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いま、ジュニア(STARTO ENTERTAINMENT・旧ジャニーズ)を巡って起きていること

ジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、ジャニーズ事務所の屋号をおろし、新たに発足したSTARTO ENTERTAINMENT(以下STARTO社)。体制の立て直しを図る中で、先日ジュニア内グループを解体し再編成することが発表された。
世間では、同事務所のtimeleszの新メンバー加入が話題となっており、また「ジュニアのグループ結成」ということで明るい話題が続いていると感じられるかもしれないが、今回のジュニア内グループ再編成は、【誰も喜ばない決定】との声が大きい。発表から4日経過した今もSNS上での戸惑いは続いている。感情的な叫びがあふれる中で、「なぜデビューしていないジュニアのグループ解体がこのような波紋を呼んでいるのか」「事務所の問題点は何なのか」について、感情的な要素を排して整理したほうが、本件について多くの方の理解を得やすいと考えこの記事を執筆する。

この記事の目的は大きく3点である。
①本件の発表を受けて、ファンが感じている憤りの根源や事務所側の対応の杜撰さを、ジュニアのファン以外(デビュー組や事務所のファン、アイドルのファン、一般層)にも理解してもらいやすいようにすること
②今すでに起きている、あるいは今後起きるであろうジュニアのファンの発言や行動に対するまなざしを「ジャニオタ、女オタクのヒスり」といった冷笑に矮小化させないこと
③今回の発表がただのエンターテインメント性あるものではなく、事務所(雇用主)とタレント(労働者)の権力勾配のもと発生している搾取の構図だという認識を広め、社会からSTARTO社に意識が向くようにすること


1. ジュニアとは何か

そもそもジュニアとはどのような立場なのか。日ごろ別の事務所のアイドルを応援している方や一般の方向けに説明しておくと、他のタレントプロダクションでいう「研修生」だと考えてもらえればわかりやすいだろう。通常であれば、研修生から人選してグループを結成しデビューする、または、すでにある大所帯グループの欠員補充・追加メンバーとして追加されることで活躍するケースが多い。
STARTO社(旧:ジャニーズ事務所)の場合も、研修生から人選してグループを結成しデビューするパターンであるが、ジュニアの状態のままでグループを組む場合もある。しかし、グループを組むこととデビューはイコールではない。これまでデビュー時の人選にあたっては「ジュニア内にすでに存在する(短期の)期間限定ユニットを崩し一部を引き抜く、ユニット同士をくっつける」だとか「ユニットを組んでいなかったタレントを大抜擢する」といったことが行われ、この人選に故・ジャニー氏の意図が大きく反映されていた。そのためファンも「デビューは10代~20代前半」「ジュニアでグループを組んでも、崩されることが当たり前(グループ自体が短命であり、所属メンバーも未成年)」「結局は個人戦」という認識を持っていた。ただ、ジュニアの状態で組んだグループでも、ある程度の年数活動をしていればデビューできるケースというのはこの頃から存在していたし(例:KAT-TUNは約5年、Kis-My-Ft2は約6年ほど) 、そもそも入所したジュニアからはグループに所属することが目標にあげられるくらい、グループ結成はデビューへのステップであった。
そして、2019年ごろから変化が起き始める。この年のSnowMan、SixTONESのデビュー以降、2024年までになにわ男子、TravisJapan、Aぇ group!の5グループがデビューに至っている。もちろん、デビュー前に人員の追加や脱退があったグループもあり、ファンのとまどいや悲しみが全くなかったわけではないが、ジュニア時代から活動していたグループ名やメンバー編成を大きく壊されることはなく、近年のグループはデビューを叶えていた。
そのため、近年のジュニア内グループのファンは「今のグループの形をほぼ保ってデビューを目指せる」と考えるのがごくごく自然な状態であり、先ほどと対比する言い方をすれば「デビューは20代」「ジュニアでグループを組み、その仲間たちとデビューを目指せる(所属メンバーは高校生~成人済み)」「グループごとの団体戦」という認識を持って過ごしていた。もちろん、タレント本人たちに“このままいけばデビューできる”といった驕りがあるわけではなく、常に危機感を持って上を目指していたし、ファンは媒体に対して起用御礼を送付する、動画の再生回数を増やすといったできることの積み重ねをしてタレントと同じ方向を向いて歩んでいた。

なお、2024年の活動について、今回再編成の対象となったうちの3グループを例に挙げれば、既にそれぞれのグループのための曲を数多く提供・作成されている状態であり、HiHi Jets、美 少年に関しては春にアリーナツアーの開催、7 MEN 侍はメジャーデビューしているロックバンドとの対バンイベント、全国ホールツアー後に新橋演舞場での主演公演の開催、雑誌『Myojo』(集英社)の投票企画「Jr大賞」で全部門1位を獲得するなど、デビュー組と遜色ない活動を行い、しっかりとファンもついている状態であった。彼らはグループを結成して7年~10年近く経過しており、先程挙げたKAT-TUNやKis-My-Ft2以上の期間を同一グループで過ごしている。20代中盤に差し掛かる者もいることから、10年前のジュニアとは大きく状況が異なり、「グループは解体されて当たり前」な状況では決してなかったことを強く主張しておきたい。

2. 今回の発表に至るまでの経緯と、ファンが抱えていた不安

2025年2月16日 19時15分 次のような発表があった。
発表の要旨は「ジュニア内の既存3グループ(HiHi Jets、美 少年、7 MEN 侍)を解体、再編成し、少年忍者の一部のメンバーを引き抜いたうえで、新たに3グループ(ACEes、KEY TO LIT、B&ZAI)を誕生させ、今後活動していくこと」である。
なお、本件発表に至るまで、そして現段階にあっても、なぜ解体するのか、その必要性や経緯について、ファンへの明確な説明は事務所から全くおこなわれていない。応援してきたグループが急に幕を下ろすことを知らされた再編成の対象のグループ、タレントのファンは、驚き、とまどい、深い悲しみや憤りを抱えることとなった。

そもそもファンはこの半年、不穏な空気にさらされ続けていた。
2024年9月にHiHi Jetsのメンバーであった髙橋優斗さん、翌月に美 少年のメンバーだった金指一世さんが続けて退所した。それと同時期にX(旧Twitter)上にリークアカウントが登場し、ジュニア内グループが解体されるという噂が流布された。
なお、STARTO社は体制移行後イメージの刷新を図っているものの、実態としては情報漏洩が続いており(デビュー済みのタレントが苦言を漏らすレベル)、タレントが守られていないのでは、とファンが不信感を抱く状況にあった。
そのような中で、
・年度末に発売されるカレンダーの予約開始時は、サンプル画像にグループ名の記載があったが、のちに予告画像が差し替えられた(グループでの掲載がないこと、完全シャッフルでの掲載だと判明した)。
・12月ごろからアイドル雑誌に掲載されるジュニアがグループ単位ではなくシャッフルされるようになった。
・1月頭に有明アリーナで行われた演目SHOWbizではグループ単位での楽曲披露が一切行われなかった。
こういったことが蓄積し「既存グループでの活動」を見たいファンのフラストレーションは大いにたまった状態である一方、不安は増幅し、一部には諦めのムードも醸成されていた。
そこに、先日の急な発表である。事務所から明確な説明もなく、既存のグループとのお別れ公演のようなものもなく、急に元のグループでのブログ更新は停止し、新しいグループ活動へと移行してしまった。彼らがそれぞれのグループで積み上げた何千日という努力と成果は水泡に帰したのである。本件の発表と同時に投稿された会員制ブログでは、元いたグループへの名残惜しさや悔いを表明するタレントも少なくなく、納得して現状を選択しているようにはとても見えない状況であった。そしてこのような時でさえ、STARTO社はタレントを矢面に立たせ続けており、現在に至るまで、責任者からファンへは何の説明も行われていない。

3. 本件の事務所側の問題点について(私見)

今回の発表内容は、STARTO社が掲げる企業理念に反するものであると私は考える。
Visionには「全ての人が笑顔になり幸福になることを目指します」とある。企業内の情報をすべて開示することは難しいため我々が触れられる情報は限られるが、今回の決定は果たしてVisionに則したものだろうか、と疑問が浮かぶ。また、Valueの説明にあるような透明性、タレントと企業間の対等性、タレントへのリスペクトが担保された決定とも思えない。
参考 https://corporate.starto.jp/s/e/page/company_philosophy?ima=2320

・透明性が担保されていない点

STARTO社は、ジャニー喜多川氏の性加害問題以降、外部有識者会議の開催状況や報告書を企業WEBサイトに掲載しており、最近でいえば外部有識者から提出された暫定報告書にて、“(STARTO社が)意思決定に組織的かつ透明性ある体制を整えている”旨の記載も見られたばかりであった。
参考:「第5回、第6回外部有識者会議」の開催及び「暫定報告書」受領のご報告|株式会社STARTO ENTERTAINMENT

ジュニアの立場に立つと、新規のオーディションやジュニアのデビューに向けた意 思決定に透明性を持たせるとともに、必ず組織的に決定する仕組みが構築されている ことが重要であるところ、御社のご説明によれば、既にそのような組織的かつ透明性 を確保した評価及び意思決定の体制が整えられているとのことなので、今後行われる 意思決定についても注視することとしたい。

別紙2「暫定報告書」

ただ先ほども記載したように、解体再編成のお知らせとともに更新された会員制ブログでは、悔いの残るような思いを記すようなタレントもいる。また、再編成の対象となり個人活動に移行した藤井直樹さんは「自分の現状を聞かされてから、まだ時間がそんなに経っていないというところもあって、少し戸惑っている」旨ラジオ内で発言している。報道によれば、グループの再編成に抵抗を示すメンバーもいたという関係者の話もあった。このような状況で、果たして本当にSTARTO社内で透明性の高い組織決定がなされたのか、そのための内部制度が設計されているのか疑問が残る。
参考:元 美 少年・藤井直樹、ジュニア再編成に戸惑い「冷静に考える必要がある」ラジオで現状報告 - モデルプレス
参考:ジュニアメンバーと唯一無二の空気感を共有するファン 予告なき再編受け入れられるか - スポーツ報知

・対等な立場での議論とリスペクトが感じられない点

ジャニー喜多川氏の性加害問題で指摘されたことのひとつは権力勾配による搾取であり、STARTO社はこれを繰り返さないための取組みが求められていた。しかし、今回行われた決定の内容とタレントのブログ内容を見るに、その圧力が本当になかったのかは明白でない。筆者が応援している7MEN侍に限って言えば、ここ5年脱退したものはいないにも関わらず、大きな流れに巻き込まれざるを得なかった印象を受ける。雇用主たる事務所と、労働者たるタレントの権力勾配は果たして適切な状態になっているのだろうか。これまで彼らはデビュー組に近い仕事量を、ジュニアという安い労働力で買いたたかれていた。これは、デビューという人参をぶら下げられたうえでの、やりがい搾取ではないか。
また、それぞれのグループ活動の中で与えられた楽曲がある。数十曲を超えるグループもあれば、メンバーが精魂込めて作詞作曲したものもある。今回の解体によりこれらは封印されるわけで、このことは、その楽曲に関わった著作権者に対するリスペクトがある行為とは、とても思えない。

4. 私自身の考え、思い

・事務所へ送付した意見

これまで書いてきた内容のとおり、今回再編成した事実、事務所内の意思決定の仕組みについて、私は会社への不信感や憤りがぬぐえず、STARTO社に以下を意見した。
まず本件について、STARTO社は再編成に至った経緯や意図、既存グループを解体する必要性について、タレントを矢面に立たせるのではなく、再編成責任者からの明確な説明を求めたい。また、その経緯(決定の過程)によっては、再編成の撤回及び既存3グループ(HiHi Jets、美少年、7 MEN 侍)の活動再開をおこなうべきである。
また、先ほど「3.本件の事務所側の問題点について(私見)」において、事務所側の問題として挙げた透明性の担保のため、ジュニアグループの結成、解体、デビュー、評価基準に関する明示がタレントに対しておこなわれるべきである(ファンに対しても明示があれば疲弊することなく応援できるのでより望ましいだろう)。
そして、先ほど述べた権力勾配による圧力により、タレントの立場が悪化することのないよう、グループ存続、解体に関する決定については、当事者たるグループメンバーの意思を尊重し慎重に決定されること、その結果が事務所の方針と異なる場合でも、グループやタレントに対し、不当な扱いをしないことが必要ではないか。

・ファンも事務所に利用されている自覚を持つこと

今回の件について、タレントの本音はわからない。
この決定を本心から喜んでいる人もいるかもしれないし、つらくてもなんとか前を向いているフリをしている人もいるかもしれない。ひとりひとりがどちらなのか、あるいはその狭間のグラデーションの中にいるのかは、こちらは知りようもない。
ただ、“私からは“タレントが人質に取られているように見える以上、消費者として企業に説明を求める姿勢は大切にしたいと思う。考えてほしい。今回の再編成が発表された翌日に、まだファンの混乱が収まらないうちに、公式からジュニアの新グッズを発売するというお知らせがあった。それを見て『コレを買わなくて推しの扱いが悪くなったらどうしよう、買わなきゃ』と思ったファンは少なくないのではないか。私もその考えが一瞬よぎった。
企業が何か問題を起こした時、消費者は提供されるモノ・サービスに対して不買運動を行うことができる。でも、その対象にタレント自身が絡んだ瞬間に「金銭を企業に落としたくないのに、金銭を落とさないと推しが不遇になるかも」「〇〇くんが前を向いているのだから応援しなければファンと言えないのかも」と思い、購買せざるを得なくなる。この構造が搾取でなくてなんなのだろう?
STARTO社はまともな説明をするために表に出てくることはなく、タレントのブログでファンのメンタルケアをさせて、地上波番組に一部のタレントが出演しグループ名や編成が変わったことをキラキラと放送して、こうなってしまったことをまるで諦めさせるようだ。私は今の状況が心の底から気持ち悪くてしょうがない。ファンの応援しなきゃ、という気持ちさえ事務所に利用されているのだから。

私がこの記事で何度か出した「搾取」の言葉は、読む人によっては強く感じられるかもしれないが、我々消費者と企業(STARTO社)との間にも横たわる問題なのだ。そうである場合、「大好きな〇〇くんのため」ではなく、自分がお金を信用している会社に払うために企業へ説明責任を求めることは、消費者として至極あたりまえの行動ではないか。自分の意見を持ったうえで黙る、受け入れる選択をすることを否定はしないが、あがっている声を押さえつける動きに、私は疑問を持っている。

さいごに

会社名を変えても、体制を整えたと表向きに発信していても、タレントの取り扱いや消費者たるファンへの不誠実さには一切の変化がないことを、身を持って知った。現在、そしてここ数週間のジュニアのファンの発言や行動を、今回記載した経緯を何も知らない人間がみれば「ジャニオタ、女オタクのヒスり」と冷笑するだろう。また、今回発生した問題にフォーカスする外からの目、圧力が現状ほぼないため、この異常な事態をファン側も受け入れざるをえないムードが日に日に醸成されている。しかし、今回の発表内容は、事務所(雇用主)とタレント(労働者)の権力勾配のもと発生している搾取の構図であり、ファンの反応もお気持ち表明といった軽い内容に矮小化はできないし、右/左といったイデオロギーの問題でもない。タレント自身の権利や人生に関わる今回の発表とそれに対するファンの反応について、せめてこれを読んだ方には経緯と問題点が伝わっていてほしい。

そして、今回のことを「おかしい」と思ってくれた方がいれば、ファミリークラブ(STARTO社のファンクラブ会社)に意見を送付いただければ幸いである(STARTO社には個人からの意見送付ができないため)。
※アクセス⇒スクロールして画面下部の「ファンクラブに関するお問合せ」より送付できます(FC会員でない方も送付できます)
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