見出し画像

僕の師匠である嫁のこと

嫁がよく、突然タックルをしてくる。

イチャついて来るとかではなく、本意気のタックルだ。
嫁が本気なら、確実にコカされている。
スピードもタイミングも素晴らしい。
指南してもらおう。
宮本武蔵先生も、「吾以外皆吾師也」と言ってるし。

「まず、タックルはコカすだけの技と違う。タックルは打撃」
「押忍」
「相手の向こう側まで走り抜けるつもりで」
「押忍」
「ちょっとやってみ」

やってみる。

「そんなタックルやったら膝蹴り合わされんで‼︎」

怒られた。
トイレでちょっと泣いた。

しかし嫁に教わってから、道場のスパーでもタックルがかかるようになって来た。
まだまだ試合で使えるレベルではないが、だんだんテイクダウンも取れるようになって来た。



昔、試合で腕十字を完全に極められたことがあった。

画像1


完全に肘が伸びてなんかブチブチ音がしてたが、意地を張ってタップしなかった。
そのまま30秒たってブレイクになり(空道の寝技は一回30秒)、その後泥試合に持ち込んで、ギリギリで勝利。

「根性見せたな‼︎」と褒めてくれる人もいたが、これは技を極めた相手への失礼な行為。
極まっているのに相手がタップしないのなら、勝つためにはもう折るしかない。
よっぽどサイコパスな人でない限り、意図的に相手の骨を折るという行為は気持ちのいいものではない。
僕自身、「こいつは折る勇気無いだろう」という計算の元に我慢した。
「こいつは折るな」と思ったら、素直にタップしている。
ただ、目論見が外れて折られたとしても、それはそれで仕方がない。

ちなみにこの選手、相手に情けをかけて結果負けてしまったことを怒られたのかも知れない。
これ以後の彼の試合を見ていると、彼が関節を極めたらセコンドが「折れ‼︎折れ‼︎」と叫んでいた。

この試合に関して嫁は特に何も言わなかった。

別の日に後輩の試合を見ていたら、同じようなシチュエーションで腕十字を極められた後輩は即座にタップをした。
「極まりそうになった時に明日の仕事のことが頭に浮かんで、反射的にタップしました」と後輩の弁。

社会人として当然の判断であり、「折られたら折られたで仕方がない」と考える僕の方が、社会人失格だ。

嫁にこのことを話すと、

「そんな考えやから〇〇くんは勝たれへんねん‼︎」


と、興奮気味に話した。
嫁も社会人失格だった。

昔試合で骨折した時に、当時付き合っていた彼女に
「いい年した社会人が趣味でケガして仕事に悪影響与えて……。もうちょっと考えた方がいいんちゃう?」と、懇々と説教された。
彼女の言うことが100%正しいので、僕はただただうな垂れるだけで。
これが社会人としての、正しい考え方だと思う。

だが嫁は違った。

ある試合で、半分ぐらいの年齢の選手にボロ負けした。
僕自身、選手を続けるにはしんどい年齢になって来たし、自分の衰えも感じている。
「もう試合はやめようかな…」
とポロッともらした。

「あんたそんなんでやめていいの!?」

懇々と説教された。
トイレでちょっと泣いた。



嫁に格闘技経験は無い。
僕と出会うまでは、ほとんど格闘技を観たことも無い。
その嫁が、

「今のが路上やったら…」


とか競技だけではなく実戦経験も豊富な達人みたいな口ぶりで語り出すのが、実は面白くて仕方がない。
でも、そこで笑ったらまたトイレでちょっと泣くぐらい怒られるので、僕は殊勝に「押忍」と言っている。








いいなと思ったら応援しよう!

ハシマトシヒロ
僕が好きなことをできているのは、全て嫁のおかげです。いただいたサポートは、嫁のお菓子代に使わせていただきます。