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18.死ぬ瞬間

「死ぬ、まさにその瞬間に人はどうなるのか」

我々はさまざまな人々の最期にでくわします。
我々医療者は死ぬ前と死んだ後に関わることは多いですが、「死ぬ、つまり息を引き取る」その瞬間に立ち会うことはそれ程ありません。

ここ最近患者さんが亡くなる、その瞬間に立ち会うことがありました。

その患者さんは身寄りのない独居の高齢男性でした。

脳梗塞後でベッド上寝たきり、食事や排泄ももベッド上。それでも介護サービスでヘルパーさんや訪問看護さんに支えてもらいながら生活していました。

ある日急にお腹がポンポンに腫れてしまいました。
我々が診察したところ、腸が腫れている事がわかりました。経過やレントゲン所見からはS状結腸捻転という病気が強く疑われました。

基本的に自宅での治療は困難な病気であり、高度医療機関で大腸カメラを使った処置、または手術などが検討される病気です。

しかし当の患者さんはもう病院には行きたくない、ここで最後まで過ごしたいとおっしゃられました。
我々は病状説明した上で本人の強い意志を尊重し、お家で出来る限りの対応を行いました。

しかしその2日後に急な状態悪化をきたし、呼吸苦が出現しました。
診察に伺った際は前日よりさらにお腹はカンカン、カチカチに張っておりすでに意識状態も悪化していました。
一目見て、これはかなり厳しい状態だとわかりました。

さっそく診察を始めたところ、早々に呼吸が不安定となり、次第に無呼吸の時間が長くなってきました。
そして次の瞬間、呼吸が止まりました。

一瞬の出来事でしたが、呼吸が止まったその瞬間の変化が印象的でした。

それまで苦しそうな表情であったのに呼吸が止まった瞬間に急に穏やかな表情になったのです。

色々と記憶を巡りましたが、我々が看取る患者さん、つまりは病院や家で布団の中で亡くなった方々で死後に苦痛の表情をしている人はほとんどいない事に気づきました。
みなさん穏やかな表情をしており、苦痛に歪んだ表情をしている方を見た事がありません。

なぜなのでしょうか。

飯田史彦著「生きがいの想像」にて死ぬ瞬間を経験した人の話が載っています。

トラウマについて催眠療法を施す際に、その人が知るはずがない記憶が思い起こされ、つまりは前世というものがあるとしないと説明できない事象が多く存在する。それらの症例について広く紹介されている本です。

本の中で前世で亡くなった瞬間のことに催眠療法で迫った際についてのことにも記載がありました。
死んだ瞬間には「身が軽くなる」「激痛が嘘のよう」「良い気持ち」「解放されてもう痛くない」、つまりはそれまでの苦しみが死んだその瞬間に一切なくなるようです。

その高齢男性の亡くなった瞬間を観察して、そのことを思い出しました。

我々は限りあるし生の中に存在しますが、そこから外の世界については未知です。
死後の世界について様々な研究、考察があります。

実際この人生で死んだことのないし、また前世の記憶も今の自分には全くないので、自分には本当にその世界があるのか知る由もありません。

亡くなった後の表情についても、ただ単に筋緊張がなくなるためという見方もできるでしょう。

でも生の外の世界に思いを馳せることは決して悪いことではないと思います。
それにより死に対する恐怖が和らいだり、生に対してポジティブに捉えられるとうになる事もあるでしょう。

この患者さんは死したその瞬間に全ての苦痛から解放されたと信じたい。
また他の患者さんたちも生と死の苦しさから解き放たれ、外の世界で穏やかに過ごしていると願っています。

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緩和医 烏賊ルガ
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