耳切り(ショートショート)【短編集:創作1000ピース,56】
【はじめに】
これはオリジナル短編小説です。創作1000ピース 第56作品目。
ホラー、バイオレンスです。ご注意ください。
*
画家仲間の彼が去ってから1週間後、僕のもとに小包が届いた。
送り主は彼だった。
ひとりきりになったアトリエ兼共同部屋は広く感じられ、僕は寂しさを覚え始めた頃だった。
些細なひとことで、彼を怒らせ、失望させてしまったことに申し訳なさを感じながら、小包の包装を解いていく。
悪気はなかった。
そう自分に言い訳しても遅い。絵画の構図から題材、画材に至るまで、毎日絵のことを僕に語っていた彼が1週間も音沙汰なく離れていたのだから、怒っているのも無理はない。
芸術家は繊細だし、こだわりが強い。
僕もそうだけど、「肖像画の耳の形が変だ」と意見したことは間違っていないと思うし、撤回するつもりもない。彼のためを思って言ったアドバイスのつもりだった。
彼が僕から離れてしまうのはしょうがない。芸術家たるもの、考えが相容れず、道をわかつことだってあるだろう。
ただ、元気だろうか。元気でいてくれればそれでいい。絵は売れただろうか。
それだけが気がかりだ。
部屋には飛び出した彼がそのままにしていった絵が転がっている。そのうち彼の新居に送ってあげよう。
そして、「すまなかった。どうかお元気で」と手紙を添えよう。
妙な視線を感じ、その方向を向いたら、彼の肖像画が僕を見ていた。
尖った耳が印象的で、寒くもないのにゾワっと鳥肌がたった。
ぼとっ。
開いた小包から何かが落ちた。それはガーゼのような布で包まれており、赤く染まっていた。
……血生臭い。
まさか。
急に血の気がひき、気分が悪くなる。
赤い斑点がついた手紙を開くと、書き殴ったような字でこう綴られていた。
『君は耳の形が変だといったね。それなら、本物と見比べてご覧よ。ぼくの耳は本当に尖っているんだ。君が納得するまで、ぼくは君のところに帰ることはないだろう』
「ひっ!!!!」
僕は悲鳴を上げた。
床には、彼自身の手で顔から切り落とされた彼の耳が転がっていたのだ。
*
モデルはゴッホの耳切り事件です。
画家仲間のゴーギャンに「耳の形が変だ」と言われたことがきっかけで、ゴッホは自分の耳を切り落とし、娼婦に送りつけたと言われています。
そのエピソードから着想を得て、創作してみました。
*** 創作1000ピース ***
たくさん書いて書く練習をするためにまずは1000の物語を書く目標を立てました。形式は問わず、質も問わず、とにかく書いて書いて、自信と力をつけるための取り組みです。
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