平野啓一郎氏「かたちだけの愛」~読書感想文~
「あなたにとって、愛ってなんなの?」
主人公に問いかけられた言葉から物語は始まった。
この問いはいつも私の中にもあった。
私が見つけた答えを、この小説の中の彼の言葉を引用させていただき、表現してみたい。
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身体の一部を切断された断端、心の一部に残る親から切断された関係の断端。人間には身体だけにではなく心にも断端が存在する。
人はこの断端から生まれてくる幻痛に苦しみもがき続けるが、ある人との出逢いによりそれが更に加速したり、互いの存在で刺激し合ったり、互いに拒絶反応を繰り返したりしていく。
その様子は、自分の心に存在する闇に、相手の存在が光を照らし、その光がモゾモゾ動き始めていく。その光を広げ深めていきながら、新しい自分を受け入れ新しい生き方を模索し、自己を肯定そして更新し続けていく。
そうやって新しい自分を創造していく姿と同じなのだ。
断端は大切にしたいと思う。なぜなら、その場所が新しい自分の繋ぎ目になり、そこに繋がれた相手の存在は、結局のところ自分であって自分の存在になっていくと考えるからだ。
一つだけ疑問に残ったのが、この小説のタイトル「かたちだけの愛」だ。
平野氏はどうしてこの小説にこのタイトルをつけたのだろう?
最後、それについて自分なりに想像してみた。
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自分の闇が相手の照らす光により輝き動き出すものであれば、人間の存在は揺らいでいるともいえる。
その「揺らぎ」に輪郭をつけた言葉だったのだろうか?
あるいは、断端に補完された相手の存在で、自分の存在が愛によって一対となったからなのか?
言葉で表現するのが難しいが、一度平野氏に聞いてみたいと思った。
この小説は、これからの自分の存在が希望に溢れ、自分の内側にある「力強い根源」を感じさせてくれる大変素敵な小説だ。
是非一度読んでいただきたい一冊となった。