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イノベーションにコミュニティは不可欠。リビングラボの価値創造とは【TLLイベントレポート#2】
7月29日に行われたイベント「“しごと“を見つめ直すフィールド 〜ローカルイノベーターの宝庫:京丹後に学ぶ〜」のレポート第2弾。当日に会場に流れていた空気や登壇者の熱をお伝えすべく、トークセッション形式で記していきます。
山下:司会を務めます、丹後リビングラボの山下と菊石です。最初のセッションは「丹後リビングラボから見る“先進的”な京丹後の特性」と題し、京丹後市行政から若林さん、丹後リビングラボから長瀬さんと白井さんをお迎えし、3名でお送りします。
長瀬:丹後リビングラボで事務局を務めております、一般社団法人Tangonianの長瀬です。本業はコミュニティツーリズムで、移住されてきた方と地域にもともといる方を結びつけるお仕事をしております。
白井:同じく丹後リビングラボの白井です。IDL [INFOBAHN DESIGN LAB.]というチームで、色々な企業とプロジェクトデザインに取り組む一方で、地域の文脈では北海道から西日本まで、様々なエリアで持続可能な価値創造に取り組んでいます。中でも丹後にはもう6年くらい通っているので、とりわけ愛着のある場所です。
長瀬:僕たちが運営する丹後リビングラボのビジョンについてご説明すると、新たな価値を生む装置として、生活空間の中の実験室=リビングラボという仕組みを使っています。暮らすこと、働くこと、色んなことをミックスして実験する中で、新しいことを生み出していくイメージです。
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「場があったとしても、京丹後の人だけが集まる陸の孤島になってしまうと新しいものは生まれない」と言う長瀬さん。地域内外でビジネスや共創が循環するまちを作るために、上記のような取り組みを進めています。
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企業向け研修から新たなビジネス創出が生まれた事例として、京都市内でバイクの販売やリース業を営む株式会社レオタニモトのケースを紹介。元々は、社員のバイク運転技術を講習できる場所探しから始まった取り組みで、研修を通して京丹後を回る中で魅力を感じていただいた結果、新たなツアー商品のアイデアへと繋がったとのこと。免許を取得したての女性バイカーのなかでも公道運転に不安をお持ちの方が対象で、京丹後で練習してから公道を走るという内容で、なんと販売開始から1ヶ月で即完売だそう。
また、コワーキングスペースについては、京丹後にはほとんどなかった状態からのスタート。活用可能なスペースの所有者や、人が集まる場づくりへモチベーションを持っていた方など、様々な人の協力の結果、現在は市内に十箇所のコワーキングスペースが生まれ、この半年間で利用者は約6倍に増加。源泉掛け流しの足湯やシェアキッチン併設など、ユニークなスペースもあります。現状の利用者は9割近くが地元の方ですが、単にビジネス目的だけでなく、地域の方と繋がったり自分の趣味を見つけたりする場所として使われています。
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菊石:コワーキングスペースを利用すると普段の仕事では会わないような方から色々な情報をもらえたりしますよね。京丹後では突発的にイベントが起こっているイメージもあって、いつも面白そうだなと外から見ています。
長瀬:コロナの前はイベントを5つハシゴするような日もありましたね。人との関係性が非常に近いので「XXくんの企画なら、気になってたから行くよ」という風に、何か新しいことをやるタイミングで色んな人がサポートしてくれるカルチャーがある。
白井:地元の方にヒアリングしたことがあるんですが、京丹後の人口は5万2千人程度なのに、その規模に対して年間で200も300もイベントが起こっているという状況が当たり前に発生しているんですね。「行きたいのに、別のイベントと被って行けない」という声もあるほどで。
長瀬:“勝手に観光協会”的な存在の方がいっぱいいて「明日あそこでイベントあるから行った方がいいよ」とか教えてくれるんですよね(笑)。コーディネートしたがりとか、紹介したがりな人がまちの中に多いイメージはありますね。
京丹後の“先進性”から探索する、企業との関わりしろ
自然資源のポテンシャルや、人と人との繋がりの強さなど、長瀬さんのお話から感じられた京丹後エリアの多様な可能性。では、企業の視点から見たとき、その魅力はどのような意味を持つのでしょうか。
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白井:全国色々なエリアを見ている身からしても、京丹後は企業やビジネスパーソンにとっての関わりしろとしてのポテンシャルが非常に高いと感じています。丹後リビングラボが始まる前から、有識者会議的に、様々な企業との接点を生み出すための検討会を実施されていたと伺っています。
その流れから、丹後リビングラボに代表されるような事業が立ち上がっている事実が、物事をカタチにするエネルギーの強さを物語っていると思います。
しかも、それを主導しているのが行政かというと、全くそうではない。プレイヤーがそもそも多いんですね。それぞれが個人として活躍するというよりは、その繋がりをサポートするようなネットワークが非常に盛んで、人を繋ぎ合うイベントがそこかしこで起こっている。様々なタイプの魅力的な人が多くいるので、ニーズや目的に応じて、企業と連携できる余地を強く感じます。噛めば噛むほど、色んな可能性が浮き出てくるエリアです。
菊石:若林さんは今年の3月に京丹後市に移住されてきたそうですが、他の地域と比較して、京丹後のどんなところに可能性を感じていますか?
若林:私が京丹後に来るのを決めたのは、面白そうだと感じたことが一番大きくて、実際に飛び込んで5ヶ月経った今もその印象は変わりません。
地域の人と触れ合う機会が多く、総じてオープンなまちであることを日々感じますが、歴史的な影響もある気がします。江戸時代からちりめんの生産が栄えた一方で、西陣織の供給地として人の往来もあったり、北前船といった海側との交流も盛んだったり。外と中の面白い人材が集まる文化が根付いているのかと。
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若林さんが利用する「ふるさと創生職員制度」は、2021年から始まった京丹後市独自の制度で、公務員の新たな働き方を提案しています。「京丹後市へ移住したいけれど、働き先が見つかるか不安」という人が、3年間の任期で正規職員として行政に関わることができます。
公務員としては異例な「副業OK」の雇用形態で、都市圏の企業でリモートワークをしながら、週3日は行政で働くことも可能。ニューノーマルに対応した地方移住の選択肢として注目を集めています。時代の流れにルールを合わせていく感度の高さ、懐の深さに「京丹後らしさ」を垣間見た気がしました。
長瀬:新しいことやユニークなことを面白がるカルチャーがまちにあるような気がしますよね。未知のものを面白がりつつ、応援してくれるようなカルチャー。ファーストペンギンという言葉がありますが、誰かが「これ面白そうやん!」と言ったら、その周りで二人目、三人目がすぐに「やろうやろう」と続いてくれる。そういう人たちが周りにいるのは、最初の一歩を踏み出す人にとっては心強いです。
白井:失敗を恐れないというか、チャレンジすることに対して周りが否定しない雰囲気も感じています。ローカルに対するステレオタイプだと、訳のわからないものは拒絶、拒否するイメージが強かったりしますが、京丹後では、少なくとも私が関わる部分においてはそういう噂は聞いたことがない。
山下:イノベーターって、単独で自然発生的に生まれるというより、それを増やす繋がりや、面白がる人、フォロワーが沢山いることが大切なんだと感じました。京丹後では、ときにはフォロワーになり、ときにはその人自身もイノベーターになっているというのは、面白い気づきですね。
白井:本当に色々なプレイヤーやチャレンジャーがいて、経験を積み重ねているからこその課題感や問いは、都会では得難いものだと思うんです。彼らがどうやって課題を乗り越えて、仲間を作って、連携の余地を作り出してきたのか、その全ての過程から、人材としても組織としても学べるものがあるなと。
若林:企業としての関わり方を考えたとき、いきなり研修から入るのは難しいと思うんです。先日も、東京のある企業とワーケーションをするにあたって社長さんが一人でふらっと来てくださいまして。長瀬さんのアテンドで色々回る中で様々なアイデアが出て、プログラム化を進めることができました。あまり形式ばらずに、まずは見にきてもらって色んな人に繋げられたら。
山下:コロナ禍以降増加したワーケーションの文脈だと、企業がローカルに来るときのモチベーションは、綺麗な自然や非日常の空間でリフレッシュしたいというイメージが強い気がしますが、私たちが京丹後に感じる面白さは、未知のものに触れられるとか、新たな視点を得られるとか、あるいは一緒に創造するみたいなところ。企業のローカルへの関わり方としても、すごく可能性に溢れた場所に見えています。
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京丹後市の事例を聞いていて印象的だったのが、イノベーションを起こすためにコミュニティや環境がいかに重要かということ。「イノベーター」や「イノベーション」という言葉は頻繁に使っていましたが、実は単体で成り立つものではなく、そのモチベーションを形にするコミュニティやフォロワーがいてはじめて力を発揮することができるのだと気づきました。
続くセッションでは、京丹後へ移住して食の事業を手がける合同会社tangobarの関さんと、蒸 -五箇サウナ- の足立さんをお迎えし、実際に事業に取り組む視点から京丹後について語っていただきました。