貧乏舌とエシレバター
タイではエシレバターが日本より大体半額近い値段で売られている。
エシレバターといえばご存知の方も多いと思うが有名な高級発酵バターだ。
私も名前こそ知っていたものの、日本にいた時はそこまでバターに興味も無かったので食べたこともなく漠然と成城石井とかで売ってそうな高いバターというぐらいの認識だった。
そしてタイだと安く売られていることを知ったのでせっかくだし試してみるかと早速スーパーで購入してみた。
価格は250gで275バーツ。日本円で約1000円ほど。一般市民の自分にはこれでもお高いと感じてしまう。
ワクワクしながらとりあえず最初はシンプルに焼いたパンに塗って食べてみた。
第一印象は「え…あれ…?」
確かに普段食べているものとは違うふわっとしたとても良いバターの香りが鼻から抜けていくのは分かったのだが味が無い。
塗る量が少なかったのかなと少し塗り足してパンを齧るが先程と同じ。美味しいには美味しいのだけれど香りを食べているような気分。
正直拍子抜けしてしまい食べる手を止めてしまった。
大トロより赤身、焼肉では和牛より安価なカルビ、フォアグラよりそこらへんの焼き鳥屋のレバー串を好む典型的な貧乏舌だから高級バターの違いが分からないのではと自分自身に落胆していた。
やはり私には過ぎた食べ物なのかとエシレバターを見つめて自虐的になっていた時に、ふとあることに気付いた。
あ、これ無塩だ。
そう、無塩だったのだ。そりゃ香りしかしないわけだよ。
そうと分かれば話早いと無塩バターの美味しい食べ方を考えたりネットで調べたりしたがお菓子作りぐらいに使うぐらいしか出てこなくてどうしたものかとあぐねいていた。
その日の夜、夫が帰宅してからエシレバターの話をしたら食べてみたいと言ったのでこれだよ、と冷蔵庫から持ってきてみせると夫はなんと突如ほかほかご飯の上にエシレバターを乗せはじめた。
そして生卵と醤油を足して混ぜてなんとも高級な匂いの漂う卵かけご飯が完成した。
予想外の使い方に驚いていると夫が「おいしいよ」と私に一口進めてきた。
食べてみると悔しいがな滅茶苦茶うまい。滅茶苦茶に。
味気なかった無塩バターに醤油が加わることにより素晴らしいおいしさを引き出していたのだ。
謎の敗北感と高級なものだからと勝手に身構えて視野を狭めていたことを恥じて私のエシレバターデビューは終わった。
もしみなさんがエシレバターを食べる時は是非騙されたと思って卵かけご飯に入れてみてください。きっとこの気持ちが分かっていただけるはずです。