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無限画廊(ショートショート)【短編集:創作1000ピース,30】

【はじめに】
これはオリジナル短編小説です。創作1000ピース 第30作品目。

 不定期で開催する画廊があった。
 ここは夕暮れ時の繁華街。賑やかで華やかな大通りに立ち並ぶ路面店と違い、どこか陰気くさくて時が巻き戻ったような路地裏にある雑居ビル。故障中のためエレベーターは使えず、外階段で5階まで上がる。非常階段の無機質な金属と靴底がコツコツと乾いた音を響かせる。

「いらっしゃいませ。無限画廊へようこそ」

 やけに重たい扉を開くと開くと、ジャケット姿の男性が出迎えた。襟元にたっぷりとレースをあしらった白いシャツに青い石がついたループタイをしている。近代ヨーロッパの貴族を思わせる風貌。その顔は青白く、小柄で華奢な姿は少年を思わせる美麗な男性だった。

「絵画鑑賞のお客様ですね。こちらへどうぞ」

 細長く綺麗な指先で誘う。
 雑居ビルの外観からは想像ができないくらい、店内は広く、先が見えない長い長い廊下が続いていた。

「こちら、当店名物の無限回廊です。迷子になれば二度と現世には戻っては来られません。ご注意を」

 不吉に微笑んだ。笑みで歪んだ唇の端に不気味さを含ませながら、簡潔に注意事項を述べた。

「私からけして離れぬよう、お願いします。さて、お客様がお気に召す絵画は……」

 壁を埋め尽くす絵画に目を配り、彼は無限回廊を歩き出す。
 途端に黒いモヤがかかり、廊下の壁が裂けはじめた。蠢きながら左右に道を作り、一本の廊下に十字路ができた。新しく生まれた廊下の壁にもびっしりと絵画が掛けられている。

「早くついてきてください。"彼ら"は生きていますので飲み込まれてしまいますよ」

 残酷な言葉とは裏腹に、彼は優しく妖艶に笑っていた。
 彼の三歩後ろを歩き出す。

 "彼ら"とは絵画のひとつひとつを指していることは時間がかからずとも理解できた。重い空気がまとわりついてくる。"彼ら"が口々に「こっちこっち」と語りかけてくる。絵画は液晶画面に映った動画のように刻一刻と変化し、色や形を変えていく。

 私は鮮やかな光彩に目を奪われ、吸い込まれるように手を伸ばした。

「お客様」

 彼が私の手首を強く握った。

「触れてはなりません。絵画の世界に取り込まれてしまいます」

 我に返って、後ずさりした。すべての絵画が空間を吸い込むように息をしていた。室内なのに微かに私の髪がなびく。

「もし、その気があるのなら、物語の住人になってもよろしいんですがね」

 優しい語り口に背筋が凍った。
 飲み込んだ生唾は甘かった。怖さの中に期待と高揚感が混じっていた。

「さぁ、参りましょう。ここは欲望が渦巻く創作の世界。今も新しい世界が生まれ、その物語は永遠に続いていきます。きっとあなたのお好みの作品が見つかることでしょう。」

 妖しく光る彼の瞳に魅せられ、終わりの見えない回廊の奥へ奥へと私は誘われていった。

 私は確信する。もう二度と自分の世界には戻れないだろう。

 初回投稿の内容を加筆修正し、pixivに投稿しました。
 pixivの『3セリフで沼らせる マンガ原作ストーリー』フリー部門に参加しています!


*** 創作1000ピース ***

 たくさん書いて書く練習をするためにまずは1000の物語を書く目標を立てました。形式は問わず、質も問わず、とにかく書いて書いて、自信と力をつけるための取り組みです。

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