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早生まれの姫ちゃん(ショートショート)【短編集:創作1000ピース,42】

 【はじめに】
これはオリジナル短編小説です。創作1000ピース 第42作品目。

3月生まれの姫ちゃんは、背の順でいつも先頭だった。
 保育園のクラスで一番小さい。一学年下の園児にも追い抜かされていた。

 姫ちゃんはお友達に比べて言葉が不得手だった。
 言いたいことがあっても、何と言えばいいのかわからなかった。
 言葉が思いつかない。
 とっさに出ない。

 積み上げていたブロックを理不尽に壊された時も、「やめて」と言えなかった。
 悲しい想いをしたことを相手に伝えられず、自分の中に閉じ込めた。
 悔しくて、悲しくて、震えて泣いた。

 口達者なお友達に言い負かされてしまうことがほとんどで、望まないおもちゃ交換にも笑って頷いた。
 どんな言葉を発すれば良いかわからず、いつも笑って頷くだけだった。

 同学年なのに子分のように扱われた。
 誕生日がまだ来ないせいで「小さい子」扱いされていた。

 姫ちゃんは悔しかった。給食で出てくるおなじみのヨーグルトのフタがめくれず、困っていた。
 いつも隣りのお友達にあけてもらう。
 
 優しさに感謝するよりも、クラスでただひとりあけられない自分が惨めだった。
 涙で肩をふるわせながら、「ありがとう」と言った。

 4月生まれのマリちゃんは何でも出来た。
 4歳で名前が書けた。ひらがなも読めた。お箸も使える。
 そして、成長も早くて背も高い。

 そんなマリちゃんは姫ちゃんにとって憧れの存在だった。

「姫ちゃんも大きくなりたい」

「字が書けるようになりたい」

「お箸でご飯が食べられるようになりたい」

 姫ちゃんが小学生になってもマリちゃんの背中を見る毎日は変わらなかった。
 みんなに追いつきたい気持ちでいっぱいだった。

 姫ちゃんは頑張った。
 たくさんご飯を食べ、牛乳を飲み、毎日走り回って遊んだ。
 書き取りの宿題も毎日1ページ以上進めていた。

―早く大きくなりたい―

* * *

「んー……。届かない」

 マリちゃんは背伸びをして黒板消しに向かっていた。

「何で先生、こんな上の方に書くの……!?」

 背伸びをしても黒板消しが届かない。

「大丈夫? 私が手伝うよ」

 頭上から声が聞こえる。

 小学6年生になった姫ちゃんだった。
 姫ちゃんの背はマリちゃんをとうに追い越していた。

「マリちゃん、無理しないで踏み台使ったら?」

 そう言うと、つま先立ちで楽々と黒板上部の字を消した。
 あんなに小さかった姫ちゃんは、後ろから数えた方が早いくらいの身長になっていた。

「早く大きくなりたい」
 その気持ちが、早生まれの姫ちゃんを大きく成長させた。


*** 創作1000ピース ***

 たくさん書いて書く練習をするためにまずは1000の物語を書く目標を立てました。形式は問わず、質も問わず、とにかく書いて書いて、自信と力をつけるための取り組みです。

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さわなのバックヤード[創作RooM7号室]
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