#2 Inorganic loveの物語についてぐだぐだ
3歳の男の子にチャカと呼ばれていた魚のおもちゃは、お風呂より広い水溜りで自由になったことに困惑していました。デパートも、住む所も一緒になって作られた大きな船が沈んでしまったのはちょうど一週間前のこと。人間は全員陸に上がったのでしょう、沈んだものの中に生き物はいないようでした。
今まで自由に移動できたのはバケツか洗面器の中くらいだったので、チャカは『沈んだものを全部見てみよう』と思い立ちました。3歳の男の子のおもちゃ箱の仲間も、もしかしたら一緒に沈んでいるかもしれないですし。
チャカは、船が沈んで居住区から少し流されていました。周りには見たことがない位大きなひらひらした布や、一押したら崩れてしまうケーキ、割れた電球の破片などが落ちています。このあたりは確かおもちゃ屋さんにいたときの場所で…商店街だなとあたりをつけました。居住区はどちらだろうとキョロキョロしていてチャカはギョッとしました。人の形をしたものが沈んでいたからです。
チャカは、死んだ生き物を見たことがありませんでした。でも、人間が頭を長い間水の中に沈めていたら死んでしまうことは知っていました。3歳の男の子のお母さんが、いつも気をつけて水遊びさせているのを見ていたからです。
『大丈夫?』
返事はありません。チャカはそこで気がついたのですが、沈んでいたのはショーウィンドウに飾られていたマネキンでした。きれいなドレスを着て、髪をキュッと結って、まつ毛をバサバサさせている彼女を見て、チャカは綺麗だなと思いました。
彼女はマネキンなので心がありませんでした。飾られていたときも、海に落ちてからも、何も感じてはいませんでした。チャカに話しかけられたマネキンは、はじめは自分に対して話しかけられたということがわかりませんでした。そのように扱われたことがなかったのです。チャカは人に大事にされてたので、人の真似事が出来るおもちゃでした。
『こんにちは、僕はチャカ。あなたはとても綺麗なので、海の宝石のパールって呼んでもいいかな』
『構わないわ』
名前をつけてもらったマネキンは動けるようになりました。
『よかった、これで海の底の砂に飲まれないね』
『それについてはよく分からないわ。私、あなたに名前を貰って生まれたばかりなの。海?の底の砂に沈むのは良くないことなのかしら』
『ううん、僕はあなたが綺麗なので砂に沈むのがもったいないと思ったんだ』
『そうなのね、わかったわ。じゃあ砂に沈まないようにあなたについて行けば……あなたは嬉しいのね』
パールは初めて注がれた心を心地いいと思い、チャカに着いていこうと思いました。
『そうだね、せっかく動けるようになったんだ。僕と一緒に沈んだ街船を見て回ろう』
こっからザッと書くんですけど……
チャカとパールは、沈んだ無機物達に心を与えながら街船を見て回ります。そうするうちに、陸に上がった人間たちの話を無機物達から聞くことになります。恋人同士の話。友達で一緒に暮らす話。自分の好きな物に囲まれて暮らす話。人間たちのように限られた命を幸せに暮らすことについて考えるようになります。2人は、くちてしまうまでの長い命です。街船にも心を与え、生きた船と沈んだ無機物達みんなで、世界中に幸せを探す旅に出かけます。
そんな背景の、2人の出会いの絵なのです。
あ、そして2人は体が朽ちてしまうんですけどね。
チャカの心の形が身体になって…てのが#7です
https://opensea.io/collection/kirakiracharacter
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