2024-04-13

旅先、宿にチェックインして思い立った。
終電でここに戻って来られる。
もう一度、私の時間を止めた景色を見に行こう。
滞在可能時間は10分見込。それでもよかった。

不思議と憶えている。
年に一度歩く程度の駅で、何年前に乗ったかも思い出せないような電車に乗る。
目的地の最寄り駅は記憶の中では足場が掛かっていたが、この日には無くなっていた。

大通りをただ歩き続ける。
22時の住宅街は記憶よりも騒がしかった。

信号、住所表示、商業施設、変わらない景色が広がる。
あの場所へ行けば何かがわかる。
少なくとも、1秒くらいは進むのだろう。
きっとこれで忘れてしまえるのだろう。
捨てられるのだろう。

風と波の音が私を迎えた。
いや、迎えなかったと言った方が正しいか。
行き止まり。
フェンスに丁寧に貼られた告知文と、開発中の看板。
ここに私の知る景色はもはや無かった。
立ち入ることさえ許されなかった。
ここの時間は進んでいた。
止まっていたのは私だけだ。
私も止まっていたわけじゃない。
仕事を二、三移るくらいに時間は動いている。
これが現実だ。

来た道を戻る。
走る。
最終電車が近いんだ。

思い出すことも、忘れることも、捨てることも、何一つ許されなかった。
一生一人抱えて、生きていくしかないのだろう。
景色と風と音は記憶から離れない。
場所だけが存在する。

声も顔も思い出せないというのに、「忘れた」と認識できないのはどうしてだろうか。

過去は、縋ることさえ赦してはくれなかった。

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