13. 年齢で人を判断しない
「あの人は若いから頼りない。」
詳しい前後関係はここでは控えますが、なぜかその言葉を聞いて悲しみと怒りを覚えてしまいました。
年齢というのはあくまで一つのカテゴリーであり、それで全てを決めることはできません。若くてもとても立派な人はいますし、その逆も然りです。
今回は、若くして自宅看取りで立派に自分の母親を見送った方を紹介したいと思います。
その患者さんは60代前半の肺がん、脳転移の女性でした。
脳転移の影響で、ふらつきや不安症状が悪化し入院していました。
すでに抗がん剤治療や放射線治療なども行われており、もう緩和的な投薬以外に行える治療はありませんでした。
残された時間は可能な限り自宅で過ごしたいとのことで、退院とともに当院が介入することになりました。
主介護者は同居している30代前半の娘さん2人でした。
仕事や子育てもあり、多忙な方々でした。
私が介入した患者さんで、主介護者がこの年齢というのは、あまり経験したことがありませんでした。
私は、娘さんたちが若いということで、若干の不安を感じていました。
患者さんの病状も不安定で、退院後、短期間で麻痺やふらつきが悪化していきました。
トイレにも介助が必要になってしまいました。
もともと体格の良い方だったので、介助にはかなりの体力が必要だったと思われます。
膀胱に管を留置して、トイレに行かなくてもよい状態にしましたが、本人の拒否感が強く、うまくいきませんでした。
また、夜間は不安が増してなかなか寝られず、家族を何度も呼んでしまうことで、娘さんたちは寝不足になっていました。
薬剤調整もうまくいかず、娘さんたちは薬を使うことで本人が寝てしまうことを怖がり、極力薬を使わずに、自分たちがそばにいることで対応したいという意向でした。
私たちもご家族の意向を尊重しつつ、それでも介護者が疲弊しきってしまわないように注意していました。
診療頻度を増やしたり、頓服薬を使えるように準備しておくなど、二重三重に対応策を取りながら経過を見ていきました。
亡くなるまで、自宅で1ヶ月程度でした。
最後は3日程度で状態が急激に悪くなり、眠るように息を引き取りました。
きっと娘さんたちは、病気でどんどん弱っていき、さらに精神的にも不安定になっていく母親の介護に、体力的にも精神的にも辛かったと思います。
それでも最後は全く動じることなく、笑顔で「もっと面倒見させてほしかったな」とおっしゃっていた娘さんの言葉が、今も私の心の中に残っています。
立派に母親に寄り添い、見送った娘さんたちの姿に感嘆しました。
娘さんたちの年齢に不安を感じた自分を恥じました。
また、これはかつて緩和ケア病棟で働いていた看護師から聞いた話です。
その患者さんは婦人科がんの若年者で、症状が激しく、最期を緩和ケア病棟で迎えました。
その患者さんのお子さんは中学生の男子でした。
母親が亡くなった後に、関わった看護師さんに一人一人お礼を言って病棟を後にしたそうです。
恥ずかしながら、今の私にもそこまではできないと思ってしまいました。
若くても立派な方々は沢山います。
自制も含めて、
年齢で人を判断するような価値観はナンセンスでしょう。
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