冗談

「海だなぁと思って」

港町のテラスで、
君は当たり前のことを言ってみせる

晴れた日には、いつもわざと、
クラウディー・アップルを頼んでみせる

優しく海が薫る店内に夕陽が差込み始める頃、
グラスにジュースを少し残し、
君が言い始める冗談に、
わたしは渾身の防衛戦

「アップル・ジュースが、
 夕陽より紅くなればね」

なんて、言ってみせた


「雪は、冬の花だよね」

と当たり前のことを言ってしまったわたしに、

「じゃあ、花火は、夏の夜空の雪だね」

と返す君の横顔は得意気で、

「冬の切なさは、夏のものじゃないじゃない」

と必死に横を向いてみせたのに、

「春の切なさも、秋のものじゃないよ」

と笑って、君はこっちを向いた


そして、不意に君は言う

「君が、僕の言葉だ
 この世界に、君がいる」


だから、

「季節がズレても、
 わたしは、君が好き」

と言ってみた


そしたら、

「時空がズレても、
 僕は、君が好きだ」

と君は言った


ふたりは、普通の恋をしていた

いいなと思ったら応援しよう!