーの時の便のキレぐらい始末の悪い結論になってしまいましたが、兎にも角にも皆様それぞれが良識を持って安全に、人様に迷惑をかけずにエアライフルを楽しみましょうね。ということです♪
ではでは。
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