【考察】「舞台 少年ヨルハ Ver1.0」考察まとめ(再録)
※この記事は2018/03/09にTumblrにて公開した記事の再録になります。
移植・再録に伴い元記事は削除致しました。
また、移植に伴う改訂等はせず、当時のままにしてあります。
予めご了承ください。
■ 前提条件
一次資料(設定資料集、美術資料集、各舞台用パンフレット、各複製台本)は明らかな矛盾を除き原則として疑わないものとする。
実験M部隊・二号E型については各資料ではM002配属とあるが、本考察では劇中に倣い、本来の配属であるM001とする。
■ 11942年1月にロールアウトされた「9S」について
設定資料集における年表、及びゲームDエンドにおいて9Sのロールアウトは11942年01月30日となっている。しかし、「舞台 少年ヨルハ Ver1.0」においてプロトタイプである九号の存在が明らかになったことから、この厳密にはは11942年01月30日にロールアウトされたのは「9S」モデルではなく、九号モデルのロールアウトだったと考えられる。つまり、この「9S」は9Hであり、あくまで同時期に9Sモデルが他に存在していたわけではない。
根拠となるのは以下のとおりである。
コードナンバーは自我データに基づくものでり、基本的には同じ番号の機体が同時運用されることはない。
(大規模作戦時を除く/設定資料集P.283, Q10・Q11)同時に、コードナンバーは製造番号順につけられていると考えるのが妥当である。
そもそも実験M部隊の編成自体がプロトタイプ・実験機による編成であると考えられるため、この時点での正式モデルは存在しない。
男性型ヨルハ機体におけるA型、G型、H型は最終実験後、再フォーマットされS型に統合されることが決まっている。
つまり、この時点での九号モデルはM002所属の九号H型のみであると考えられる。
また、二号E型による処分が当初から決定されていたことからS型への統合に伴い九号H型の存在は記録上、抹消された可能性がある。
9Hを9Sと恣意的に公式記録上、記載しているのではないか。
また、ファミ通の記事には九号について「9Sのプロトタイプ的存在」と説明されている。たただし、これについてはソースとしての信頼性に欠けるため、論拠には含まないものとする。
■ 実験目的について
司令部が実験M部隊において密かに行っていたと思われる実験内容は、劇中にて言及されたストレステストのみではないように思われる。そこで、思いつく限りの目的を優先順位の高いものから挙げてみた。
(1) バックアップ機能の実地運用テスト
おそらく、幾つか考えられる実験目的のなかでも重要項目だったと思われる一つ。
四号が「はじめて聞く機能」だと言ったとおり、このバックアップ機能は最も初期のプロトタイプで編成された実験部隊によって遂行された真珠湾降下作戦時にはなく、なおかつ、M001が編成された時点でも存在しなかった機能と推測される。つまり、ヨルハ機体のなかでも男性型モデルである九号H型にはじめて実装された機能であり、そのためのデータ収集が実験M部隊に課せられた目的の一つだったのではないかと思われる。
三号曰くのストレステストも、単に彼らが語ったような過酷な戦場での耐久テストを目的としたものではなく、バックアップ機能の実地テストを前提としたものだったのではないだろうか。そしてその機能のために、結果的として九号の生存は実験M部隊にとって優先事項となっている。そしておそらくそれは、司令部が期待したとおりの結果でもあった可能性が高い。
M002の部隊編成の特性は多岐にわたるが、六号を除いた三機については後衛の編成となっている。二十一号と二十二号はその特性的にセット運用が前提である可能性が高く(後述: 双子モデルについて)、また、H型である九号は戦略的に後衛である彼らと作戦中、行動を共にする確率が高かった可能性がある。そこに前衛である六号を加えたフォーマンセルという最小構成の部隊であるM002は、穿った見方をすればすべて九号のための編成であるようにも見える。また、設定資料集における年表(P.281)には彼らM002部隊の記録しか記載しかない。これはつまり、実験M部隊のメインとなる観察対象が彼ら四機に――強いて言えば九号H型にあったのではないかと推測させる一因にもなっている。そしてこの機能故に、九号は二号E型にとって任務遂行上、最もネックな存在となる。
また、九号は自らを「臆病者」と述懐しているが、そもそもその性格設定自体が九号の生存率を上げるためのリスク回避策であった可能性がある。また、洞窟での爆撃後と輸送機上で六号に人質に取られた際に見せる恐慌状態と恐怖反応は、単純に怯懦な性格故と判じるには些か過ぎた反応に見えるため(本当に怯懦な性格であるならば、冒頭のように扱えもしない銃でもって応戦しようとは考えないのではないか)、「死」に対する極端な恐怖心と強い生存本能が植えつけられているのではないだろうか。
(2) サポート・システムの性能・運用テスト
SSは後にヨルハ部隊内にて導入される随行支援ユニットのプロトタイプ。実験M部隊に司令部が期待した実験目的の一つに、SSの性能、及び運用に関する実地テストがあったことは疑うべくもない。そのことはSSの配布後、その翌日にM002が初の実戦投入となったことからも窺い知ることができるように思う。
(3) 二号E型の運用テスト
男性型モデルである少年ヨルハにおける二号E型は、後の正式モデルである女性型モデルの二号E型――つまり2Bのプロトタイプに相当する。
真珠湾降下作戦後、バンカーに保存されていたA2のパーソナリティデータを解析した結果、二号モデルはE型適性があると判断(アーカイブ「機械生命体が保存していた記録」、設定資料集P.191、「音楽劇ヨルハ Ver1.2」パンフレット)。最新ロットに当該パーソナリティデータをインストールし、ヨルハ計画における機密保持担当として運用されることが既にゲーム中にて明かされているが、製造時期から考えても男性型モデルである彼は、その2Eモデルのプロトタイプに当たるものと思われる。つまり、司令部は実験M部隊における最終実験の一環として、二号モデルのE型適性を実地検証するつもりだったのではないだろうか。そして事実、音楽劇ヨルハのパンフレットにはその試用が開始されたことが記載されている。つまり二号にとっても、実際のところ実験M部隊の処分任務は知らぬ間に課せられた実験だったことになる。
また、M002におけるクーデターの発生日は年表上、11942年05月05日(世界史上においては1942年05月05日「マダガスカルの戦い」が開戦)となっており、鎮圧がその二日後とされている。しかし、実際にはこれは二号がM部隊に合流したのが11942年05月05日であり、クーデターが起きたのがその二日後と思われる。このことから推測するに、二号E型によるM部隊の処分は端から定められたものであったことは二十一号の台詞からも明らかではあったが、後に音楽劇ヨルハのパンフレットにおいてもその事実が明らかにされている。よって、実際にクーデターが起きようと起こらまいと、公式記録上、実験M部隊はクーデターを企てた罪により処分されたことになる予定だったのではないだろうか。
なお、上記のことからM部隊二号にはA2、及び2Bと同じパーソナリティデータがインストールされているものと推測される。このパーソナリティデータは性格・人格設定のためのものであり、自我データとイコールではない。
(4) パーソナリティデータの選別
「舞台 少年ヨルハ Ver1.0」パンフレットには、六号モデルの性格設定についての記録がある。これは戦闘、及び部隊編成とそれに付随する様々な環境下において有用性の高い性格設定を模索するためのサンプリングがあったことを示している。また、アーカイブの記録から、真珠湾降下作戦における実験部隊でも同様のサンプリングが行われていたものと考えられ、これらのデータ収集結果が正式モデルの性格設定を行う上で参考にされたであろうことは想像に難くない。
(5) ストレステスト
輸送機上にて四号の問いかけに対して三号が答えたストレステスト。しかし、既に言及したように、実験M部隊を使用したデータの収集目的が単なるストレステストだけに留まるものとは思えず、多角的なデータ収集が行われていたことはSSが九号に対して開示した、S型への配備転換と再フォーマットの件からも窺い知ることができる。つまり、ストレステストはあくまで実験の一側面であり、メインとなるデータ収集はもっと別のところにあったのではないか、と考えるのが自然だ。それが既に上述にて示した四項目であったと考えられる。
(6) 男性型ヨルハ機体のリスクベーステスト
これについては完全な憶測になる。
そもそも、なぜ男性型ヨルハ機体の開発が行われたのであろうか。男性型が女性型モデルに比べて戦闘能力、攻撃力共に高くなることはそのフレーム構造からも考えて容易に想定できる結果である。無論、既に挙げたような実験目的があったことは確かだ。だが、真珠湾降下作戦後にA2が脱走。その後、彼女は四年もの間、E型による追跡を振り切っている。そして男性型モデルが同様に逃亡やクーデターを企てた場合、抑え込むことが難しくなるだろうことも容易に想定できたはずだ。だからこそ、A2の二の舞を避けるためにも実験M部隊は最終実験後に処分されなければならなかったのだから。そしておそらく、ゲーム本編におけるS型が少年体に限定された理由も同じくそこにあるはずだ。
なら、仮にクーデターが起きることなく実験M部隊が想定を遥かに超える戦績と、部隊の円滑な運用、及び協調性や関係を築けていたのなら、彼らは処分されることはなかったのだろうか。そしてその後、正式な戦闘モデルとして配備されることになったのだろうか。
おそらく、答えは否だ。
男性型モデルは登場していない機体を含め、最低でも他にも分隊を構成できるだけの機体数が揃えられていたと考えられる。では、その登場していない機体である彼らはどうなったのだろう。
おそらく、同じような実験が他のエリアでも行われていたと考えるべきだ。そして彼らもまた、処分されたか再フォーマット後、S型に転換させられたものと考えられる。それは彼らもまた、司令部にとって思わしくない結果をデータに残したからだろうか。そうかもしれない。だが、実験M部隊の処分については実際の配備よりも前に決定されていたであろうことが音楽劇ヨルハのパンフレットからは読み取ることができる。果たしてそれは、機密保持目的のためだけだったのだろうか。バンカー、というよりも月面人類会議は、おそらく端から男性型の戦闘用モデルを正式配備するつもりはなかったように思う。
そもそも、ヨルハ計画は次世代型アンドロイドのための実験でしかなく、ヨルハ機体のすべては計画の終了段階で処分される予定であるはずだった。それが狂ったのは、ヨルハ計画の進行管理を担っていた随行支援ユニット・ポッド042とポッド153のA.I.に自我とも言うべきものが芽生えたせいだ。しかし、それがなければ完遂された計画においてヨルハ機体は「不幸にも機械生命体側の攻撃により全滅せざるを得なかった部隊」となるはずであり、その犠牲は人類不在の事実を隠蔽すると同時に旧型アンドロイドたちの志気を上げ、実験によって得られたデータを基に次世代型アンドロイドを新たに作り出すことが本来の目的であった。ならば、後々ハイリスクとなる火種を自ら製造する意味はない。ブラックボックスの暴走により敵化する機体(アーカイブ、設定資料集P.191, 【極秘】ブラックボックス・P.282-283, Key Word: ブラックボックス)もいたのならなおのこと、一定以上の戦闘能力の向上は避けねばならなかった。
つまり、実験M部隊とは男性型ヨルハ機体の危険性を検証するために編成された部隊であり、摩耗されるだけの消耗品であり、故に非常に都合のいいモルモットだったのだろう。
■ 男性型モデルにおける機体性能差について
M001の三号からM002の二十二号まで、男性型ヨルハ機体の製造は比較的短期間に集中して行われたと考えられるが、そのなかでもM001とM002にはおそらく明確な機体性能差があると考えられる。それというのも、M002の四機は一つの特性に特化するように作られている可能性があるからだ。その最もたるのが、通常の約10倍の保存領域を持ったH型である九号だろう。あとは実験目的のバックアップ機能の項で述べたとおりである。
また、M001の外見モデルが青年型であると予測されるのに対し、M002に関しては確実に少年型であると考えられるのもその根拠に当たる。
では、なぜM001の外見モデルが青年型であると考えられるのか。
M001は男性型ヨルハ機体の実験機のなかでも初期に作られた機体であり(「舞台 少年ヨルハ Ver1.0」パンフレット、三号、四号キャラクター紹介)、その基本性能は女性型モデルに準じていると考えられるためだ。
二号、三号、四号共に攻撃型のモデルであることから、高い攻撃能力を有した機体を製造するにあたり、最初からわざわざ外見モデルをフレームが軽量化されている少年型に固定する道理はない。先に述べているリスクベーステストに矛盾するように思われるかもしれないが、リスクは高ければ高いほど主張が通りやすいという点から鑑みてもこれは矛盾には当たらないと思われる。
(※二号に関しては少年ぽさが多分に残る雰囲気があるため、外見に関しては一概に青年型とも言いきれないが、性別以外のベースがすべてA2に準じるものであるとすると、身長を含め、M002寄りになるのも不思議ではないように思う。)
以下はその機体性能差と各特性、運用目的を簡易的にまとめたものだ。
M001とM002に関しては既に述べているとおりだが、M001のなかでも三号と四号にも機体性能差があるのではないかと推測される。それは、三号曰く、四号のほうが彼よりもアタッカーとしての才もガンナーとしての才も勝っていた、という点にある。そして逆に言えばこれは、三号にもガンナーとしての適性はあったものの、より適性が高かったのがアタッカーだったということだ。つまり、彼ら二機共に二つの攻撃型特性を持っていたということになる。何故か。ここで鍵になるのが汎用攻撃型であるB型の存在だ。
実験M部隊が結成された当初、B型はまだ存在していなかった。しかし、開発構想があったのは疑うべくもない。ならば当然、その試作機が存在するはずだ。それが真珠湾降下部隊に続く実験機、彼らM001なのではないだろうか。
そのなかでも一等初期に作られた二号と三号は準ハイブリッド型ではあるものの、比較的アタッカーとしての特性に適性が偏っている。それに対し、三号を上回る適性を両方のタイプに発揮し、安定した特性を持つ四号は完全なハイブリッド型であると考えられ、B型の雛形となったモデルである可能性が高い。作中には登場しない五号もまたその可能性が高いが、これについては情報がないので割愛する。
■ 三号の三式戦術刀について
実験M部隊の通常武器は、遠距離型のガンナーである二十二号と、三式戦術刀を使用する三号を除き、黒の誓約となっている。これはウェポンストーリーを踏まえてのことであると思われるが、それではなぜ、三号はアタッカーであるにもかかわらず三式戦術刀を使用していたのだろうか。
三号の戦闘スタイルを鑑みるに、基本的に彼の攻撃は俊敏性よりも力任せに叩き斬るというような、大振りで雑な攻撃が多い。そうなると戦闘時における武器の扱いも比較的乱暴になりがちであると考えられることから、より攻撃力に優れ、耐久性の高い旧式モデルである三式戦術刀を好んで使っていたのではないだろうか。簡単に言ってしまえば脳筋の思考回路である。
対して、二号、四号、六号などは俊敏性の高い黒の誓約のほうが合っていたと思われる。
一方で、三号の行動原理の根底には常に四号の存在があったことは疑いようもない。同じ武器を使用しても到底、埋められない力差、力量差が四号との間にある以上、その分を武器の性能でカバーしようとした可能性はある。三号と四号の間に機体性能差があると考えた所以もそこにある。
三号のなかには常に四号に対する嫉妬と劣等感、ライバル心と憧憬があり、彼に勝つことによってその横に並び立ちたいと考えていたのだろう。
なお、三号が本当に汚染されていたか否かの答えは出ている。
複製台本P.144の最後の行に、
と書かれていることから、三号は汚染こそされているものの、自我を残したまま自らの意志で四号と戦ったことが窺える。
また、この四号との戦闘直前に三号はゴーグルを外しており、至近距離でその目を見ている四号には汚染の事実は誤魔化しようがなかったはずである。そのため、汚染の事実そのものが四号との戦いを望んだ三号による演技だった可能性は極めて低い。それは最期に「頼む」と告げた際に見せていた痙攣からも明らかであり、だからこそ、三号は望んだのだろう。自らの自我が残っているうちに、四号の手によって終わりを迎えることを――。
■ 二十一号と二十二号、双子モデルについて
(1) 双子モデルの意味
二十一号と二十二号が双子モデルであると知らされた際、多くの人が「なぜ禁止されたはずの双子モデルがヨルハ機体で製造されているのか」という疑問を抱いたことは想像に難くない。しかし、その疑問に対する明確な解答は公式からは開示されていない。代わりにまず真っ先に疑ったのは、彼らは本当に双子モデルだったのか、という点であった。その理由は実際の舞台上では告げられることのなかった、複製台本に見られる汚染された二十一号による「パパなんだよ」という台詞である。この台詞の意味は果たして何だったのだろうか。単に汚染された二十一号が相手の動揺を引き出すためだけに告げたブラフだったのだろうか。それにしては随分と奇妙な台詞のように思う。第一に、あのときの二十一号は汚染されながらも比較的本心を語っていたように感じられるため、余計に舞台上では削られたあの台詞の異様さが際立つのだ。
そこで第一にまず考えたのは、上述のように実際には同時製造の双子モデルではなかった、という可能性だ。そして次に考えたのは、ヨルハ機体における双子モデルの定義である。
素体が同じであること、容姿が似通っていること、同時製造であること――。
これらは双子モデルであることを示すための最低条件でしかないように思う。例えば、双子モデルが禁止となった原因であるデボル・ポポルのモデルは搭載されているA.I.が同じであった可能性が考えられる。では、二十一号と二十二号はどうだったのだろうか。機械生命体のコアを流用したブラックボックスを搭載した彼らが双子であるための条件を考えた時、疑ったのは二機に利用されているコアは別個のものであったか否か、であった。つまり、同一のコアから採取された欠片を利用している可能性である。
そもそも、ブラックボックスが掌サイズであることを考えると、あの中に機械生命体のコアと核融合反応炉を組み込むことは不可能のように思う。反応炉が搭載されているという情報が偽装である可能性も考慮したが、機体の出力を考えるとそれはないと思われる。ならば、次に問題となったのが反応炉がブラックボックスの内にあるか外にあるか、であったが、自爆で生じるエネルギーを考えるとやはり、ブラックボックスに内臓されていると考えたほうが自然ではある。しかし、ブラックボックスを抜いた状態であっても活動そのものは可能であるため、これに関しては確たるものを判じる論拠が足りない。あるいは、予備電源的なものがあるのかもしれないが、これについても憶測の域を出ないため保留としておく。問題なのは使用されている機械生命体のコアだ。
それは本当に別個に採取された一つのコアだったのだろうか。そうではなく、一つのコアを分割して彼らのブラックボックスに使用した可能性はないだろうか。
気になったのは、妙に二十二号の言動が幼いことである。理性的で責任感の強い二十一号に対し、二十二号の言動は対照的なまでに幼い。それは、本当にインストールされているパーソナリティデータだけの問題なのだろうか。もし、同じ一つのコアから採取された欠片をブラックボックスに使用しており、半分、ないしはそれ以下の不完全なコアが二十二号に与えられたとしたら――。その不安定な影響が二十二号の言動に出ていたとしたらどうだろう。もしそうであるならば、二十二号にとって二十一号が「兄」であり「父」であるという理由にならないだろうか。
しかしながら、この説を裏付けるだけの証拠は何もない。あくまで憶測の域を出ない仮説であり、立証するための手段はどこにもない。
(2) 二十二号の適性について
汚染された二十一号が口走ったことによれば、二十二号は「なぜか」アタッカーとして不合格だったためにガンナーになったのだという。しかし、個人的には二十二号の特性は、二十一号ありきのものだったのではないか、と考えている。それというのも、スキャナーとガンナー、二機の特性を鑑みるに彼らの運用はセットであることが前提としている可能性が高いからだ。
その理由の一つには、二十一号モデルの性質にある。真珠湾降下作戦に参加した実験部隊のスキャナー二十一号、そしてゲーム本編に登場するオペレーター21O、そして実験M部隊の二十一号S型。この三者には共通して「家族」に対する憧憬と執着が見られるのは既知のとおりだ。音楽劇ヨルハにてスキャナー二十一号は部隊の仲間を家族として捉えていた。そしてオペレーターである21Oは家族に憧れ、自らの担当である9Sを弟のように思っていた。では、同じパーソナリティデータを与えられた実験M部隊の二十一号に、その欲求を埋めるために「家族」を与えてみたらどうなるのか。その被験モデルが二十一号と二十二号という双子モデルであった可能性は低くないように思う。しかし、近すぎたこの二機の関係が互いの依存度を深め、二十一号をクーデターに駆り立てる要因となった可能性は否めない。逆に、21Oは9Sとの関係性に一定の距離があったためにある程度安定していた可能性が考えられる。
次に、スキャナータイプである二十一号と遠距離型ガンナーである二十二号の特性は、非常に相性がいいという点にある。共に後衛である彼らだが、実戦配備直前に二十一号は二十二号に対してこう告げている。
それは彼に与えられた役割ではあるが、彼らをセットで運用する場合、二十一号は二十二号のスポッターとしての役割を果たしていたはずだ。二十一号による目標観測、標定、警戒等は二十二号の射撃精度を上げるのに必要不可欠なものであり、非常に効率のいい適材適所と言える。
■ 昼の国と夜の国の境界線について
以下の図は既に判明している情報を元に、参考程度に昼の国と夜の国の境界線を割り出してみたものである。
北アメリカ大陸、及び南アメリカ大陸は夜の国に属している。
(設定資料集、及び「音楽劇ヨルハ Ver1.2」パンフレット)マダガスカル(少年ヨルハ)、ハワイ諸島(音楽劇ヨルハ)、そしておそらく日本は昼の国に属している。
厳密に言えばこの境界線は赤道に対して直角に引かれる可能性が高いが、あくまで大雑把な推測に基づくものと割り切っていただきたい。
なぜこのようなエリアに分けられるのかは公式において「地軸が歪んでいる」という情報が提示されているのみではあるが、おそらく、所謂ポールシフト現象が置きたものと推測される。そのため、本来は北極点と南極点を結んでいたはずの地軸の赤道傾斜角(地球の場合は23.43度)が公転面の法線に対し、ほぼ横倒しになってしまったため、このようなエリア分けになったと思われる。
しかし、公転を続ける限り半周したあたりで昼夜が入れ替わるはずである。仮に月と同じように自転と公転周期が同じであるならばわかるが、それも地軸が横倒しになっている以上、その推論は無意味である。少なすぎる情報から推測できるのは、常に昼のエリアが太陽を向いている可能性だけである。
月と地球の距離が離れることによって地軸の傾きがひどくなった可能性も考慮したが、新宿から一万年程度で開く距離には限りがあるため、この案も現実的ではない。どちらかと言えば太陽の膨張と黒点の消失による活動最小期を懸念したほうが余程、現実的なのではないだろうか。また、それに伴う地球環境の変化にも疑問が生じるが、正直、このあたりのことについては考えるだけ無駄であると結論づけざるを得ない。把握できるのはあくまで昼の国と夜の国の境界線まであり、それ以外のことについては今後の情報開示に期待するしかない。
■ その他
真珠湾降下作戦部隊の結果を受け、擬似記憶はインストールされていないものと思われる。
ヨルハ機体には現地のアンドロイドと協調して戦うことが義務づけられている(二十一号二十一号とロータスの会話より、複製台本P.61)ことから、旧型アンドロイドは無条件で味方と認識されるようにインプットされている可能性がある。また、IFF(敵味方識別装置)による識別判定は「機械生命体のコア>ヨルハ機体の識別登録」である可能性が高い。
実験M部隊には暴走モードは搭載されていないが、二十一号は海底サーバーに爆弾を持ち込んでいるため(複製台本P.58)、実験途中での自爆防止のためか正式モデルとの過渡期に製造されているためか、自爆モードも搭載されていない可能性が高い。
四号は返信のない司令部の対応について九号がどうしてと問いかけた際に「可能性が多すぎて予測する気にもならん」と返している。また、輸送機上にて三号に「おまえもこちらに来い」と誘われた際には「行ってどうする。逃げる場所なんてないぞ」と悟ったように返していることから、口にしないだけで司令部への不信を抱いていた可能性がある。
二十一号によるバンカー、及び教官のメールに対するハッキング行為はSSを通じて司令部に筒抜けであったか、そもそも誘導されていた可能性がある。
正式モデルのS型が少年型に限定されるのは、有事の際における抑え込みを容易にするためではないか。