心の中にミルクボーイ
仕事中に、視線をパソコンのディスプレイから横に向けると、色とりどりのチラシが視界に入ってくる。全部、日替りランチのメニュー表である。近隣のお弁当屋さんが配達に来てくれるのだ。
私がお気に入りのお弁当屋さんは、野菜たっぷり系。メインのおかずに加え、あえもの、おひたし、煮物が必ず三種以上入っている。大根スライスサラダにはちくわが入り、きんぴらは蓮根で作られ、ほうれん草のお浸しにはえのきがご一緒するような献立に惚れ込んでいる。
ところで今週末に楽しみにしているメニューがある。
4月9日(金)豚肉のかわり揚げ
わわっ!どんな揚げ物だろうか。
豚の薄切り肉にパパっと片栗粉をまぶして素揚げした後に、ちょっとコチジャンが効いた個性的なタレをからめたものだろうか。それとも・・・。
などと色々な想像が膨らむ。
実は以前に、私はこのメニューを食べたことがある。
それは、1cmの厚さにスライスされた豚肉にパン粉がまぶされた揚げ物であった。食べると、サクサクの衣の中は豚ロースであった。
「トンカツやないかい」
美味しく咀嚼しながら心で呟いた。でも、メニュー表は『豚のかわり揚げ』。
「ほな、トンカツとちゃうか…」
添えられていたのはキャベツの千切り山盛り。ビジュアル的にもキツネ色と薄緑のコントラストが食欲をそそられた。
「トンカツやないかい」
キャベツのしゃきしゃきと衣のカリカリを歯で味わいながら、メニュー表を見るとやっぱり『豚のかわり揚げ』と書いてあった。
「ほな、トンカツとちゃうか…」
豚のかわり揚げに添えられていたソースの小 袋を見てみた。少し茶色みがかった濃い黒のソース。その袋にはトンカツソースと書かれていた。
「トンカツやないかい」
甘味と酸味と辛味のハーモニー、少しフルーティーなソースはジューシーな豚肉とよく合った。しかしながら、メニュー表には『豚のかわり揚げ』と48ptのブロック体で書いてあった。
「ほな、トンカツとちゃうか…」
このように前回の同メニューのときには、心の中のミルクボーイが大活躍したのだ。
さて明日、一体どんな揚げ物が提供されるのだろうか。すこぶるワクワクしている。
この、ミルクボーイ現象は、子どもが絵を描いている時にも起きることを申し添えておく。
黄緑色のクレヨンをぐりぐり楽しそうに塗る娘のハトちゃんを見ながら、「モンスターズインクのマイクやないか。こないだ見たし。」と思っていると、「これね、美味しいの!」って言われて「ほなマイクとちゃうか…」とミルクボーイが大活躍するのだ。
ミルクボーイが心の中にいると、私の想定と答えが違っていても意外とイケる。
「ほな、トンカツとちゃうか…」
で相手を尊重できるような気がする。