『ナクシタモノ』第X話:先生

前回までのあらすじ(3~4行程度)

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#深琴と真琴の琴棋書画 #精神病 #ナクシタモノ #創作エッセイ




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第X話:先生

2022年冬、精神病による妄想の最中にあった葛木深琴は、朦朧とする意識のなか恩師達の言葉を思い出していた。先生、僕は…私は…"評価される人間"に…"中身のある人間"に、成れましたか?

#ナクシタモノ
#深琴と真琴の琴棋書画
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2022/02/某日 某時刻 深琴と敬の家

葛木 深琴
「どうして、みんな分かってくれないんだ…!このまままじゃ…このまままじゃ、君達が嫌がっていた未来が来てしまうんだよ…!どうして…どうして!!!!」

僕は何かを間違えたのだろうか。

「君は自分が正しいと思っている!!!」

君だって、そうじゃないのか。

「評価される人間に成れ」

先生、僕は、評価される人間に成れましたか?
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2012/04/某日 朝 高校 教室

担任
「みなさん、ご入学おめでとうございます。早速ですが実力テストを行います。入学前の課題を通して、入学試験からどれだけ皆さんの学力が上がったか確認させてもらいます。我がクラスでは各試験の成績によって席替えを行います。是非とも"評価される人間"を目指してください。それでは、始め!」

2012年春、小中まともに学校に行けなかった僕は、出席日数が足りなくても入れてもらえるような、そんな商業高校に進学した。学力には自信がなかったが、今回の試験は出された課題をやっていれば解けそうな問題が多かった。試験終了の合図と共にペンを置く。結果は学年8位、クラスでは2位だった。

深琴
「(元不登校児でもここではこんなものか。1位の人はどんな人なんだろう。)」

試験結果によって席替えが行われた。成績が高い方から順に後方より席が並べられていく。僕は左隣の席の学年1位様にご挨拶をした。

深琴
「これからよろしく。」

安才 海人
「あぁ、よろしく。」

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2013/03/某日 某時刻 高校 教室

担任
「それでは、これにてホームルームを終了します。1年間ありがとうございました。来年も同じクラスになった皆さんはよろしくお願いします。2年生以降も気を引き締めて、"評価される人間"に成ってください。解散!」

僕達の担任の口癖は、"評価される人間に成れ"だった。幸か不幸か、入学してから最初の試験でそれなりに良い点数を取ってしまった僕は、その言葉を真に受けていた。全く相手にされないのに海人を勝手にライバル視しては、1位の座を奪おうとしていたんだ。これはそういうゲームだった。

いつしか僕らは安才葛木のツートップと呼ばれるほどになっていた。学年1位と2位を争う僕らは、2年生のクラス替えでも同じクラスになり、そのまま健在だった。しかし、ある時海人はこのゲームを降りてしまった。何があったのかは分からない。それからの僕は、一人で仕方なく"試験で100点を取るゲーム"を始める。

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2014/08/某日 某時刻 高校 職員室前

国語教師
「お前、頭良いのに中身空っぽだな。」

大学受験のために、夏期講習で小論文指導をしてもらっていた時の事だった。当時の僕は社会というものにさほど興味がなく、試験の結果だけは良かったが時事ネタにめっぽう弱かった。僕の書いた中身のない小論文を添削した国語教師は、残念なものを見る目で僕に原稿用紙を返却した。

深琴
「(先生…中身のある人間とは、何なのですか…。)」

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2015/03/某日 某時刻

僕は大学にも無事合格し、学年首席で高校を卒業した。卒業式の日、生徒会長であった海人が表彰される傍ら、首席の僕が貰ったのは「努力賞」だった。

学年主任
「君は成績は良かったが、遅刻が多かった。会議でもかなり揉めたよ。しかし、我が校としては君には努力賞しかあげられないんだ。分かってくれ。」

先生、遅刻とは何なのですか。僕は5分の遅刻を自分で勉強して取り戻しました。行き帰りの交通機関でもたくさん勉強したから、あの成績だったんです。それでも僕は「努力賞」なのですか…?

いくら成績が良かろうと、時間にルーズな人間は「評価されない」。それでも僕は、僕の功績を未だに校舎の壁に飾り宣伝として使っている"学校"というものが分からなかった。

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次回へ続く

登場人物紹介

https://note.com/3510_katsuragi/n/n7057889d4156


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