
出版社を作り、本を作り、書き、売った先で気づいたこと
2024年11月29日、私の初めての著書が出版されました。
これまで出版社の代表として、著者の想いを本という形にする仕事をしてきました。しかし、今回は自分自身の言葉を形にするという、まったく新しい試みでした。
今回は、出版社を作って、本を作って、自分の本を作り、売る中で感じたことをお伝えします。
本を書いたきっかけ
339PLANNINGはフリーランスのチームとして事業を行っています。
ある打ち合わせで「こんちゃんはいろんな人に取材とか相談にも乗ってきてるし、そこで気づいた働き方の話を聞きたい人はいるんじゃないですか?」
とチームのメンバーから言葉をもらいました。
お客様に「これまでの経験を本を使って伝える」という提案をしてきましたが「そうか。今までやってきた活動を自分でも本にすることができるんだ。」と、改めて気づいた瞬間でした。
同時に、自身が著者になるという経験は今後の事業にとって必要な経験だなと考え、この本の企画が生まれました。
対話から生まれる気づき
毎月開催している公開取材イベント「カジュアルな深掘りーただ語る+」で、さまざまな方々と対話をしてきました。この本では、その中から5つのインタビューを選び、そこからこれまでの事業の中で得た働き方に関する私の気づきをコラムという形で収録しています。
筆文字デザイナーとして独立し活動を続ける方や、スパイス料理への情熱と出会いからスパイス料理愛好家としての発信を始めた方、看護師として働きながら大豆コーヒーのブランドを立ち上げた方など、様々な生き方を持つ方々の経験が詰まっています。これまでの取材を通じて感じたのは、働き方という結果だけを見てもその人の本質は見えてこないということ。むしろ、どのような価値観を大切にし、自身の方向を変えながら日々を歩んできたのか。その背景にこそ、その人の魅力や生き方の核心があるのだと思います。
同時に「試行錯誤することの大切さ」についても執筆中に深く実感したことのひとつでした。一見、遠回りに見える試行錯誤の過程が、実は最も確かな近道になるということ。それぞれの方が、自分の好奇心や興味、時には違和感を大切にしながら、小さな一歩を積み重ねて来た姿勢は、事業の規模や立場に関係なく、成功の土台となっていました。
また、取材では「軽やかさ」「問いを立てること」「観察すること」といったテーマが繰り返し浮かび上がりました。軽やかに動きながら、現状を観察し、次に進むための問いを立てる。また、周りの人からの問いによって気づきを得る。その日々の繰り返しが、働き方や生き方を前向きに変えていく力になると感じています。
やり続けることの意味
振り返れば、独立して7年。会社を立ち上げて3期目が終わろうとしています。この間に5冊の本を世に送り出し、そのうちの1冊が自分の著書になりました。
「バズ」のような成功はありませんが、だからこそ感じていることがあります。それは「やり続ける」というシンプルな行為が、実はどれほど難しくて、同時に価値のあるものなのかということです。それをこの7年間で深く学びました。働く中では、常に結果が求められます。その結果を求める中で自分のペースを守り、継続していくことの難しさをこの7年間で何度も感じました。特に、途中で大きな成果が見えないときには、「このまま続けていいのだろうか」と悩むこともありました。でも、継続していくなかで、どうしようもないことがあると知り、それに悩まなくなり、その先で「絶望する」という選択肢が消えていきました。
それは、周りの人の力を借りながら「なんとかならなくても、今できることをやり続けることで、なるようになる。」ということを経験から知ることができたからです。
今回の本は、その「やり続ける」姿勢とそれを体現する方々との対話の集大成でもあります。一見、遠回りに見えるような道でも、続けてきたからこそ得られた気づきや経験がこの本の土台になっています。
出版はゴールではなくスタート
今回の著書を出版することで、本の出版はゴールではなく、スタートである。ということを深く実感しました。これまで出版社として著者の方々に伝えてきたことが、自分の言葉として自分自身に落ちていくということはとても貴重な経験でした。
出版後に、文学フリマに出店し、初めて自分の本を自分で売るという経験もしました。これまでは出版社として他の著者の本を販売する立場にいましたが、自分が書いた本を直接販売するということは、また違った感覚でした。会場に並んだ自分の本を見て、これまでの道のりが一冊に凝縮されているように感じました。
目の前で本を手に取り、「これ今の私に必要な本です」と語りかけてくださる方、「え、そのイベントめっちゃおもしろいですね!」と言って立ち止まってくださる方。色んな方の言葉や表情を見る中で、本が私や事業を知っていただくきっかけとなり、新しいつながりを生む媒体となることを、改めて体験することができました。
イラスト表紙に込めた想い
今回の表紙は、以前からお願いしたいと思っていた猫野ソラさんにお願いしました。
ご依頼の際には本のテーマやこれまでの私の活動を伝えるために作成した提案資料をお送りしたのですが「すごくわかりやすかった」と言っていただけたことは制作中とてもうれしい瞬間でした。
完成した表紙には、実際に「カジュアルな深掘りーただ語る+」の情景が浮かぶようなイラストが描かれています。読者の方から「すごく、こんちゃんぽい」と言っていただけたのは、自分自身の活動や価値観が表紙を通して伝わった実感があり、私にとって何よりもうれしい言葉でした。
働き方よりも大切な価値観
この本を通じて届けたいのは、「働き方にフォーカスしすぎないことの大切さ」です。働き方というのは、自分自身の価値観を大切にし続けた結果から自然と生まれてくるものであり、あくまで手段に過ぎません。まずは自分自身が何を大切にしたいのか、どんな風に日々を過ごしたいのか、そうした根本的な価値観を見つめることが重要だと感じています。
私自身、公開取材や日常の中で、「どう働くか」を考えるよりも、「自分は何を大切にしたいのか」を問い続けてきました。その問いの中で見つかった心地よい時間を過ごすこと、好奇心を大切にすること、周囲と穏やかに繋がることといった価値観が結果として働き方や選択を形作っていったのだと思います。
働き方改革やキャリアプランといったワードが語られる中で、それらにとらわれすぎると、かえって自分の本当に望むものが見えなくなってしまうこともあります。この本では、そうした風潮や言葉に流されず、自分自身の価値観を軸にして考えることの大切さを伝えたいと思っています。
読者の方がこの本を通じて、自分の中にある価値観に気づき、それが働き方や生き方の選択肢を広げるきっかけになれば。そんな思いで書き進めていました。
誰かのストーリーが自分を見つめるきっかけになる。
この本には、様々な方の生き方や考え方が詰まっています。もちろん、仕事は違う、育ってきた環境も違う。でも、その中に、必ず今の自分につながることがある。読み進めながら、自分自身の中で「やってみたいな」と小さな火が灯るような、そんな瞬間が生まれたらうれしいです。
変化は、大きな決断だけでなく、普段の生活の中のちょっとした行動から始まることもあります。取材させていただいた方々も、最初から大きな展望があったわけではなく、目の前の小さな「おもしろい」に向かって一歩を踏み出したことが、今の働き方につながっています。この本が、読者の皆さんのそんな一歩に寄り添えたら幸いです。
Kindleも紙の書籍も、書籍というのは手元に置いておくことができます。何度でもその瞬間に立ち返ることができます。この本が誰かの暮らしのどこかで、新しい価値観との出会いに寄り添う一冊になってくれることを願っています。
来年1月19日(日)には出版記念のイベントを開催します。
「カジュアルな深掘りーただ語る+」の会場であるビートルビルの代表金子さんと対談をします。
このイベントもみなさまの新しい価値観の出会いの場になります。
ぜひ、ご参加いただけると幸いです。