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また会える#リライト金曜トワイライト


惑星の楕円軌道のように現れるひとの話をしよう。

最初のデートは中学生のおわりの頃。
赤穂浪士の討ち入りの日で12月14日だった。
僕たちはお寺の近くに住んでいた。はぁーっとはく息が細かな粒子となって、彼女のはく息とまざりあってキラキラした。口かずが少なくて、ちいさくて、キレイな瞳だった。大スキな子だった。

高校の時にはクリスマスイブの日にデートをした。誘ったらひとつ返事で来てくれたんだから、まんざら悪い感じでもなかったと思う。

公園で待ち合わせた。
噴水が見えるベンチ。
後ろにヘンてこなポーズをしたブロンズ像が立ってるベンチのとこ。
先に来た彼女は、僕を探そうと周りを見回している。笑わせたくて、同じポーズをしながら近づいていった。
僕が彼女の視界に入ると、ふっと顔がほころんで頰に赤みがさした。

彼女の目は特別だった。

意識的に「見る」目をしていた。同じ空間にいても、彼女のとらえる世界はきっと違っているんだ。
その瞳にいったい何を写しているの?
僕は、その瞳に写っていたかった。

クリスマスのあと、何度かデートしたけど流れてしまった。
僕とは「目が」合わなかったんだろう。

次は、大学生のころ。
試験勉強で訪れた広尾の図書館で偶然再会した。
僕は何度かご飯へ行くうちに、それなりに学習して彼女と目が合うように工夫し始めた。彼女が目をやる方向をたどってみる。じっと凝視している視線の先に、遠くの空の小さな点みたいな飛行機があったり、うつむいて目を落としている先に開きかけた花のつぼみがあったりした。
でもやはり、僕とは「目が」合わなかった。

その4年後、

「え?なんでココにいるの…」

旧いビルの長い廊下の端っこだった。資料らしき本を沢山かかえている。
彼女は美大の写真学科を出て、僕の入った会社の関連会社で、広告撮影のカメラマンが所属するところに入社していた。

「また会えたね」

その頃の僕は、毎月120時間以上残業していた。ストレスばかりが積み重なって、会社に行きたいと思える日が一日もなかった。
彼女も、お茶くみみたいな感じのことをしていて写真の仕事をやっていない、と言った。

キミはちいさい頃から変わらないな。
少年から青年に変わる頃の初恋と呼べる人は、ちいさい頃と同じ目をしていた。


最後にあったのは、僕が会社員をやめて暫くした頃。運転免許場で再会した。
彼女は、フランスで写真の学校に入り直して、パリでフリーのカメラマンをしていた。一時帰国中に、食事に行くことになった。

キミはちいさい頃から変わらないな。
再会するたびに思う。
久しぶりに会った僕と、昔の僕との違いを見極めようとしているかのように、僕を「見て」いた。
あまり話さない彼女だけど、気まずさはなくて、僕の話にゆったりと耳を傾けてくれる。その様子を見るのが楽しいんだ。
ちいさい頃と違って、暗くなっても遅くまで一緒にいられるのが嬉しくて、まつげの先に灯るイルミネーションが特別なものに思えた。
でも、何も起こらなかった。

「また会おう」


今、カフェのテーブルの上に彼女が撮った写真集がある。
盲目の人をテーマにしていて、点字がすべてのページに書かれている。

「見る」人が撮った、見えない人についての写真は素晴らしい。

Bunkamuraの本屋で偶然見つけたのも出会いだ。
出版されてから数年経っているけど、
彼女がスキだと言っていた紅茶で一緒にお祝いしたくなった。

彼女は、流れ星ではないんだ。
一方向に進み消えてしまう人ではない。
彼女は楕円軌道の惑星のように、また、僕の前に現れている。

「その瞳に何を写しているの?」

聞いてみたいと思う。

そして、僕と目を合わせて欲しい。







リライト 了

☆彡☆彡☆彡

こちらの企画に参加しています。

そして、課題の中から選びましたのは、

こちらです↓

池松さんの作品はどれも素敵で、なかなか選べなかったのですが、ここ数日を池松さんになりきって生活してみて、一番なりきることができた作品にしました。

また、この作品のBGMにOfficial髭男dismのI Love…をセレクトなさっていたのも大きかったです。

I Loveなんて 言いかけてはやめて 
I Love I Love 何度も

これが、この世界のキーワードだ!
と、閃きました。

そして、リライトにあたって作品のエッセンスを紙に書き出して脳に染み込ませていきました。

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惑星の公転のように時間が経てば軌道が揃って、また会ってしまう女性の存在について、池松さんの作品では、基本、過去形です。そこはあえて最後のシーンを現在進行形にしておわらせたいと思いました。そこで、彼女との出会いを時系列順に並べ替えて、現在に集約する形をとらせていただきました。

池松さんの作品中、キーワードで何度も
「何も起こらなかった」
が出てきますが、私のなかでそれは
「何も起こらない = してない」
に変換されました。

このプラトニックな感じがとても切なくて、スキです。

そして、私のキーワード、
「目を合わせる = する」
に設定しました。うふふ。

最後、わたくしの心中はドキドキです。

リライト、とても楽しみました。

ありがとうございました。


【追記】

猫野サラさんに、この記事の主人公は幼い男の子みたいにピュアだという感想をいただきました。

そこで、ヘッダーをそのイメージにぴったりのイラストに変更いたしました。

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サラさん、素敵なイラストをありがとうございます。

ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。