小説って、いいな(小野寺史宜)
どうも「小説」から縁遠く、エッセイやビジネス本ばかり読んでしまう傾向があり、記録をたどったところ小説を読んだのは約4ヶ月ぶりだったことが判明しました。
これじゃアタマがカタクなっちまう。やっぱり小説を読まなければいけません。この本を読んでそう思いました。
この本を読んで思った、小説のいいところ。
雑学を知る
ビジネス書だと、「◯◯について知りたい」という目的が明確です。裏を返せば、それ以上のことはなかなか知ることは難しいかもしれません。
しかし、小説だと、「これは知らなかった」という事にたくさん触れることができます。
この書の場合は、ベース(楽器)の技法といった事は初耳で、奥深さを知りました。
情景がある
この小説の舞台は東京都内と鳥取です。どちらも具体的な地名や駅名が登場します。鳥取のことはよく分かりませんが、都内については、ほとんどのところがこれまで行ったことのある場所で、光景が頭の中に浮かびます。日本橋、南砂町、都電、南大沢などなど、「そうそうあそこはそんなところだよね」と感じ入るところがたくさん出てきます。
この本を読むと、東京都内にも色々な景色、特徴の違いがあるんだなぁと思います。
言語化してくれる
心の難しい機微を、とても明確に言語化してくれています。
「なんでコイツからは嫌な感じがただようんだろう」という人間、世の中にもいますが、その「雰囲気」に説明はつけようがない、と思っていました。この本はそこの「雰囲気」が言語化されていて、スッキリします。
最後に
お店をやめようとする主人公に対し、近所のお店のおばちゃんが語りかけます。
「時間はね、あるようでないよ。四十年なんてすぐに経っちゃう。気づいたら、できないことだらけになってる。そのときにあれをやっとけばよかったなんて思わなくてすむよう、がんばんな」
そのとおり。
私、現在50歳。「あれをやっておけば」と思いたくないので、ここ数年は自分がやりたいことを一生懸命やっています。そこには後悔はないのですが、主人公が過ごす20代という時は戻ってきません。この時期は「やってなかったなぁ」と思います。
だからこそなのか、この小説を通じて、「自分がやって来なかったこと」を体験した気持ちになる。いわゆる
擬似体験
ができることが、小説の特徴です。この書はまさにそれにピッタリな1冊です。
本屋大賞にノミネートされたのも納得の一冊です。