微動だにしない男との接見記録③ ~男の生い立ちなどについて~
被告人I 無職 事件番号:令和2年(あ)第●5●号
強盗殺人・傷害・窃盗・覚せい剤取締法違反
検察官求刑:無期懲役
現在上告棄却決定に対する異議申し立て中
被告人Iとは20回以上の接見を重ねた。その中でIがこの事件の真犯人(運転者)であるかどうかに関わらずIが犯罪に手を染めるようになってしまった重要なファクター。つまりIが巷で言われている反社会的組織の一員になってしまった理由についても聞いた。
「Iさんはどうしてヤクザの道に進もうと思ったのですか?」
「自分としてそうなりたいとか思ったわけではなくて、家庭環境のせいにするわけではないんですけど、そうなるしかなくて・・・。悪いことしないと生活できない状況になってしまって」
「それはいつからですか?」
「うーん。確か小学校5年生くらいですかね」
ここに詳しく書くことはしないが、どうやら小学校5年生のときに男の家庭内で男の生活状況を一変させる出来事が起こったようである。
「ただ小学生ですよね?学校はあったんじゃないですか?」
「学校自体はありましたけどほとんど行かなかったですね」
「何してたんですか?」
「ずっと友達と遊んでましたね」
男は続けてこう呟いた。
「皆偉いと思うんですよ。授業出ても退屈じゃないですか。それを我慢して何時間も座って」
そういうと男は笑った。男の笑顔はいたずらっぽく茶目っ気がありとても反社会的組織の一員であり数々の犯罪に関与しているとは思えない。
「悪いことはしてきた?」
「一通り悪いことはしてきましたね。酒やタバコは小学校6年生のときにはやってましたし。あのときはおやじ狩りが流行っていておやじ狩りとか。喧嘩するために横須賀の方に行ったり」
「懐かしいですねおやじ狩り。喧嘩のためにそんなに遠くまで行くんですか?地元にはもう敵がいない状態だったんですか?」
「いや地元だと友達の友達とか。先輩の知り合いとか色々面倒なことが多いんで。横須賀とか水戸とかで外国人と喧嘩するんですよ」
「遠いところまで行って外国人ですか?」
「遠い所でも知り合いの知り合いとかだと面倒くさいことになるので」
「そういう所は気を使うんですね。他に幼少期の思い出は?」
「そうですね。よく覚えてるのは小学校3年生だか4年生のときに担任の先生にタイマン挑んだんですよ」
「先生とタイマンですか?」
「はい。どうしても納得できないことがあって先生タイマンしましょうと」
「それで?」
「タイマンになりました。先生も本気できて、体格差もあったんでボコボコにされましたけど。あの先生は特に印象に残ってますね。今何してるんだろう・・・」
「でも本気で来てくれるなんていい先生ですね」
「そうですね」
男は懐かしむように微笑んだ。その先生がここにきて男を前にしたら何というのだろうか?素朴な疑問が心に浮かんだ。
※画像はwikipediaより
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