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元親友


わたしには親友と呼べる人がいない。

中学も高校も大学もなんとなく当たり障りない距離で仲良くしてきた子たちはいるけれども

結婚式でわたしに友人代表を頼んでくれそうな人は思い当たらないし、逆にもし自分が頼むことを考えても誰に頼めばいいのかわからない。


わたしには小学1年生のときから仲良くしていた同級生の女の子がいた。その子をMと呼ぶ。

Mとは家が徒歩5分ほどの距離にあり、弟妹も同級生だったので母親同士も仲が良く放課後お互いの家を行き来したり一緒に塾に通ったりしていた。

中学生になり別々の部活に入り交友関係は変わったが、わたしはなんでも話せる友人はMだけと思っていた。

Mは天真爛漫で人の悪口を言わずとても頑張り屋さんだ。顔もかわいい。そんなMを悪く言う人はいなかったし、みんなMがすきだった。わたしもだいすきだった。

Mはすごく天然で抜けてるところもあったが、そこすらもみんなに愛されていた。

同じ高校に進学し、Mは変わらず人気者だった。

クラスも部活も違ったが、時間が合えば自転車で一緒に帰った。くだらない話をしてたくさん笑った。わたしが友人関係で悩んでいるときは親身に聞いてくれたし、誰にも言えない好きな人のこともMには全部話した。こういう関係を親友だと思っていた。

先にも述べたがMはとても抜けている。約束をすっぽかされることもあったし、反対に約束の2時間前に迎えに来ることもあった。

色違いの傘を持っていた時はMが自分の色を忘れてわたしの傘を勝手に持って帰り、わたしは濡れて帰る羽目になったこともあった。

わたしだけではなくMの天然の被害にあった友人はたくさんいるが、みんな笑い話として受け止めている。

そうやって許してもらえるのはMの人間性あってのことだと思う。

だがしかし、年齢を重ねるにつれてわたしはそれが許せなくなってきた。

そして、みんながすきなMのことを自分だけが許せないことが嫌だった。

わたしもMをすきじゃないといけない。

幼なじみだから、親友だから、これからも仲良くしないといけない。

ずっとそう思っていた。


社会人になり、わたしは隣県に、Mは地元に残った。

隣県には学生時代の共通の友人も多く住んでいた。

Mとは、たまに電話をしたり、わたしの帰省に合わせて地元で会う程度になった。地元で会うときはMが車を出してくれて少し遠出をしたり、わたしの好みに合わせたお店を探してくれたり、カラオケに行ったり、わたしの中では年に数回の楽しいイベントになっていた。

何度かこちらに遊びにおいでと誘ったこともあったが、お金がないと言われたり、お互いの休みの都合もあり話が具体化することはなく、その事については特にそこまで気にも留めなかった。


高校卒業から10年、Mが結婚することになった。入籍は本人から直接聞いたが、結婚式を挙げることは母親経由で聞いた。

母親が先に知っていたことや本人から話がなかったことがずっと引っかかっていたが、ある日突然ポストに招待状が届いた。住所も知っていたので事前連絡は必要ないと思ったそうだ。

結婚式の日はわたしが小学生の頃からすきなアーティストのライブに行く予定の日だった。抽選に外れたり先行発売で出遅れたり、苦労して取ったチケットだった。

一緒に行く約束をしていた友人に事情を話し、1枚分の値段で2枚を譲った。

また少しMのことが嫌になった。

親友の一生に一度のことを心から喜べない自分が嫌になった。

結婚式当日、たくさんの旧友が参列していた。みんなは式を挙げること、本人から聞いたよね、ちょっとモヤモヤが渦巻いた。

披露宴でお決まりの思い出のスライドショー。そこでわたしは心臓が握り潰されるような気持ちになった。わたしに会いに来ることはなかった隣県に、別の友人らに会うためには何度も来ていたのだ。かなり卑屈な言い方だが、わたしは彼女にとってお金や時間を使い県を跨いでまで会うほどの友人ではなかったのだ。

そして友人代表の手紙。わたしは、Mと幼稚園から一緒のAがするものかと思っていた。しかし名前を呼ばれたのは中学からの友人のTだった。Tとそこまで仲が良かったことを知らなかった。

もういいや、そう思えた。

次の帰省のとき、Mには連絡をしなかった。避けるつもりはなかったので連絡が来たら会うつもりではいたが、特にMからも連絡はなかった。

Mは自分から誘うタイプではない。ずっと、彼女は受け身だからだと思っていた。しかし、単純な受け身では無いことに気付いた。彼女の場合、待っていればお誘いが来るのだ。この時までわたしは気付かなかった。

思い返せば、Mから誘われたことがあったのだろうか。20年近い付き合いなのでさすがに0ではないような気がするが、圧倒的にわたしからアクションを起こしている。

もしかしてわたしが勝手に「親友」という言葉に囚われ、執着し、ひとり傷付き腹を立てていただけじゃないのか。

みんながすきなものが、わたしには合わないことだってある。

環境でいくらでも性格はかわるし考え方も変わる。

昔すきだったものが合わなくなることもある。

親友がいなくても、新しい友人と深く付き合えばいいじゃないか。

少し晴れやかな気持ちになった。


こうしてわたしには親友がいなくなった。

もっと早く気付けていたら、自分の気持ちに正直になっていたら、また交友関係が変わっていたのかなと思うこともあるが、人生起こること全てがベストなタイミングと思っているので、これがベスト、なのだ。

“仲良くしなければならない”友人はいない。それはもはや友人とは呼ばないだろう。時間は有限。フェードアウトする人間関係も時には必要、と学んだ。


おわり







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