バレンタインデーの思い出
「チョコちょーだい」
階段ですれ違った彼女にそう声をかけた。同じクラスの仲のいい女子。そして、友達として以外で意識してしまっている女子。
「私が作ったのクッキーだよ。余ったらあげるね」
ニカッと振り向きざまに笑い彼女はまた階段を駆け上っていった。わかっていたことだが脈はない。友達としては仲がいい。それは間違いないことだが本命チョコをもらえるかといえばけっしてそういう仲ではない。それでもチョコをもらえるならまぁいいかと思う。2限目が終わった後の休み時間でのことだった。
昼休みが終わった後はホームルームがあった。教室に人が集まり始めていた。自分の席に座り携帯をいじっていると後ろから軽い衝撃を受けた。
「チョコなんか貰ったの?」
振り返るとニヤニヤとしながら隣の席の女子が立っていた。
「一個も貰ってねーよ」
我ながら情けない答えを返すとその子はポケットから何かを取り出しこちらに投げてきた。
「それあげるよ」
チロルチョコ一個。明らかな義理チョコだった。
「義理だからね」
「それぐらいわかるわ。でも、サンキュー」
人も次第に集まり始めた教室内で女子達は義理チョコを配り始めていた。このクラスの男女比は男子が9人女子が13人と少し女子の方が多かった。それでも俺がチョコを貰えたのは3個だけだった。それも全部義理。ちなみに階段ですれ違った女子も同じクラスだ。
「お前は手作りとかしないの?」
「めんどくさいからね」
となりの席のチロル女子とバレンタインの手作りの面倒くささや俺の料理の話、今日の授業のことなどをいつものように語り合ってる最中、階段女子がクラスの男子二人にクッキーを渡すのが横目に入った。
結局、その後も階段女子から貰うことなく放課後になった。17時からバイトがあるので放課後はわりとすぐバイト先に向かわなくてはならない。
女子達はおそらくこれからが本番なのだろう。どことなく浮ついた空気が学校全体に漂っていた。階段女子も授業が終わるとすぐに教室から出て行っていた。
「今日もバイト?頑張ってねー」
少し小馬鹿にしたようにチロル女子が笑って声をかけてくる。学校から出ればもう階段女子からは貰えないことが確定する。それでもバイトに遅刻はできないので仕方なく階段を降りていく。
「あ、いた!」
その声に振り向くと階段女子がいた。
「はいこれ。約束したからあげる」
そういうとクッキーの入った包みを渡された。
「サンキュー」
なんでもないように笑って受けとったがバイトに向かう足はさっきまでと違い、軽くなっていた