飽きるほどサンシャインマスカット食べたい
桃とかぶどうとか、水分の多い果物が好きだ。口の中が水分でいっぱいになって、陸地にいながらもこれ、溺れるんじゃね?と命の危険を感じてしまうこと。食べていると手元が水遊びしたみたいに濡れてしまうこと。味が美味しい以外にもこんな楽しみがある。最高だ。
そんな大量水分含有果物狂信者の私が今年目をつけている果物が、サンシャインマスカットだ。通勤電車でサンシャインマスカットの広告を見て、私の中でサンシャインマスカットは完全に「気になるアイツ」になった。もちろん食べたことはある。みずみずしくて甘くて美味しかった。皮も食べられたと思う。でも、明確に味が思い出せないのだ。もしかして、友達が美味しいと言っていたから美味しかったと思い込んでいるだけかもしれない。メロン然り、黄緑色の果物は美味しくて値段が高いと相場が決まっているもの。ああ、今すぐどんな味だったか確かめたい。
すぐにスーパーに向かったがサンシャインマスカットはなかった。調べると、サンシャインマスカットは大体通販か、ふるさと納税か、デパートの地下の食料品売り場で手に入れるらしい。美味しすぎるからだ。美味しすぎるから簡単には手に入らないように偉い人が市場をコントロールしているのだろう。憎い。すぐにふるさと納税で甲府市のサンシャインマスカットを二房注文しようとしたが、税金免除の申請に色々と手間がかかりそうだったのでやめた。こういうとき、もっと学生時代真剣に現代社会・税金の仕組みについて勉強をしておけばよかったと思う。バカは手軽にサンシャインマスカットさえ注文できないのだ。学校は大事だぞ、小学生YouTuberよ。
そもそもサンシャインマスカットをお腹いっぱい食べたことがある人はどれくらいいるのだろうか。安くはないし、入手しづらいし、やはり貰い物とかになるのだろうか。サンシャインマスカットを人にあげようという素晴らしいセンス・優しさを持つ知り合いがいる時点で、その人もきっと有能でセンスがある人なのだろうと思う。サンシャインマスカットを素敵だと思う人が、サンシャインマスカットを素敵だと思う人を増やしていく。もうサンシャインマスカットが、選ばれし人のための選ばれし食べ物のような気がしてきた。婚活のプロフィールの好きな食べ物欄に「サンシャインマスカット」と書いてあったら、即求婚したいところだ。高収入・高学歴・サンシャインマスカットだ。
「サンシャインマスカットをお腹いっぱい食べてみたい。気が向いたら送ってくれ」と母親に話したところ、「じゃあ送ってあげるわ」と言われた。笑って流されると思ったので拍子抜けしてしまった。私は幼少期から今まで生活に困ったことは一度もなかったが、やはりそれは仕事人間であった両親による金銭的な余裕のおかげだと思う。両親は私の世話をあまりしてくなかったので、感謝はしているが好きではないし、向こうも手元から離れていった私にさほど興味がないことを知っていた。意地でも頼りたくなかったので、上京して「〜が欲しい。買って送ってくれ」と言ったことはなかった。向こうからいわゆる仕送りとしてダンボールに入った大量のカップ麺とインスタント味噌汁とコーヒー、そして心温まる手紙、なんてものが送られてくることは一度もなく、それが寂しくも、「まあ欲しいものは自分で買えるし」と強がりにもなった。「ほっといてくれ」と言えばどこまでもほっとく両親だ。
それが、サンシャインマスカットを送ってくれるという。向こうも、頼られて嬉しかったのだろうかと思う。子供がいくつになっても、親というものは子供のワガママを愛おしく思ってくれるのだろうか。サンシャインマスカットだって、本当は自分で買えないわけではない。ただ、遠く離れた母親にわざわざ買ってもらうことが、嬉しくも、恥ずかしくもある。
選ばれし者だけが食べられるというサンシャインマスカットを、ノリで送ってくれるような豊かな家庭に生まれたこと、サンシャインマスカットを素敵だと思えるセンスを持った私に育ててくれたこと、ありがたいと思う。いい家庭に生まれたもんだ。そんな壮大で余計なことを考えながら送られてくる(はずの)サンシャインマスカットを待つ日々である。