「君の名前で僕を呼んで」雑感(ネタバレ有)
ネタバレ含む感想は、昨日書いたのだが、やはり作品の持つテーマというか、私などからすれば「眩しい初恋の遠い思い出」を呼び覚まされるというか…。
観た後じわじわくる映画だな、これは。
二人も忘れないかもしれないが、我々も忘れない、そんな映画になりそうだ。
いや、実際は、ラスト電話口でオリヴァーは「君を忘れない」と言ってきた。それは、もう別れの言葉だ。
忘れる。そうやって生きていかなければならない、結婚するならとくに。
私は、特にオリヴァーを不誠実とか、若いエリオの肉体を遊びやがって弄びやがってこの野郎、的な事は思わなかった。
だって、まだ24歳だ。
社会的に大人だと言われても、そんな歳だ。
たぶんオリヴァーは薄々自分がゲイだと気がついていたんだと思う。
ただ、時代的に(80年代)オープンにすれば「親が矯正施設に入れる」時代だ。
つつがなく、大学の同期の娘とかとお付き合いしていたんだろう。
私がまだ子供であったこの時代、日本の話で申し訳ないが、女性は「25歳クリスマスケーキ説」があり、
ケーキになぞらえ、24歳までは飛ぶように売れるが、25歳になると安売りも大安売りという時代だったのだ(よかった、今で…)
アメリカでそうだったのかは私の勉強不足で分からないが、2年も付き合ったお嬢さんと婚約というのは自然な流れかな、と思う。
それと、退路を断つ、という部分もあったのかもしれない。
エリオにその報告をしてきた、というのは、
エリオにもう期待を持たせない、という意味で私は誠実だと思った。
じゃあ、最初から関係もつなや!彼女いるんだろう!(ぷんすか)となるかもしれないが、
実際オリヴァーは自分の気持ちを抑え、草場に寝転びながらのキス(あー、これモーリス…)でも、もうやめるよう言っている。股間触られても!!
どちかというと、エリオが若さ故性に興味津々、そしてエリオ自体はゲイでは無いんじゃないかな、と思う。
年上の知的ハンサムボーイに、憧れと嫉妬と、異国の匂いと、そう最初に言っていたまさに「侵略者」という言葉、そのままだったんじゃないかな。
心の侵略者、ここまで侵略してきたのだ。
若いエリオが夢中になるのは分かるが、じゃあオリヴァーが関係まではもたないようすればいいじゃないか、というのは、私は無理だ。きっぱり言わせて貰えば、私だったら無理だ。
恋は人をバカにするから、計算なんて出来ないから、海外ならなおさらだ。
あの北イタリアの夏の光の眩しさ、光と緑と影のコントラスト、自転車で走るとき感じる風、果実の香り、隣にいる自分を想っている子の体温、
無理、自制するの無理(きっぱり)
だから、関係をもったあと、苦悩の表情をするオリヴァーが何回も出てくる。
正直言えば、ひと夏の関係で終わり、と思っていただろう、最初から。
遊びではなく、本気で好きになり、愛したけれど、その想いは本当だけれど、期間限定だと思っただろう。
だから婚約した、のかもしれない。期間限定に出来なかったから。割り切れなかったから。
一方のエリオは冬も会えることを楽しみにしていたんだろう。
父親の話を聞き、でもたぶん半分くらいは聞き流して(というかあそこでは聞ける状態では無かったと思うし、若いエリオにはまだ分からない部分がたくさんあったと思う、若いから)
今こそ会えるかもしれない、と思った電話口での驚きの告白。
エリオは忘れるんだろうか…、いや、まだ若いエリオにとって、オリヴァーから告げられた事は晴天の霹靂、もう世界の終わりにいるような気分だったろう。
あー、男と別れて世界の終わり気分になったの何回もある…、と思いつつ、でも世界なんて終わらなかったし、日常生活に戻った、自分は。
エリオもたぶん世界の終わりにいるような、そんな気分で暖炉の炎を見つめ、オリヴァーに「オリヴァー」と呼ばれた事を思い出していただろう。
そして、そこで父の話をヒリヒリした気持ちで思い出しただろう。
忘れない、そう思いながら、炎を見つめていたと思う。
ここで、エリオは大人になった、なんて陳腐な表現はしたくない。
誰も、大人になんてなりたくないのに、歳だけ取って「大人と言われる年齢になっている」にすぎないのだから。
だから、忘れないと思いつつ、世界の終わりと思いつつ、でも普通に日常はやってきて、その日常にいつしか薄れて、忘れてしまう。
でも、何かの折に、ズルっと鮮やかに思い出すのだ、その夏の空気を、体温を、愛したという気持ちを。
それは、本当にそこにあったのだ。
※途中で終わっているという原作を読んでいない為、実際は違うかもしれません。
原作を読んだら、それも含め感想をブックレビューであげたいと思う。
あくまで、映画だけの感想と雑感です。
※映画にもなった某BL漫画で、割と重要なシーンで桃が使われていたんだけど、もう桃すらも邪な気持ちで見そうだ、桃。