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航空力士・不破斗武

「にぃ〜し〜、不破斗武(ふぁんとむ)ぅ〜、ひがァ〜し〜、原雷火(ばららいか)ァ〜」
 ベトナム場所六日目。この日結びの一番は大関同士であった。
 西大関、不破斗武は大きく息を吐き、相手を見やる。原雷火は近年頭角を表した若き東大関。その表情に曇りはなく、気力体力の充実が見て取れる。
 成績は互いに全勝。恐らくは、この一番を制する者が今場所を制する。
「見合って見合って……」
 廻しに装着された二つのジェットエンジンが唸り、緊張感が高まってゆく。
 必ず、勝つ。

 滑走路に拳を叩きつけ、二人の航空力士は踏み込みと同時に出力を全開にし離陸。紙一重で交差、そのまま天高く昇ってゆく。
 攻撃に移るまでに出来る限りの位置エネルギーを確保すること。それが航空相撲の鉄則である。

 先に攻撃に移ったのは原雷火だ。体を捻るように返し、不破斗武を正面に捉えんとする。が、これはループ変化でタイミングを外される。
 不破斗武はすかさず反撃に移るが、既に加速していた原雷火を追いきれない。
 さらに一度、二度、攻守を入れ替えながら飛行跡が交わり、離れる。

 数度の交錯を経て、不破斗武は理解した。原雷火関は大角度のロールを嫌う。廻しの飛行特性か本人の癖かは判らないが、これが勝機だ。
 瞬間的に横倒しになり、右急旋回。敵の予測進路へ交わるコースを取る。
 原雷火は潜り込むように回避せんとする。
 旋回降下のためのロール、そこに僅かな逡巡が生じた。
 ここだ。
 タイミングを合わせ、スプリットS。宙返りから復帰した時、不破斗武がついに後ろを取った。
 武装懸架下りから赤外線誘導ミサイルが解き放たれ、航空力士の生命であるエンジンへ毒蛇の貪欲な顎が伸びてゆく。
 原雷火は急降下に入る。
 間に合わない。
 信管が作動し、無数の毒牙が航空廻しのエンジンブレードを打ち砕いた。
「不破斗武の勝ちィ〜」

 決まり手、サイドワインダー。

【続く】

[793文字]

「不破斗武は横綱にできんとは、どういう事ですかッ」
幕道錬(まくどねる)親方の怒号が会議室に響く。
「彼の取り組みでは航空相撲ファンが着いてこないのですよ」
「あやつの取り組みはミサイル頼り、真の力士ではない、とな」
「馬鹿な……」
「ならば、誰も文句をつけられない成績を残せばよい」
上座に座った顔が暗くて見えないなんか偉そうな男がニヤリと笑う。
「……来場所の全勝優勝を、な」


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