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微動だにしない男との接見記録④ ~男との対話~
被告人I 無職 事件番号:令和2年(あ)第●5●号
強盗殺人・傷害・窃盗・覚せい剤取締法違反
検察官求刑:無期懲役
現在上告棄却決定に対する異議申し立て中
「中(塀)の人間はみんな寂しいんですよ。何かにすがりたい。でも外の人にはすがれないじゃないですか。中に入った途端に離れていく人もいますし。だから中の人達同士で傷をなめ合うじゃないですけど。逆に中の人の方が変な気を使わないですし」
不利な判決宣告を受けたときの心境や男の生い立ちを聞いた後は現在の男の生活や環境などを聞いた。接見の中で男の現在の生活状況にも話が及んだ。
「今の生活はどうですか?」
「そうですね。まだ未決なんで比較的自由なんですよ。同房の人と話したり手紙書いたり、裁判の資料読んだりしてます」
「雑居房なんですか?」
「雑居です」
「変な人とかいるんですか?」
「今の同房の人達はみんないい人ですよ。一致団結してます」
「でも刑務所とかって変な人というか変わった人は多いんですか?」
「それは普通の社会でまともに生活できない人の集まりですからね。一癖も二癖もある人たちばかりですよ」
男はこれまでにも何回か刑務所に入っている。某有名刑務所であるF刑務所にも収容されていた男。自分が以前TVで見たF刑務所にまつわることを男に聞いてみた。
「前にテレビで見たんですけどF刑務所に入っていた元被収容者の方がF刑務所のカレーが世界一美味いと言ってたんですけどそれは本当ですか?」
男はふっと笑い答えた。
「そんなことないと思いますよ。普通に外で食べる方が美味しいですよ。ただあの中にいると美味しく感じるというのはあると思いますけど」
「手紙というのは知り合いの方からくるんですか?」
「知り合いからくることもあります。ただ中の人から手紙貰うことが多いですね。自分も中の人に手紙書くこと多いですし」
「中の人ですか?」
「そうですね。外にいると手紙なんてまず書かないじゃないですか。でも中にいると手紙が大きな楽しみの一つですし、外の人よりも中の人の方が手紙返してくれるんですよ」
手紙について触れておくと一日一通手紙の発信ができるようである。受信に関しては無制限。未決の間は基本的には誰とでも手紙のやりとりができるようで、被収容者(東京拘置所に収容されている人)でも同じフロア以外の人となら手紙のやりとりができる。
「中の人達同士で頻繁に手紙やりとりしてるというのは意外でした」
そう自分が呟くと冒頭の男の言葉を聞くことができたのである。
「食べ物とかは美味しいんですか?」
「自分は食べ物のためにここに入ったわけではないと思ってるんで、そこはあまり考えないです。好き嫌いとかも結構あるので」
「好き嫌いはどういうものがあるんですか?」
そう聞くと男は少しはにかみながら答えた
「子供が嫌いなものですね。グリンピースとかピーマンとか」
「そうなんですか」
「でも残さないように全部食べるようにはしてます」
「それは何か理由があるんですか?」
「いやなんか罰が当たりそうじゃないですか。食べ物の神様とかの」
男はいたずらっぽく笑った。
※画像はwikipediaより