DoA『青い窓を見上げて』 あとがき
この記事はTRPG『Dead or AliCe』用サプリメント『救世主の箱庭』収録シナリオ『青い窓を見上げて』について、シナリオ作成者の水面が色々書いた記事です。あとがきというかほとんどシナリオライティング上での解説ですねこれ。ネタバレ等ございますのでご理解のほどよろしくお願いします。
デスゲームの準備の傍らで
Dead or AliCe製作者のうたさんから、サプリメント『救世主の箱庭』が出ること、シナリオを収録したいということを聞いて、そのために書き下ろしたシナリオが『青い窓を見上げて』(以降青窓)です。デスゲーム開始が20/11/15で、書き上がりが20/11/8くらい。書き終わった直後は、1回戦敗退者に回したいんだよね~~とか呑気に言ってたんですがデスゲームは多忙を極め、まったくそんな余裕はありませんでした。
裁判を最大のものとして飾るためには
さて、戦闘がメインにあるシステム(TRPGに限らず)は、基本的に戦闘をして勝つことで、お話が進むように作らなければいけません。いけないってことはないんですけど、ゲームのデータはどうしても戦闘を意識して組みますし、コンピュータのRPGなら、特にボス戦はかっこいい音楽が流れて、前後にセリフやイベントなんかがあっちゃったりして、とっておきのイベントになるように作られてますよね。
DoAの戦闘は『裁判』と呼ばれ、セッションの最後を締めくくる大きなイベントです。お茶会も基本的には裁判で有利に運ぶように作られていますから、データ的には裁判の準備のタイミングになっています。
ですので、裁判がクライマックスというか、大きな意味合いを持つものとしてシナリオを作ろう、とまずは思いました。お茶会全体の流れがあって、それが裁判という最後の戦いに掛かってくる。ここまでの全てが乗っかる大切な戦いにしたい。
というわけで、
最後の戦いに最大のコンフリクト『仲間との戦い』を置こう!
と思いました。書きやすいし……。
(こんな風に物語の枠組みで考えているときの私は人の心がないです)
しかし、仲間と戦うにしても、ぽっと出のキャラを仲間だ! と言われてもなかなか重みは出ません。特に、裁判が配置されるのは最後です。ここで、設定だけの仲間が出てもあまりコンフリクトになりません。(コンフリクトがなんぞやとかは各自調べてね)
序盤に出てくるコンフリクトは、そのキャラクターの設定というか、これまでというか、経験というか、そういうものを表現するためのコンフリクトであって、このキャラはこういうことに強い動機を持っているキャラクターですよ! という紹介に使うものですが、
終盤に出てくるコンフリクトは、それまで、今回のお話の中で積み上げてきたものを表現するためのものだと思っています。
ですから、最後に『仲間との戦い』を置くということは、お話の中でその仲間が仲間であることをちゃんと積み上げて、また、そんな仲間を殺す意味、決心、理由などを表現する必要がある、ということです。本当は出来るならばこんなことはしたくないというような気持ちと、これを自分たちがするしかないという気持ち、その両方を抱けるように準備しなければいけないということです。
テーマは『30日ルール』
そこで便利だな、と思ったのが、Dead or AliCesの30日ルールです。30日に一回裁判で救世主を殺さなければ死んでしまう、亡者になってしまうというこのルールは、仲間と戦うに至る理由としてぴったりだな、と思いました。何より亡者になってしまえばもう戦うしかない、倒すしかないわけです。どうしたってやっぱりやめた、ということにはならない。
それに、30日という日数もいい。この世界にいるだけで支配的な日数だし、30日間で1つのセッションが出来上がるというのは単位として美しいし、前述したとおり、仲間が仲間であることを積み上げる上でぴったりなルールです。そして救世主が救世主を殺さないといけないこと、というのはこの世界の残酷さを示すぴったりのシステムだし、そのシステムを遂行しないものはそのシステムに殺されるというのも一貫した要素です。
というわけで、30日ルールを遂行できなくなった仲間と、30日旅をして、最後に亡者化したその男を殺すシナリオになりました。
そして、死の定めがわかっている旅路、となると、私の中ですぐにピンときたのは『ノッキンオンヘブンズドア』というドイツ映画です。この映画では、もう後がないとわかった男たちがやり残したことをこなしながら、海を見に行くというお話です。二人ははじめ初対面なんですが、ドンパチしたり、それぞれのやりたいことをこなしたりしているうちに、本当に気の置けない仲間になっていく。だからこそのラストシーンが本当によく……。
というわけで、それじゃあDoAの世界は空が雲に覆われていますから、海ではなく空を見に行くシナリオにしよう! それから、クエストというDoAのMODをつかって、やりたいことリストを叶えていくシナリオにしよう! と思いました。やりたいことリストの中身もノッキンオンを大いに参考にしました。さて、これで大枠が出来上がりました。
導入とPCの誘導
はじめに考えたのは、もう人を殺さないと選んだことを男が打ち明け、初めから空を目指すシナリオです。多分これでも普通に面白いシナリオになると思います。でも、おおよそ以下の理由で不十分な導入だと思いました。
というわけで、男は置き手紙一つで何も言わずに出て行くようにし、PCたちにそれを追わせる形にしました。設定上仲間だけどいきなり話し合いは微妙ですが、設定上仲間の男が急にいなくなったところを追いかけよう、とPCに思わせ行動することによって、逆に、PCはその男を追いかけようと思うほどに仲間だと思っている、という心理、関係を持たせ、誘導することができます。ハンドアウトで与えられるものは設定ですが、シーンや行動として、お話の中で実際に体現させることで、それが初めて本物になると思っています。
こうすることで、いなくなった男を追う、という行動から始まるため、動きやテンポが生まれますし、動揺などをロールしてもらうこともできる。それに、なんで男がいなくなったのか? それは悪意あるものなのか、善意なのか、騙そうとしているのか、敵対しようとしているのか? そういう謎が生まれます。はじめに男に抱く印象は疑念や叱責、追求。そうしたマイナスの感情からプラスの感情に転じる余地を話の中に作りたいと思いました。
三幕構成、選択、心の疵と謎
そういうわけで、このお話はまず、男に対して疑念や叱責から始まります。
そして男に追いついても、仲間であった男は刃を向けくる。PCたちにとっては、いなくなったら追いかける、それくらいの関係であるのにも関わらず。
PCは自然と問い詰めるでしょう。どうしていなくなるのか。男もいよいよ逃げ場がなくなって、しぶしぶそれに答える。ここまでが、いわゆる三幕構成の序になります。序は、誰が何をするストーリーかを示すもの。ここから空を見に行く、というお話の本体が始まるのです。三幕構成で言われるセントラル・クエスチョン、一番の課題は、大切な仲間と避けがたく別れることになったとして、残された時間をどう過ごし、どう向き合い、どう別れるのか、というのを明確にすることであり、そこにキャラクターの個性が顕れます。
ここから、男との本当の別れが始まります。
しかし三幕構成においての第二幕は、対立、と呼ばれます。これは何も男と反目するということではなく、色々な障害にぶつかる、ということです。何かをやろうとすると、その障害と対立しないといけない、ということです。
空を見に行く中で、やりたいことをやろうとするなかで、色々な問題に直面する。ものごとは一筋縄にはいかないけれど、それでもやろうとする。お茶会やクエストの判定。何をどの順でこなすのか。そんな風に考えてどうにかしようとすること、それを第二幕に当てます。
ここで、30日ルールがまた活きます。お話において、タイムリミットというのはとても便利です。さっとタイムリミットを振りかけるだけで簡単に美味しくなるお話が結構あります。利用しない手はない。ですので、やりたいことはいっぱいあるけど、全部は出来ないかもしれない。どちらが限られた時間のなかで、男とどう過ごすのか。努力して、工夫して、いかに悔いなく過ごすのか。
TRPGはPC,PLに選択させることが大切とよく言われます。お話としても選択は重要で、それを意味あるものにするには、AとB、簡単には決められないようにすることです。AとBの両方を選びたい、しかし片方しか選べない、というのはコンフリクトそのものです。ですので、意図してやりたいことリストはすべては完遂できないバランスにし、選択させるように作っています。
そして、心の疵。Dead or AliCeの中核となる心の疵! データ的にも設定的にも、お話的にも、一番重要なところに置かれている心の疵システム! このあらゆる面で重要になっている、そのフレーバーとデータの一体感がDead or AliCeは本当によいですよね。
PCたちはみんな魅力的な心の疵を持ってきているでしょうから、そういった心の疵によるアレソレが表に出てくるだけでDoAはお話になります。舐め合うことで仲間であることを確かめてもらうことができる。
また、心の疵はデリケートなものです。男がこの世界を発とうする本当の理由を聞き出そうとする、なにやらはぐらかされた気がする謎を知ろうとする、いなくなろうとする男のことを本当に知ろうとするには、抉らなければいけない。よくDoAをやっていると、舐め抉り、抉り舐めという言葉を聞きます。舐めも抉りも表裏一体で、舐めるように抉ることも出来れば、抉るように舐めることもできる。これはつまり、相手の心の疵というデリケートな部分に触れるということは、それが抉ることにも癒すことにも、簡単に転じるものだということだと思っています。
男について知ろうとすることで、本当の事実や、そこにある苦悩、苦しみをわかちあうことになります。はじめにいだいた疑念や叱責から、同情や共感、離れがたさに変わる。この変化をもって、初めから『仲間です』とハンドアウトの設定に書かれたものだけでなくて、お話の中でもう一度、男とPCは本当に仲間になる。
そして同時に、30日ルールの過酷さ、世界の残酷さをあらためて確かめることになる。事実を知っていくなかで、そんな過酷な世界の中、こうして仲間同士でやりたいことをどうにかやろうとすること、その楽しい時間の重要性、そしてそれが今しかないということ、それを自然に受け入れていく。こうすることで、本当は出来るならばこんなことはしたくないというような気持ちと、これを自分たちがするしかないという気持ちの準備をしていきます。
21日が過ぎ、楽しい時間が終わり、それから狂飆の頂へと登ります。今までのムードから一転して、まるでこの世の地獄のような状況は、過酷な世界、現実の象徴です。もはやこの先にはどうしても別れしかない。うまく行くんだかなんだかわからないけれど、男が死に、亡者化することは絶対に避けられないことを知っている。(完成版においては)30日ルールがあるから、この山を登りはじめれば、男を殺さなければ共々亡者になってしまう、という後に引けない状況を作ることにもなる。山に登りはじめれば、もう全くのそこは死地ということです。
同時に険しい山道はさらに、30日の間に本当にたどり着けるのかはわからない。またしても30日ルールが立ちはだかります。しかし、この障害に挑む時点で、もうPCは決定的な別れを受け入れているはずです。もう準備はできていて、あとは解決するだけ。第三幕です。
ここまでくれば、もう頂上のシーンで、シナリオ上の課題はありません。もう全部の準備ができていて、言葉を交わし、そして、裁判をするだけです。Dead or AliCeは裁判で終わる。30日の最後に裁判がくる。そのための準備はもうなされているはずです。
オープニング
というわけで、このシナリオは30日間です。でしたら、オープニングでやることは、やっぱり救世主を殺すことです。救世主を殺し、男にとって……仲間4人の最後の30日間が始まる。救世主を殺すこと、30日ルール。冒頭に救世主との戦闘を置くことで、これまでどうやって戦ってきたのか、どう殺してきたのかを描き、そしてそれがクライマックスの裁判においてどう変わったのか――という変化を描くことができます。
男――ラタスについて
というわけで、男ことラタスです。恋は盲目!の亡者と同様に、コミッションでハセさんに描いていただきました。顔がいい……顔がいい! 色んな人に顔がいいと怒られました。童貞です。
イラストはセリフ込みのシナリオデータをハセさんに渡して、そのうえで好きに描いてもらったんですが、めちゃめちゃよく……絵に合わせてシナリオのあれそれを変更しましたし、実際のロールも変わっていきました。この記事で書いてるとおり、シナリオを設計しているときの私はかなり心がないというか……こういうときはこうなるだろう、という配置を頭でぐるぐるとやるのですが、実際にロールしてみると辛いこと辛いこと!
特に導入の、手紙を置いて立ち去ること、仲間が自分を追ってきてすごく辛いのにすごく嬉しいこと、それでも傷つけてでも追い返そうとすること……やってて本当に大変だったし、一緒に時間を過ごせば過ごすほど、どんどん仲間が大切になっていく。
去らねばならない不甲斐なさや無力感でいっぱいになりながら、ロールすることになる。誰だこのシナリオを書いたのは! 辛い!! という気持ちになりながら、初めは隠そうとしていた全てを打ち明け、向かい合うことで、最期のシーンでは潔くこの世を去れる。
世界は残酷で、30日が終わってもまた新しい30日が始まる、何もかもハッピー! というわけではないですが、一つのハッピーエンドなんじゃないかなと確かめられてよかったなと思いました。
リプレイはこちら
私のほうで3卓行い、ハセさんに1卓、ωさんに1卓行っていただきました。やっぱり自分が書いたシナリオを回してもらえるのはすごく嬉しいですね。これを読んだ人も回してくれたら嬉しいです。
そしてなんかこうやってリプレイのかたちでまとめられるの、本当にすごく……ありがたく……よかったら読んでったってくださいな。
A班 GM水面 やさか よるこ elec. リプレイ編集ω
B班 GM水面 みこうり 施音 ω リプレイ編集ω
C班 GM水面 ありおり さかな パクチ リプレイ編集ありおり
D班 GM ハセ せつこ 月夜 笛氷 リプレイ編集ありおり