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編隊空戦ドクトリンについての覚え書き①

1.注意事項

あくまでこれまで私がフラシム(DCS,IL2やWarThunderなど)で体験したことをベースにしたものです。人様に読んでいただくというよりは、自分の知識を言語化する練習を主としていますので、ところどころ注釈無しで謎の用語が出てくるかと思います。

2.FightingWingドクトリン

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若くて経験の浅いパイロットのうち、10回目の飛行に達する前に撃墜される割合は確実に増えており、やがてそれは5%を超えるようになった。
アドルフ・ガランド中将 ドイツ空軍
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まず、編隊の隊形についての話ではないことにご注意ください。
編隊の組み方としてのFightingWingの要素はありますが、ドクトリンとしてのFightingWingとは異なります。
あくまで、編隊空戦における長機・僚機の指揮方法、または役割分担を表します。編隊の隊形と混同するので見出し以外ではもう一つの言い方であるWeldedWing(=直訳では溶接翼)を今後は使っていこうとおもいます。

2.1 実施例①(中距離ミサイル装備機の場合)

中距離ミサイルを装備した戦闘機で実施する場合の手順はだいたいこんな感じです。
※ベトナム戦争の頃の米空軍では多くの場合、僚機は射撃しなかったようです。
①接敵・目標指示
1.長機は交戦を決定。使用兵装・戦闘計画を僚機に伝える。
※ブリーフィング時に使用兵装・戦闘計画の取り決めがなされている場合はこの限りではない。
2.僚機は了解と応答。
3.長機は目標を指示。射撃地点に遷移する。
※ワイルドカードを発見した場合は離脱するか、
 それと交戦するか決める。
4.僚機は指示された目標を捕捉し、兵装が適切に選択されていることを確認したらその旨を長機に伝える。

②射撃・離脱
1.(オプション)長機は統制射撃を行うか、射撃に際しては一時的に編隊間の距離を空けることを許容して僚機に適切な射撃をさせるか決定し、その旨を僚機に伝える。
※図は許容しているパターン。
2.(オプション)僚機は了解と応答。
3.長機は射撃を通告。
4.僚機は射撃を通告。
5.長機はミサイルがアクティブになったことを伝える。
6.僚機も同じくアクティブになったことを伝える。
7.離脱機動の開始。(指示を行うかは事前の戦闘計画にもよる)

中距離ミサイルの登場により飛躍的にWEZが拡大したため
長機と僚機が同時に敵に対して有効な射撃を行うことが可能となった。

③集合・再攻撃または空域離脱
1.長機は自身が定めた方位またはミッションの要求に合わせた方位へ針路を定める。(方位・速度・高度の連絡は必要に応じて)
2.僚機は長機とはぐれていない場合、了解と応答するだけでよい。

この段階までお互い生きている場合は、長機が状況判断を
ミスしない限り撃墜されることはほぼない。

2.2 実施例②

①接敵・目標指示
基本的にやることは2.1と大して変わりません。
敵との交戦を決定した編隊長の為すべきことは編隊全機の機銃を敵に指向することだけです。

密集編隊で突撃、火力発揮を狙う場合はこのようにタイトに組む

史実的には中隊レベルの空中戦になると、双方の機数が多いこと、また爆撃機護衛・迎撃というように高度が要求されることからほぼ同じタイミングで互いを発見するパターンが多かったようです。

双方ほぼ同時に敵を捕捉、編隊を敵に指向している図

②射撃・離脱
これも2.1と大してやることは変わりません。
ただし、中距離ミサイルを持っている機体に比べて圧倒的にWEZが狭いので僚機に別の敵機を狙わせるといったことは極めて危険です。
編隊間隔を維持できている場合、下の図のように長機が仕損じても
僚機が敵を撃墜することが期待できます。

③集合・再攻撃または空域離脱
これも2.1とやることは変わらないです。
ただし、攻撃を実施した編隊は敵の反撃に対して無防備になるので、可能であれば上空待機の編隊がいるといいですね。
もし敵に追撃された場合は、追われている側(たいていの場合僚機)を軸にローリングシザーズを実施して援護しましょう。

※↑問題あったら自分で撮りなおします。

援護無しかつ離脱に失敗した場合は、各個戦闘に移行しましょう。
多分僚機から先に撃墜されます。

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編隊長の責務は可能な限り速やかに、なしうれば敵に気付かれないうちに、味方の全ての機銃が敵機を狙い射ちできる位置へ編隊を導いていくことだ。
RAF ジョニー・ジョンソン少将
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3. FightingWingドクトリンの分析

◆メリット
・動画・写真映えする。
・やっている感が凄く味わえる。
・AIM-120Cといったアクティブミサイルを使用可能な機体では戦闘効率の低下を避けられる。※SRHミサイルでもそれなりに期待できる。
・編隊を組めて、レーダー操作ができるパイロットであれば長機がSAを維持できている限りにおいては生残性が高い。
 ⇒経験の浅いパイロットの生残性の向上が期待できる。
・僚機の練度に依存する度合いが極めて低い。
 ⇒とはいえ、一応の視覚的な支援は担保できる。
・非ネットワーク機の場合、各パイロット間のSA能力の差をある程度埋められる。
・通信に不慣れなパイロットが僚機でも通信帯域を圧迫しない。
・LFEにおいては編隊が必要以上に分散することを避けられる。

◆デメリット
・2機単位ではほぼ全てのTactical Interceptを行うことができない。
・僚機が戦闘機動中に編隊を維持するのに注意を払う必要があるため、編隊全体のSAが低い。
・火力が維持できる反面、長機の戦闘機動が制限される。
・長機が近接格闘戦を行う場合、僚機は長機の支援に専念するため、僚機自身が極めて脆弱な状態になる。
・僚機による視覚的あるいはレーダー・RWRといった電子的なカバレッジが限定的。
 ⇒「ツー(了解)、ビンゴ、長機が炎上中」しか僚機は発言する必要がない、というジョークがあるほど僚機の責任が少ない、つまり僚機の支援が期待できない。
・クラシックBFMとの相性の悪さ。
・被発見時の脆弱性の高さ、あるいは被発見そのもののリスク。
・意図の読まれ易さ。
・実機と違い、編隊飛行訓練を積んでいない人=初心者という場合が多いので、経験の浅いパイロット向きとはいえ実際は初心者にはあまり向いていない。
・編成が固定すると僚機が自分の頭で戦闘計画を考えなくなる。

4.個人的な考察

このドクトリンは良くも悪くも運用する機体(武装)のWEZと最小旋回半径に依存するというのが個人的な印象です。
AIM-7以上の中距離ミサイルを使用可能な機体でこの運用を行う場合、条件にもよりますが射程が35nmくらいとれること、また近代的な飛行制御システムを持つため隊形の維持も容易で、編隊としての機動性の低さは完全に相殺できます。これは10nmくらいの撃ち合いまでその傾向が続きます。
しかしながら、WEZがせいぜい1000mくらいしか取れない初期のジェット機や250mあるいはそれ以下の大戦機では僚機は長機についていくのがせいぜい。さらに長機に対して敵機が迫ってきていることを伝えれることができれば御の字です。
これは実際にフラシムで機銃縛りで試してみればすぐにわかるのです。戦闘機動中に長機にうまく追従し、僚機として適切な役割を行うためには長機の最小旋回半径の1倍~2倍程度を維持しなければならず、遠ければ火力が、近ければ状況認識が低下します。結果として、編隊としての火力は敵編隊に対する攻撃、対地攻撃を除けば長機しか火力を発揮できません。

大戦機にまつわる話では、気が付いたら僚機が物理的に消えていたとか、長機に追従するのに必死で状況が何も分からなかったという体験談は枚挙に暇がないです。

大戦中はドイツ空軍を皮切りにロッテ・シュヴァルム戦術に取って代わられ、4機編成のフライトの内、エレメントを構成する2機は連携が必要とされる局面まではWeldedWingを組んでいたようです。
なので実質WeldedWing×2で連携していくイメージですね。
※ヴェルナー・メルダース氏が考案した近代的編隊空戦法  
 このあたりの連携を突き詰めていくとDoubleAttackSystemドクトリン(以下DAS)へと発展していきます。

フライト単位では時代遅れとされつつも、なんだかんだ言って使われ続ける理由は長機が適切な判断が可能な限り、僚機の生残性がある程度確保できるという一点につきます。
長期間の戦闘で人員を損耗した飛行隊に訓練課程を終えたばかりの新人が補充された場合、新人に個人の状況判断をベースにした連携など望むべくもないです。
米軍のRedFlag演習でよく言われるように新人パイロットは最初の10回の出撃を生き残らせることが重要であるため、経験豊富な長機にくっついて経験を積ませるWeldedWingドクトリンは戦時下の飛行隊のあり方としてはある程度普遍的なドクトリンのようです。
特に現用機では僚機も長機と同じ攻撃効率を持つことから、下手に新人パイロットにDASをやらせるよりは戦力として計算できる要素もあります。
しかし、あくまで編隊を1機と見立てるドクトリンのため、敵編隊が同数以上の場合、または敵がDASを使用する部隊の場合、長機・僚機の練度如何に関わらず非常に困難な状況が待ち受けています。現用機に焦点を絞ると、編隊全体のSAと機動性が低下するため、自軍がAWACS・GCIといった情報面で敵と同等のレベルでない限り困難な状況に陥ります。

5.まとめ

あれこれ書きましたが、WeldedWingドクトリンは戦時下で経験豊富なパイロットが不足する場合、編隊の数字上の戦力を維持するのには役立ちます。編隊あたりに戦術レベルで判断が可能なパイロットの数がLooseDeuceではフライトの全員、DASでは最低でも2人要求されるのに対してWeldedWingでは最低1人で可能。2人用意できれば何とかなる点は下手に他のドクトリンを維持し続けるよりは戦力を維持可能です。
なので、とある作戦に投入された飛行隊が全員熟練の場合はしばらくはLooseDeuceまたはDASで戦闘可能ですが、損耗してきて補充が新人の場合は必然的にWeldedWingに回帰するんじゃないか、というのが個人的な見立てです。
※再編・訓練のために後方に下がれる場合はこの限りではありませんが。

自軍の仮想敵に対して戦術レベルにおいて機数面で常に優勢が維持できるのであればこのドクトリンは特に問題にはなりませんが、同数または情報面で同等かそれ以下という場合には初撃で優位に立てなければ相当厳しいとは思います。
もっとも戦術的な不利を補うためのTactical Intercerpt自体がかなりのリスクを負うものなってしまうため、ある程度僚機が経験を積んできたタイミングで早々にDAS(多分LooseDeuceはまだ無理)の訓練に移行するのがベターな気がしています。




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