今スキでたまらない3曲を、歌詞を交えて熱く語る
音楽を本格的に聴くようになったのは、中1からです。「スキな3曲」は悩みに悩み続けました。
少なく見積もっても、3,000曲はスキです。3曲を選ぶなんて、将棋ぐらい難しい。王手まで15年かかる将棋を指している感覚でした。
今や、音楽をスマホでも聴ける時代。共有するのもググッと手軽になり、中学生の頃並みに音楽を聴く日々が続いています。
Spotifyはサービス開始から毎日のようにお世話になりまくりで、スキな曲は年々増えるばかり。アーティストをフォローしたり、曲をお気に入りに追加したり。音楽の可能性は無限大だな…と度々驚かされます。
スキな3曲のテーマを考えてみたけれど、どのテーマももれなく書けそうです。朝におすすめの3曲もパッと思いつくし、テンションを上げたいときに聴く3曲もすぐ書ける。
考えた末、どシンプルに「今スキでたまらない」をテーマに3曲絞りました。
私が今スキでたまらないし、「とにかく今、まさに今、今こそ1回は聴いてほしい!!」、そんな3曲です。歌詞について熱く語りすぎて約5,000文字と長いですが、よろしくどうぞ。
KIRINJI『再会』
コロナ禍でも、音楽は毎日いろんな場所で生まれています。
KIRINJIの『再会』を初めて聴いたとき、コロナ禍を表現した音楽の答えではないか?と思いました。「私が聴きたかったのはこれだ!」と、答えをずばり提示されたような衝撃。
私は、歌詞が好きです。
歌詞って、小説よりも自由度が高く、エッセイのように心情を鮮明に書く必要もない。特別なメッセージを書かなくてもいい。
遊び心あふれる言葉が散りばめられた歌詞は、読んでいるだけでも楽しく感じます。
『再会』の歌詞を聴く/読むと、今を思わせる単語が並んでいます。
季節はいくつ廻ったろう
馴染みの店も新しいスタイル
ーKIRINJI『再会』
まず“新しいスタイル”の一言で、今の状況をさらっと思わせる高度な技術に衝撃。“馴染みの店も”の「も」で、完全にやられました。
入り口の消毒液やパーティション、1席4人までなど、コロナ禍で余儀なくされた対応を“新しいスタイル”と書くと、暗い感じはしません。軽やかな曲調に合わせているのかな…?という想像も膨らみます。
しかも、馴染みの店も新たな対応をせざるを得ない状況。想像を掻き立てられるばかりです。たった1行でも全然先に進めない…。
“新しいスタイル”の後に“料理”“グラス”と出てくるのに、私は初めて聴いたときに“馴染みの店”を飲食店だと思いました。なんかもう手のひらの上で転がされているような、そんな感覚も覚えます。
待ちわびていた
待ちわびていた
この日を
この時を求めてた
ーKIRINJI『再会』
歌詞に求めるものは、人それぞれだと思います。
この『再会』の歌詞を聴いて/読んで、私は「一緒に乗り越えよう」とか「がんばろう」とかそんな言葉を求めていなかったんだと気づきました。
暗いことに目が行きがちな昨今。だけど、引っ張られて暗くなるんじゃなくて、再会する日を楽しみにしながら、待ちわびながら今を生きたい。そう思えます。
『再会』でもっとも衝撃を受け、もっとも感動したのはこの歌詞です。
透明のパーティションで
愛までも遠ざけないで
ーKIRINJI『再会』
“透明のパーティション”ってたぶん、今しか書けない歌詞だと思うんです。
「飲食店やテレビで見る、あの透明のやつ」と今なら大半の方はすぐに分かるけど、数十年後に読んだら、何のことか分からない人もいるかもしれない。
パーティションの後に続く“愛までも遠ざけないで”は心底しびれた歌詞で、納得しつつ、涙を拭きつつ、私もいつかこんな歌詞を書きたいなあと憧れます。
配信されたのは、今年の春。「再会の日をともに待とうよ」と春風のように優しく爽やかに包み、そしてコロナ禍のグチャグチャな想いを言葉にしてくれた曲。
あのウイルスは嫌だけど、今じゃないと誕生しなかったであろう曲です。ぜひ。
Tempalay『GHOST WORLD』
白状します。
Tempalayの『ゴーストアルバム』ばかり聴いています。他の曲を聴いていても、結局ゴーストアルバムに戻るんです。ほんとに。ウルトラ大名盤。
ほぼ毎日Tempalayの曲を聴いているのに、Tempalayの良さを説明するのはとても難しいです。
メロディーはポップなのに毒っけもあり、カッコよくもあり、可愛くもある。民族性も中毒性も意外性もどれも量が特盛で多くて、気がつけばまた今日もTempalayを聴いています。何かの罠にハマったかな…。
強引に色でたとえようとしても、「この色だ!」となかなか決まりません。紫も灰色も緑も赤も黄色もあって、とても複雑。
Tempalauは歌詞を含め、言葉の選び方も考え方もとてもスキです。
作詞作曲されている小原綾斗さんが、『ゴーストアルバム』のインタビューで『ゴースト』という言葉やアルバムタイトルについて語っていました。
「ゴースト」って言葉は、基本的にはあんまりいい意味に取られないと思うんですけど、ある種、人はあきらめたときが一番強いというか、失ったときほど遠くまで飛んでいけるというか、そういうニュアンスで作った曲なんですよね。
ー音楽ナタリーより引用
※作った曲=ゴーストアルバム1曲目『ゲゲゲ』
―シンプルに、なんで『ゴーストアルバム』というタイトルにしたんですか?
小原:単純に生きてんのか、死んでんのかようわからん1年だったというのもあるし、さっき指摘してもらったように幽霊の気分というか、死んだ気分で楽しんだほうがいいんじゃないかということですね。
ーCINRAより引用
“幽霊の気分というか、死んだ気分で楽しんだほうがいいんじゃないか”は今の私にしっくり来たし、これまた衝撃でもありました。
東日本大震災以降、自分の人生について考える時間が増えています。コロナ禍を含めていろいろと経た結果、「いつ死ぬか分からないから、自分の人生を精一杯楽しみたい」の考えに落ち着きました。
小原さんの“死んだ気分で楽しむ”は、“人はあきらめたときが一番強い”に通じて、むくむくと勇気が湧きます。そんな風に楽しめたら、これからの私の人生、もっともっと楽しくなりそうです。
そして何より、ゴーストという言葉選びの衝撃。
人間があれこれ失ったときを、コロナで失われたこの1年を、ゴーストの一言で表現するの、凄すぎませんか?(凄すぎる…という感覚が未だに抜けず、数ヶ月に一度、夫へ「凄すぎない?!」と言っています。)
インタビューでは“メッセージ性はない”とも仰っていました。
歌詞って必ずしもメッセージを入れる必要はなくて、個人的にはメッセージよりも表現が大切だと思っています。
ゴーストの一言でコロナ禍を端的に表現し、しかも自分が思っていることも忍ばせている。ずば抜けたセンスに感服しつつ、Tempalayを聴く毎日です。
『GHOST WORLD』は今年3月に発売された、『ゴーストアルバム』の2曲目。お祭りのような旋律もあれば、朝の湖のような美しい旋律もあるし、ゴーストが出そうな旋律もあるんです。何回聴いても全然飽きません。
メロディーに歌詞がのると、小気味よく聴こえます。
母音「a-i」と続く歌詞が34ヶ所あって、なめらかなのかな…と勝手に思っています。aからiはスムーズに口が動きます。
(もし数が誤りだったらすみません…)
たとえば、以下は冒頭の歌詞。
I don’t care かつてないつまんない観衆どうかしてんな
太陽系まっぷたつくらいに感情暴発してんだ
ー『GHOST WORLD』
「I」「(かつて)ない」「つまん(ない)」「(どう)かし(てんな)」「太(陽系)」「(く)らい」と冒頭だけで母音「a-i」が6ヶ所あります。これだけ「a-i」が続くと、どこか楽しげです。
小原綾斗さんの歌詞は、他の人じゃあまり思いつかないようなたとえも魅力です。
くらっぷゆあへんず 勇敢なお代官さんもご苦労様
ライダーキックくらうショッカーみたいに存在感がないや
ー『GHOST WORLD』
存在感がないことをショッカーにたとえる…。私なら、仮面ライダーを見ていても一生思いつきそうにないです。感服。
でも、感服すると同時に、これだから歌詞って面白い!とも感じます。
たくさんの歌詞が誕生して、それでもまたこうして新たな表現に出会えるのは、すごくすごく楽しいし面白いです。唐突なたとえが出てきても、サクッと読めてしまうのは歌詞の魅力。
Tempalayの『ゴーストアルバム』、今年イチオシの名盤中の名盤です。全12曲約44分と聴きやすく、気がつけばループに次ぐループ。
私の文章は一切忘れても構わないので、とにかく聴いてほしい…。
BONNIE PINK『Lullaby』
今年の嬉しいニュースの1つが、BONNIE PINK全楽曲ストリーミング配信でした。ついに!
お陰さまで最近、BONNIE PINKの曲を聴く頻度が増えました。
20年近く前の曲も全く色あせず、今聴いてもやっぱりいい。BONNIE PINKの曲って、時代が変わっても新鮮に感じます。
ようやく配信されたアルバム『Let go』も、カバーアルバム『REMINISCENCE』も紹介したいのは山山ですが、山をドコドコと押しのけて今回紹介するのは『Lullaby』。
最近配信されたThinking Out Loudツアーのライブ音源は、初めて聴きました。そこで思い出したのが、名曲『Lullaby』。
『Lullaby』はアルバム『Thinking Out Loud』の7曲目です。
BONNIE PINKの歌詞は、芯の強さが時々顔を見せるところが大スキ。
取るに足らない小さい事も 手に負えない大きな事も
成るようにしか成らないのさ
ーBONNIE PINK『Lullaby』
上の歌詞も芯の強さがにじみ出ていて、なんかこう、自然とやる気が溢れます。いろいろとジタバタしても、結局は成るようにしか成らないんですよね…。
マイナスにもプラスにも傾きすぎず、潔い歌詞に何度も救われました。今も含めて。
KIRINJIのところでも書いたように、「がんばろう」という言葉を安易に使わない歌詞がスキだと、BONNIE PINKの曲を聴きながら再確認しました。
そして、BONNIE PINKの歌詞はどこか独特です。
愛情過多の君の三毛猫
窓ガラスにもたれて
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明日を夢見る為に眠ろう 眠らなきゃ寝返りは打てないよ
本当に揺るがない日だまりに帰ろう
ーBONNIE PINK『Lullaby』
“愛情過多の君の三毛猫”“眠らなきゃ寝返りは打てないよ”が引っかかり、強く印象に残ります。どちらも特に独特な歌詞。
「成るようにしか成らないよ、だから眠ろう」という優しさが沁みます。
『Lullaby』は韻が少ないですが、韻をよく踏むのも彼女の大きな特徴。たとえば、同アルバム4曲目『慰みブルー』の歌詞。
反抗はみな 願望が故
涙はみな消えた 水面に
ーBONNIE PINK『慰みブルー』
「反抗」「願望」(a-n-o-u)、「涙」「みな」「水面」(i-a)で韻を踏んでいます。リズミカルで心地よく、読むだけでも気持ちいいです。
メロディーはいわばBONNIE PINK節があって、聴くと一瞬で「あー!これはBONNIE PINKの曲!」と反応します。他のアーティストにはない音の高低差が大きな特徴で、聴くとやみつきです。
『Lullaby』は切なくもあり、ふかふかの毛布のように暖かくもある曲です。まさに眠る前、毛布に包まれて聴きたい曲。
それから、ビートルズっぽいメロディーもスキな要因かもしれません。漂う世紀末感と、ブリティッシュサウンド。
※余談ですが、Superflyの『Woman』はBONNIE PINKの作詞作曲。歌詞もメロディーもBONNIE PINK節全開です。音の高低差がやはり特徴的。歌声と言葉の力強さがマシマシで、この曲も大スキです。元気になれます。
BONNIE PINKを知ったのは1997年。中2のときです。聴き始めてから経つ歳月を数えては、毎年驚いています。今年で24年…!
今聴いても斬新な歌詞に、メロディー。彼女にしか出せない声。時代は変わっても、彼女の音楽はずっとずっと魅力を失いません。
全曲サブスク解禁された今、ぜひ他の曲も聴いてほしいです。
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3曲に絞るのは困難を極め、書くよりも選ぶのに時間がかかりました。
新曲が毎週発売されたり配信されたりして、スキな曲はどんどん増えています。来月3曲選ぶとしたら、違う曲を選ぶかもしれません。
紹介した3曲は、今の私が特にスキな曲です。
この記事をきっかけにスキな人が増えたら、とてもとても嬉しいです。