300字小説『ほんのひとり語り』
私は待つことが得意な性質である。扉を閉じて黙することを苦と思わない生まれである。さりとて一度扉が開かれたならば弁が止まらず、語り続け謳い上げ滔々と誦じ説を述べ、一気呵成に相手を引き込むことを至上の喜びとするのである。
故郷を離れて久しく、愛でられ捨てられ拾われているうちにこの店に流れ着いた。苦ではない。私はそういう存在である。ただ少しばかり疲れたので、この肌にやたらと誰ぞの手が触れるのも、身の内を徒に覗かれるのもしばし御免蒙りたいという思いもある。
私と人とは生涯の友となれるという。共に棺桶までゆける友人と出会えたなら、火に焚べられるのも一興だ。
河清であろうか。だがまあ、待つのは得意である。
第5回毎月300字小説企画
お題「待つ」
河清を俟つ=いつまで待っても実現しないことのたとえ