端っこに灯る明かり
私は21の時、前のめりで片思いをしていた。
朝起きてから眠るまで、ずーっと好きな人のことを考えては悶々としていた。
最近、なぜか思い出す。
その好きな人のことではなくて、
好きな人の親友のことを。
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セナ君(仮名)は、大学で同じクラスだった。
すごく関係性が薄いクラスだったけど、仲良しのグループが出来てその中の一人。
一方、【好きな人】は、私の住むアパートの一階の住人だった。【好きな人】とセナ君は同じ音楽系サークルに所属していた。
「ねぇセナ君、【好きな人】はGuns N' Roses聴くかなぁ?」
「セナ君、【好きな人】はお酒何が好き?」
「【好きな人】が私について何て言ってるか、セナ君に聞いてもいい?」
私は【好きな人】のことを知りたくて、しつこく何度も聞いた。
すると、質問の一つ一つに、
「それはね、自分で話しかけて聞きな!」
「飲みに誘ってみたらすぐ分かるよ」
「俺と彼が話していることは、教えられないな」
と、大真面目にかえしてくれた。
【好きな人】との恋愛がうまくいく兆しがなさすぎて、途方にくれていたので、「恋の手がかり」というサンプルが欲しかった私は、セナ君とコンタクトとりまくりだった。
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そんなある日、いつものように長電話した後に、セナ君はおそるおそるこう言った。
「俺の住んでいる部屋から、ちーさん(私)の家が見えるんだよ。」
「ホント?」
「今から俺の部屋の明かりをつけたり消したりしてみる」
セナ君の家は、わたしの家から南の方へ出て大きな幹線道路を渡った対岸にある。
ベランダから目を凝らすと、意外と近くに、セナ君の住んでいるとおぼしき建物はあった。ワンフロアの部屋数が少なくて建物のシルエットが鉛筆みたいだった。
チカチカ
「あっ点滅したよ!」
鉛筆ビル7階の左の端っこの部屋で灯りがついたり消えたり。
「じゃ、私も明かりを消してみる」
チカチカ
「やっぱ、ちーさんの部屋だった」
この発見は、私に心の安定をもたらした。
一緒に履修している講義のレポート締め切りが迫ってくると、セナ君が遅くまで起きていることが分かって心強かったし、眠れない夜にはセナ君の部屋の明かりが見えるとほっとした。
あそこに、私の味方がいる。
セナ君は、私を断じることをしない。
女の子らしさを求めない。
あるべきなんて言わない。
善と悪を線引きしない。
哲学に造詣が深くて、
『我思う ゆえに 我あり』
を雰囲気として身体にいつもまとっている。
あそこに、私の味方がいる。
そう思って、ほっこりしながら眠りについた。
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聡明な読者の皆様は「このパターンは、相談相手の異性と付き合うやつ!」と思っておられることだろう。
あと一か月長くセナ君と楽しくやりとりしていたら、多分付き合っていたんだろう。
でもある日、私の【好きな人】が私に言ったのだ!
「セナの奴から、ちーさんを取ってしまおうと思うんだ」
その後、一階で過ごす日が増えていき、私の部屋は明かりがつかない日ばかりになっていった。
セナ君は明かりの消えた私の部屋を遠くから見て、何を思っていたんだろう。
⭐︎⭐︎⭐︎
セナ君と話していて笑ってしまった一言がある。
「俺はさぁ、しょせん、ありとあらゆる女の子達の『いい人』なんだよー。あ、セナ君ね!いい人だよね。っていつも言われてんの。」
「いい人王に俺はなる!」
確かにいい人王だった!
セナ君!
聞いたその時は笑い飛ばしてしまったけど、
ごめんね。
片思いの相手を大好き過ぎて、
「ちょっとどうかしている」
域に達していた私は、
セナ君のこと傷つけていたのかもしれない。
ごめんね。
⭐︎⭐︎⭐︎
今でも思い出すのは、あの時の鉛筆ビル7階端っこに灯る明かりである。もう、ないけど。
きっと今も、セナ君は誰かの心の中のいい人王として君臨していることだろう。
私は、セナ君みたいにありたいと思う。
人を断じない。
善悪の線引きをしない。
ざわざわしている世の中になっている。
私は、noteの端っこで、部屋の明かりを灯していたいと思っている。
誰かの心が暖まるといいな。
追記:5月30日
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ももさん、ありがとうございます😊