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警備員のお仕事

就活を始めて以来、しつこい程求人募集が来るのが運転手と警備員。方向音痴だし、車庫入れすら満足にできないので、運転手は論外だが、警備員も、見当違いも甚だしいと考えていた。

質実剛健、心身ともに頑強な人がふさわしいでしょう。みみずはそれとは対極のところにいると自覚している。チビで、献血不能な程度の体重で、還暦超えで、何かあれば真っ先に逃げ出すビビリだ。

しかし、まったくもって、仕事の選り好みなどしていられない。

自分の殻を打ち破ろう!と言えば聞こえがいいだろうか。

きっかけは、いつも利用するスーパーだった。夜8時頃、制服姿の警備員が、仕事を終えて帰り際に食料品を買っていた。レジの女性スタッフに「お疲れ様」とにこやかに声を掛けている。女性スタッフも丁寧にあいさつを返す。

中肉中背、70歳前後だろうか、思わず振り返るようなオーラがあった。ありきたりの紺色の制服を寸分のたるみもなくすっきりと着こなし、真っ白のワイシャツにストライプのネクタイ。背筋を伸ばし、両手にレジ袋を持ったまま、笑顔で立つ姿はTVドラマから抜け出したようにあか抜けている。人間、年を経るごとに、欠点が増幅されたようなご面相になってくるものだが、良い年月を重ねてきました、という見本のようだ。

要するに、カッコイイ警備員だった。

思わず聞いてみた「警備員の仕事ってどうですか」

無論、お手本のような返事が返ってきた。その晩、パソコンのごみ箱に入れた警備員の求人をもう一度ほじくり返した。

「60歳以上の方も多数活躍中」「研修中も日当保証」「資格取得の支援有り」「未経験者、女性も大歓迎」響きの良い言葉のオンパレードに気持ちが高鳴る。

ネットで応募すると、ほどなくして連絡があり、警察署近くの建物にて面接を受ける。受付の人も親切だし、面接官も実直そうな感じだ。

警備の仕事は4種類あり、A:建物内外の警備(駐車場も含む)、B:外での警備(工事現場での交通整理なども含む)、C:物に付随する警備(現金輸送車とか)、D:人に付随する警備(有名人のガードマン等)。その内、この会社が主に扱うのはAとB。

まず、Aの仕事だが、建物内の警備が一番楽だが、昼間の警備は若い人で固められ、高齢者は夜間の仕事が中心となる。毎日夜9時から朝6時までとか、夕方5時に入って翌朝10時まで勤務し、翌日休みなど。決して楽な仕事ではなさそう。駐車場の誘導などは、ベテランで埋まっているので、空きが出れば入れなくはないが、今はなし。

次にBの仕事は、今現在すぐには入れる仕事がないではないが、電車で約1時間、駅からバスで20分(バスがあればの話)、朝7時に現場入りで夕方5時終了。工事現場の交通整理などの仕事だ。みみずの自宅から近い現場も入ればそちらに回すが、今はないし、いつ入るかもわからない。

面接官は裏表のない正直な人だったので、話を聞けば聞くほど、ご辞退するしかないように感じられた。

夜間の帯勤務や交通不便な場所の勤務は、かなりの覚悟がないと務まらない。なるほど、年がら年中募集しているわけだ。

スーパーで見かけた妙にカッコイイ警備員は、もしかしたら宣伝用の特別スタッフだったのかもしれない。





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