ユリバース ~fleur de lys de la mort~
(マリア、どうしても行くの?)
(うん、私行ってみたいんだ。ひいおばあちゃんの故郷に)
(絶対、絶対戻ってきてね)
(うん、約束。)
(これ、持ってて)
(うん、うん)
また、別れの夢を見た。
まだ小さかったころ、まどろみの中で聴いた日本の物語。それに憧れ、ブラジルからホームステイに来て二週間。ここでの暮らしは驚きと楽しみに満ちている。それに遠い親戚のヨシダ夫妻は朗らかで親切で、とてもよくしてくれる。
でも、寂しいものはしょうがない。
「地球の裏側のエミリーさーん、聴こえる?……なーんて」
枕に顔を埋め、そんな事を呟く。
代わりに答えたのは、地球そのものだった。
―――
事の発端は一月前に遡る。
「……ッ」
「止めて下さい!」
「いいじゃん?俺も友だち呼んで来るからさぁ、一緒に遊ぶべ?」
第一の犠牲者は二人連れの女性を強引に食事に誘おうと、二人の肩に手をやり身を差し入れたその時「現象」に遭ったことが判っている。
「な?な?2対2!決まり!行くべ?ほらアッチ、つぁッ!!ギ、あガぁッ!!」
彼は突如苦しみだし、痙攣、嘔吐などののち十数秒後、「裏返って」死亡した。
―――
次に「現象」が確認されたのはその三日後。場所は都内某高等学校。
「かなり良くなってきてるわ。ふふ、本番も宜しくね」
「はいっ先輩!」
犠牲者は体育教師だった。
「やあ、燃えてるな!……ああそうだ飯田、遠藤先生が探してたぞ?クラス委員の仕事とかで」
「わかりました、先生。」
「あっ……」
先程まで話していた女子生徒二人のうち一人が立ち去り、その対角線上に被害者が入ったその瞬間「現象」は発生した。
「うっく、グググッ、ばッ」
―――
その後も同様の「現象」は相次いだ。物体に対する「現象」が発生したのは、最初の事件から一週間を過ぎた頃だ。
「むぅ……」
「いい加減機嫌直しなさいな、愛ちゃんとはまた明日会えるでしょ?」
「あーあ、ビルがなくなれば愛ちゃんのおうちが見えるのに」
〈つづく〉
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