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サステナブルなビジネスデザインは、資源の現場からはじまる【丹後リビングラボ事業創造プログラムのご案内】
新規事業をゴールに見据えたアイデア創出には、無限のアプローチがある。弊社インフォバーンはこれまで、ヨーロッパ視察やソシエタルデザインなど、多様な切り口からイノベーション創出プログラムを提供してきた。
今までの知見を活かし、丹後リビングラボの活動の一環として今月末にIDLが開催するのが、京丹後市での事業創造プログラムだ。
地域に根ざして挑戦を続ける事業者さんをめぐり、ワークショップで自社の事業アイデアへと接続する3日間。このnoteでは、訪問する事業者さんの紹介と、彼らとの対話がもたらす気づきがビジネスの文脈でどのような意味を持つのかを考えていく。(※ 本番のプログラムでは、内容や順番の変更の可能性があります)
100年で1センチ。「土壌」から事業を見つめ直す
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京都駅から車で2時間。プログラムでは丹後半島の豊かな自然や景観など、さまざまな魅力を満喫していただくため、まずは「海の京都」の代名詞として著名な「伊根の舟屋」に立ち寄る行程になっている。丹後半島の地理や歴史、そこから育まれた文化や地域性に思いを馳せ、知的好奇心が刺激されるひとときだ。
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伊根町を経由して丹後半島を一周した後は、丹後地域の食資源を活かし、缶詰の商品開発や食の体験プログラム等に取り組む合同会社tangobarの関さんにご紹介いただいた1軒目の訪問先、てんとうむしばたけさんへと向かう。丹後で20年以上有機農業に取り組む農家さんだ。
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5ヘクタールもの広大な畑の一部で、今が旬の万願寺唐辛子の収穫を体験させてもらう。(※ 訪問時期によって収穫物は変わります)
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採ったそばからすぐ食べる。普段口にしているのとは比べ物にならないほど新鮮な野菜は、美味しくない訳がない。
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色を見て、野菜に触れて、匂いを嗅いで、味わう。
五感のフル稼働を感じながら、美味しい野菜を生み出した土壌と堆肥を作る場所を見せてもらった。
スタッフの清水さんいわく、1センチの土壌が出来上がるには約100年がかかるそうだ。落ち葉や虫の死骸、微生物が混ざり合い、発酵し、長い時間をかけてやっと土ができる。
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人口増加や経済成長によって迫る土壌劣化と、目の前の土の山を作るのに必要な時間の長さが重なり、危機感が現実として迫ってくる。
都市の生活の中で意識する機会は少ないが、食糧生産や生態系サービスの基盤になっているのは土だ。土なくして成立するビジネスは存在せず、顧客もユーザーである以前に人間として、土に依存しながら生きている。
事業の基盤として。顧客を取り囲む暮らしの基盤として。
てんとうむしばたけさんでは、自社と土との関わりの再解釈から、ビジネスの在り方を捉え直す視座を獲得できるはずだ。
モノだけでなく、人間の心がサステナブルかどうか
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次に向かうのは、アウトドアサウナの蒸 -五箇サウナ-さん。古民家をリノベーションし、目の前に流れる小川を天然の水風呂として活用するサウナ施設だ。
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この川の水は、米やちりめんの生産にも使われるほど不純物が少ない。肌触りも柔らかな軟水で、サウナで温まった体をやさしく包み込まれる感覚は言葉では表せない心地よさだ。
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悩みやモヤモヤを忘れて、心の底から「気持ちいい〜!」に浸る。こんな開放感に包まれるのはいつぶりだろう。
オーナーの足立さんが以前イベントで語ってくれた言葉で、強く心に残っているものがある。
サウナは人々の生活をより豊かにするコンテンツだという想いがあるので、それが丹後の生活の一部になることを目指しています。サウナには、自分のリズムに戻すというか、自分の中に余白を作る効果があると思っていて。自分が本当にやりたかったことを見つめ直すことが習慣化されることで、地域の人の幸福度もより上がるのではないかと思っています。
都市部の企業で働く人の中で「自分の心には余白があって、きちんと自分のリズムを保ちながら、自分のやりたいことへ一歩ずつ進んでいる実感があります!」と即答できる人は多くないだろう。
「サステナブル」という言葉が世界中で声高に叫ばれて久しいが、自分や周りにいる人の心がサステナブルがどうかという視点は、まだあまり浸透していない気がする。
自分をゼロに戻す時間をつくること。ゼロに戻った自分のモチベーションがどこに向かっているのか見つめ直すこと。足立さんのサウナは、その大切さを身を持って実感できる場所だ。
「サステナブル」は「ほしい」の動機ではなく結果であってほしい
プログラム2日目は、白い砂浜と遠浅の美しいビーチ「八丁浜」で集合し、海洋環境保護活動を行う丹後エクスペリエンスさんの視察から始まった。
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まずは、代表の八隅さんのアテンドで、ビーチクリーン体験からスタート。
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遠目からは沖縄の海にも引けを取らないほど美しく見えたのに、いざ浜に着くと、想像以上のゴミの多さに驚かされる。「海が綺麗」と「浜辺にゴミがない」はイコールではないという現実を知った。
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大人5人が集中すると、たったの5分でこの量のゴミが拾える。冬は波が大きくなるので、この比にならない量が流れ着くそうだ。
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厄介なのはサイズの大きなゴミだけではない。海上で紫外線を浴びて回収困難なほど小さく砕けたマイクロプラスチックも問題だ。
プラスチックは丈夫さ、手軽さ、安さが魅力である一方、ひとたび自然界に廃棄されると丈夫さが仇となって分解されず、環境を破壊し続けることになる。
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海洋ごみの現実を目の当たりにした後は、八隅さんが海洋ゴミをプロダクトへと加工しているアトリエへ向かう。
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プロダクトの原料は、京丹後市内全域から集められたペットボトルのフタだ。プレシャスプラスチックという、オランダ発のオープンソースプロジェクトのデータを活用して生産され、出来上がったプロダクトは京丹後市内のホテルや小売店でも販売されている。
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フタを粉砕する機械も、粉々のプラスチックを超高温で溶かす機械も、プラスチックを成形する機械も、国内で先行していた事業者(鹿児島県・ダイナミックラボ)に師事し、八隅さんがご自身で作られた。「子どもたちに綺麗な海を残したい」という責任感から生まれる八隅さんのエネルギーを前に「自分達は企業として何ができるか」という問いを突きつけられる。
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ここで得られるもうひとつの気づきが、サステナブルなビジネスにおける「デザインの重要性」だ。上の写真に映るプロダクトを見てほしい。「原料がゴミ」というコンテクストなど関係なく、真っ先に浮かび上がってくるのは、単純な「美しい」という感情ではないだろうか。
いち消費者としての意見になるが、「サステナブル」を謳ったプロダクトが世の中に溢れかえるようになった昨今、「サステナブルだけど美しくないプロダクト」に辟易することが少なくない。だからこそ、八隅さんのプロダクトのように「サステナブルだから買いたい」ではなく、「綺麗だから買いたい」と思わせてくれるものには感謝の念すら感じる。このトピックについては、過去にIDLのマガジンでも取り上げたのでご一読いただけると嬉しい。
「美しい」という価値が前提にあるからこそ、八隅さんのプロダクトは広がりを見せている。その一例として、フロンティアコンサルティングさんのオフィスには壁面アートとして導入もされた。このプロジェクトも、かつて京丹後で実施したアクティブワーキングがきっかけとなって実現したものだ。
サステナブルなビジネスを考えるプログラムだからこそ、「前提となる価値が何なのか」という問いを、京丹後エクスペリエンスさんとの対話から提示したい。
価値創出に必要なのは、一人の天才ではなく良質なコミュニティ
最後に訪問する事業者が、移住支援や起業支援、場づくりなど、人とまちとのつながりをコーディネートする、まちまち案内所さんだ。
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材木問屋をリニューアルしてカフェを併設したスペース。「ここに来れば、相談できる人が必ずいる」という場所が移住者や事業者にとってどれほど心強い存在かは想像に難くない。
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ここで生まれるのは、高校生から、働き盛りの30代、京丹後市職員まで、つながっていそうでつながっていなかった人たちの出会いだ。企画のテーマも柔軟で、「まちづくり」から「起業相談」、「地域の美味しいお店やおすすめスポット」まで、実に多様な対話が生まれている。
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お話を伺うのは、案内所を立ち上げた坂田さん。インドネシアでプロのサッカー選手に挑戦したり、中国で人材紹介事業の立ち上げをしたりと、ユニークな経歴をお持ちの坂田さんならではのやわらかな空気が、京丹後の人々をつなぐ絶妙な媒介になっていると感じた。
坂田さんは、京丹後の「掘れば掘るほど、風土に根ざした歴史や、人のストーリーが出てくるところ」に惹かれて移住を決意したという。他の地方都市と比べても、「地域としてのビジョン / テーマの見せ方」ではなく、「京丹後という土地が好きな人が集まっている」と感じるらしい。
お話を伺う内に、以前丹後リビングラボのイベントで耳にしたエピソードの解像度が上がってきた。
新しいことやユニークなことを面白がるカルチャーがまちにあるような気がしますよね。未知のものを面白がりつつ、応援してくれるようなカルチャー。(中略)そういう人たちが周りにいるのは、最初の一歩を踏み出す人にとっては心強いです。
イノベーターって、単独で自然発生的に生まれるというより、それを増やす繋がりや、面白がる人、フォロワーが沢山いることが大切なんだと感じました。京丹後では、ときにはフォロワーになり、ときにはその人自身もイノベーターになっている。
新たな価値創出を試みるときに、フォロワーや、応援してくれる人、モチベーションを上げてくれるコミュニティが果たす役割の大きさ。そして京丹後が持つそのカルチャーはどのようにして育まれたのかが気になっていたが、坂田さんのようなカタリストの存在によって成立しているのだと、ご本人を前にして腑に落ちた。
「サステナビリティ」や「資源の循環」を実現するには、コミュニティの共創が不可欠になる。「つながりをデザインする」という、絶対的な解が存在しない営みだからこそ、京丹後のコミュニティの中でまちまち案内所が果たす役割から学べるものは多くあるはずだ。
現場を知らずして「アイデア」は生まれない
以上が、今回のプログラムで訪問させていただく4つの事業者さんの紹介と、「彼らとの対話がビジネスへもたらす気づき」の一部だ。体験や対話から生まれたこれらの気づきを、事前課題や3日目に設けられるアイディエーションを通して、ビジネスにおける価値創造につなげていく。
今回の事前訪問で感じとられたのは、新たな価値創出における体験や対話の重要性だ。プログラムのテーマである「サステナブルな事業アイデア」や「資源の循環」に取り組むとき、「地方=課題先進」や「地方創生」という紋切り型の考え方からは脱する必要がある。4つの事業者さんに見せていただいた通り、食糧や土壌、水、エネルギーなど、資源を都市に供給してくれているのは地方都市だ。都市が地方に依存しているのである。
資源の新たな循環をデザインすることが社会全体の急務となった今、資源が生み出される現場に行かずして、現場の課題や現実を知らずして、その達成ができるだろうか。
今回、プログラム企画を通してその一端を垣間見て、もっと知らなければならないと思った。今まで知らずにいたことを恥じた。現場から生まれる学びや課題に終わりはなく、どれだけ足を運んでも十分になることはないだろう。だからこそ、現地で学びつづける姿勢は忘れないでいようと気持ちを新たにした。プログラムに参加していただける皆さんにも、その意味を感じていただけたら何よりだ。