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「名もなき野良犬の輪廻」感想(ネタバレ有)

盛り上がりはツイッター等で知っていたのだが、いかんせん地元でやる気は全く無いらしく、やっと観る事が出来たこの作品。
正直、韓国映画「新しき世界」のヒットが無ければ、この映画は無かったのではないだろうか…、と思わせる作品。

そう、この映画は「やくざと潜入捜査官モノ」であり、手垢のついたその題材をどうするか、という一点だと思うが、
「二人の男の揺れる心情をどう表現するか」に集中、わたしは見事にはまった。
ブロマンス物として最初から観たわけだが、ブロマンスは超えていたんでは無いか?と思う。

騙し騙され、惑わし惑わされた先には、一体何が残るのか。

刑務所の大統領(ヒョンス談)となっていた、表向きは貿易会社裏では麻薬取引をする組織のナンバー2ジェホは、一人の血気盛んな若者ヒョンスと出会う。
実はヒョンスは潜入捜査官であり、わりと早いうちにそれは判明し、なおかついくら親しくなったとはいえ、秘密裏にしなければならないその秘密をジェホに明かしてしまう。

ヒョンスには病床の母がいるのだが(この辺りが韓国映画)、その母親の手術等面倒を看るという約束で潜入しており、その母親が手術は成功するものの、ひき逃げにあい死亡してしまう。
荒れるヒョンスに、刑務所内を操っているジェホは1日外出させてくれるよう手配、なおかつ母親の葬儀代まで出してくれる。
すっかり心を許したヒョンス、ジェホに秘密を打ち明けるのだ。
この辺りは潜入捜査官モノの、「いつバレて殺られるか」というハラハラさとは無縁だ。それが賛否両論あるのかもしれないが、ハラハラして心臓に悪いので、正直私は「あ、ばらしちゃうんだ?」とホッとしていた。
ジェホに心開いていているヒョンスは、警察をも出し抜き、ジェホと一緒に見事組織に潜入することに成功。そして、警察学校で培ったのか、ジェホに心酔しているからなのか、見事会長の心を掴むような天晴れな仕事ぶりを果たす。

だが、危ないのは、ヒョンスだけではなく、実はジェホも会長に命を狙われており、そこを獄中で助けたのがヒョンスだったのだ。
ヒョンスは任務遂行でやっただけだが、組織からも命を狙われる孤独な男ジェホは、その一件からヒョンスを可愛がるようになる。怪我したヒョンスに「お前は痣も綺麗だな」なんて言う位だ。男惚れを超えているじゃないか。

母を亡くし潜入捜査という危ない橋を渡る青年と、組織からも命を狙われるナンバー2の男。
孤独な者同士心通じる物があるのだろう。
ヒョンスは「俺は兄貴を信じる」と言う。
だが、「誰も信じるな、状況を信じろ」と言うジェホ。

なぜなら、母親を殺したのはジェホの指示だったからなのだ。
それを知ったことにより、ヒョンスはジェホとの信頼関係を崩し、最後怒涛のクライマックスに突入するのだ、が。
実はヒョンスが刑事、という事はもうジェホどころか、会長のおいビョンガプも知っており、「あいつを始末しろ」と言われていたのだ。
殺すには惜しい、というより、手放したくない、というのが本音だったのではないだろうか。
ヒョンスを始末するより取り込むよう母親を始末する事をジェホが指示したんだと思うが(その辺りがやはりやくざなんだな、とぞっとする)、
まんまとその作戦に乗り、自分は警察だとジェホに言うヒョンス。
だが、母親の件を知れば、信頼関係は崩れるだろう、などと言うのはもうジェホだって痛いほど分かっているだろうし、何度も自分自身もそんな目に逢っていたのだろう。だから、誰も信じない。カラ笑いでごまかしごまかし生きていく。そんな術を身に着けたのかもしれない。

結局、警察をだしぬいてのらりくらりとしているヒョンスに、チームリーダーが母親の事故現場を見せる訳だが、
正直やくざもひどけりゃ警察も酷い、という一人の青年の心が壊れていく様を見せつけられる事となる。
この辺りヒョロっとしてお肌なんてつるつる、刑務所になんてはいったらもうやばいだろう(いろんな意味で)のヒョンスの顔が変貌していく。
他でもない兄貴の裏切り。ヒョンスの心が壊れるには十分な事だろう。
その間、ジェホは会長やら何やら始末成功、組織のトップとなる。
ヒョンスは警察と組織とで相打ちになるよう仕向け、自分に無茶な潜入捜査を命じたリーダーを撃ち、その拳銃をジェホに握らせたうえ、窒息死させる。
どちらも目を見ながらのこのシーン、二人の心情を思うと胸が痛く、どこで道を間違えたんだ?と思うが、そもそも出会ってはいけない二人なんだから、初めから間違えていたのだ。親しくなること自体。
でも、孤独な二人が惹かれあったことは間違いなかった。
憎しみで一杯の顔をしながらも、ジェホが亡くなるのを見届け、涙を流すヒョンス。

おそらく、チームリーダーが死んだことからヒョンスの履歴も警察から消されていることだろう。
もう、後戻りは出来ないのだ。その虚無感を漂わせる夜のシーン。
彼は、どこで道を誤ったのか、そもそも彼に選べる選択肢なんてあったのか。
固い信頼関係でむすばれていたと思っていたヒョンスが行く先は、「誰も信じるな」と言っていた兄貴ジェホと同じ道なのかもしれない。



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