柳橋駅ってマジでいるか?という話
地下鉄東山線、名古屋~伏見間に新駅設置の計画が持ち上がっています。その名も柳橋駅。西柳町交差点の西側、名古屋高速の名駅入口付近の地下が予定地点となっています。
少し詳しい方ならご存じかと思いますが、この駅は開業当時にも駅設置の計画がありました。結果的には見送られたものの、将来的に駅設置ができるような構造となっており、駅の予定地点は線路がバラストではなくコンクリ道床になっていたり、柱構造が異なっていたりします。
それがなぜこのタイミングで再度駅の設置議論が起きたかというと、詳しい話は省きますが、かのメダルかじり河村市長を中心に、柳橋地区の活性化とまちづくりの観点から新駅設置の検討をはじめたからです。
確かに柳橋地区というのはイマイチパッとしません。昔ながらの柳橋中央市場がありますが、名古屋駅からは遠すぎるし、かといってバスに乗るほどの距離でもない。ささしまと同じ距離感なんですが、あちらは109シネマズやグローバルゲート、Zepp Nagoyaといった若者が集まるスポットもある一方で、こちらは昔ながらの街なのでそういった施設は皆無。リニア開業に向けて名駅がイケイケムードで開発が進み、それに負けじと栄も久屋大通から大須までも巻き込んだ再開発が進められている中、その間にあるこの柳橋地区は、そういった開発から取り残されているわけです。
そこで市長は、名古屋の公共交通の大動脈である東山線に目を付けます。柳橋付近は前述した経緯があり、駅設置自体は可能な構造となっています。そこで今からでも駅設置を行い、柳橋地区を盛り上げたい、というのです。
と、一応大まかな流れを見てきましたが、タイトルにもある通り、私自身はこの柳橋駅設置には懐疑的、というより大反対と言っていいでしょう。柳橋駅を設置すべきでない理由を挙げていきたいと思います。
①混雑悪化
柳橋駅が開業すると、名駅から至近距離の超都心部ですから多かれ少なかれ利用者がいるでしょう。そうなってくるとただでさえ混んでいる東山線の名古屋~栄がさらに混雑することになります。どれだけの混雑具合なのか、データをもとに見ていきましょう。
少し古いですが、2014年の東洋経済の記事から画像を持ってきました。東山線の名古屋→伏見は朝ラッシュの混雑率が147.9%となっています。データが10年以上前の2009年のものですが、2019年度も141%と近い値になっており、今でもある程度の信頼性はあるでしょう。ちなみに直近ではこのご時世から利用者減少によって混雑率も低下しており、2020年度は104%まで下がりました(いずれも国土交通省のHPより)。
しかし、この東洋経済の画像で注目したいのはそこではありません。注目すべきは朝ラッシュの混雑率の両隣、集中率と終日の混雑率です。東山線は東海地区で朝ラッシュの混雑集中率がもっとも低くなっています。そして、終日の混雑率が東海地区ではダントツ1位の65.0%。2位の中央線が49.3%であることからも、その突出具合がわかります。さらにいえば、この65%は関西地区を含めてもトップなんです(さすがに関東には敵いませんが)。つまるところ、東山線は終日にわたり"非常に"混雑している、というわけです。
そしてこの混雑率の集計区間がどこかと言えば、まさに柳橋駅を設置しようとしている名古屋→伏見なんですね。これだけ混雑しているという確固たるデータがある路線に、さらに新しい駅をつくろうとしているわけです。しかもよりによって最混雑区間です。今は利用が比較的落ち着いているとはいえ、今後はまた利用者が増えていくでしょう。そうなると、この区間に新駅を設置するのは無理があると言えます。
②所要時間の増大
悪影響はこれだけにとどまりません。新しい駅が増えるということは、それに伴う減速・停車時間が必要になります。そうです、所要時間が増えるということです。
現行ダイヤにおいて、名古屋~伏見は3分の所要時間がついています。これは名古屋市営地下鉄においては一番長い駅間所要時間です。それもそのはず、実はこの区間は名古屋市営地下鉄で2番目に駅間距離が長いんです(1番は名港線の金山~日比野)。名古屋~栄は名古屋~伏見に3分、次の伏見~栄に2分、計5分の所要時間となっており、名駅から栄がギリギリ5分圏内に収まっています。
しかしながら、ここに柳橋駅を足すと、どう考えても名駅から栄まで5分でいくことはできません。名古屋~柳橋、柳橋~伏見、伏見~栄にそれぞれ2分ずつ、計6分が現実的なところでしょう。たかが1分、されど1分。名駅を起点に考えた場合、東側の全ての駅への所要時間が1分増えることになります。名城線でアホほど所要時間を足した前科があるのでなんとも言えませんが、普通に不便です。
③栄の更なる地位低下を招く可能性も
さて、①と②を踏まえると、名駅~栄がさらに混雑し、少し時間がかかるようになる、ということです。となると、名駅から栄へ移動していた人が、名駅だけで完結してしまうようになる可能性があります。混雑している東山線に乗ってまで栄へわざわざ行かなくても名駅でいいよね、という風潮は今でも若干ありますが、それがさらに加速する恐れがあります。加速した結果招くのが、栄地区の更なる地位低下です。
リニア開業に向けてどんどん開発が進んでいる名駅に対し、栄はそこまで波に乗れていません。しかしこれは今に始まったことではありません。セントラルタワーズやジェイアール名古屋タカシマヤの開店により、「乗り換え地点」だった名駅が「目的地」に変わったあたりから、栄地区には逆風が吹き始めたわけです。JR東海の積極的な投資により、あっという間に名駅は急成長、タカシマヤは高島屋グループでトップの売り上げを誇る店舗にまでなりました。その一方、栄地区は売り上げが名駅に持っていかれ、ついには丸栄が閉店してしまいます。デパート業界に限った話ではありません。地価というデータがそれを物語っています。栄地区の大手テナントが昨今の情勢を受けて6%以上地価が下落したのに対し、名駅の大手テナントは2%未満にとどまっており、栄地区の苦境っぷりがわかります。
さらにもう1つ。7年前ではあるが、「名古屋都心は栄?名駅? 市民千人アンケートその結果は」という記事があるので紹介しましょう。結果の部分だけを抜き出すと、
『「名古屋駅周辺」が49.1%、「栄駅周辺」が46.7%と、名駅が栄をわずかに上回る結果となった。』
『年齢層によっても結果は異なっており、20~24歳は名駅が都心だと思う人が60%、栄だと思う人が40%と全体平均より“名駅派”が強く出ており、一方の60歳以上は、名駅41%、栄59%と数字が大きく逆転している。』
となっており、要は全体としては拮抗しているものの、若年層は名駅を、高齢者層は栄を都心だと考えている、というわけです。"名古屋の都心=栄"という時代ではなくなったどころか、むしろ栄は名駅に負けているのです。
もちろん対策をしていないわけではありません。2020年には久屋大通公園を全面的に改修し、商業施設を設け、テレビ塔直下の公園に賑わいをもたせる再開発が行われたほか、丸栄の跡地についても新たな商業施設「マルエイガレリア」が3月31日に開業しています。
ただ、今後も名駅優位は変わらないでしょう。タカシマヤが強すぎますね。それに拍車をかけそうなのが今回の柳橋駅。わざわざ名駅で乗り換えてまで、しかも混んでて今までより少し時間がかかる東山線に乗ってまで栄に行きたいか?と。
というか、名古屋市もやってることが矛盾していますよね。栄を名駅と同じぐらい活性化させたい、と言いながらその栄へのメインアクセス路線である東山線の利便性を下げようとしているんですから。栄の地位低下を食い止めたいのであれば、東山線の混雑を悪化させたり、所要時間を伸ばすことは避けるべきです。
④柳橋駅の利用者数が…?
そもそもの話です。柳橋駅が開通時に設置されなかったのはなぜか。「利用者数が見込めないから」です。では今はどうかを見てみましょう。この記事を仕立てるきっかけとなった日本経済新聞の記事によれば、「新駅の開業によって東山線の乗客を1日あたり6千人増やすことが採算ラインながら、達成の見通しはたっていない。」ということです。新駅の開業で他の駅同士の利用者が増えることは考えにくいので、6,000人=柳橋駅の利用者数の採算ライン、といっていいでしょう。
「東山線の乗客を1日あたり6千人増やす」というのが果たして乗車人員を指すのか乗降人員を指すのかがわかりませんが、乗客を増やすという表現なので乗降人員だと仮定します。すると、東山線でもっとも少ない亀島駅ですら9,500人以上あります。これは2019年の数値ですが、その後の利用者減を踏まえても6,000人以上はあるでしょう。この年の数値では、鶴里駅がちょうど6,000人を少し上回るぐらいですが、これは名古屋市営地下鉄全87駅の中で3番目に少ない利用者数です。これが仮に乗車人員だとしても、東山線では亀島駅と中村日赤駅以外は全て7,000人以上の乗車人員があります。残念ながらそれぐらいレベルの低い話なんです。
にもかかわらず、なんとこの数ですら見通しが立っていないというのです。現時点で1日6,000人の利用すら見込めない駅を東山線の最混雑区間に多額の投資をしてまでつくる必要とは一体あるんでしょうかね。
⑤柳橋駅の位置も悪い
冒頭の画像です。柳橋駅の予定地点はこの辺りなんですが、これがまた微妙な場所なんですよね。柳橋中央市場の至近距離であることはいいんですが、この地区で最も活気があるのはもっと東、納屋橋を中心としたエリアです。結局このエリアは柳橋駅ができても微妙に距離があり、いまいち恩恵がありません。それがゆえの6,000人見込みなしなんでしょう。
東山線は名古屋~池下では錦通の地下を走っています。しかし、賑わいがあるのはその1本南の広小路通なんですよね。まぁ色々と歴史的な経緯や制約があるので仕方ないですが、広小路通の柳橋バス停や納屋橋バス停付近であればまだしも、こんな中途半端な位置に駅があってもなぁ…というのが正直な感想です。しかも、この地点だと桜通線の国際センター駅と競合します。国際センター駅から西柳町交差点まではたったの300m。仮に開業すれば少なからず国際センター駅の利用者数にも影響するでしょう。「車道駅と千種駅が競合していないから大丈夫」という見方もあるかもしれませんが、車道駅は学校の最寄り駅、千種駅はJRとの乗換駅という役割分担ができていますし、こことは訳が違います。というか300mなら国際センター駅で十分対応可能な距離です。栄~久屋大通よりも短い距離ですからね。
○賛成派の意見も見てみる
とここまで反対する理由ばかりを並べてきましたが、賛成している人もいます。こちらのブログは賛成の立場から同じように柳橋駅について評しています。
この方の賛成理由は以下の通りです。
①柳橋地区へのアクセス向上
→柳橋はアクセスが悪いので、新駅設置でそれが大きく改善される。
②柳橋地区の再開発
→新駅設置によって再開発がさらに促進されることも考えられる。
③混雑緩和
→名古屋駅を利用していた客が柳橋駅に分散し、混雑が緩和する部分もあるのではないか。例えば笹島方面などへ行く場合、混んでいる名古屋駅ではなく柳橋駅で降りればよくなる。
①と②についてはある程度同意できます。①はC-758をはじめたくさん市バス路線があるけど?と少し首をかしげますが。しかし、③については私としては同意できません。名駅の利用者のうち、柳橋地区を目的とする利用はごくわずかです。確かにスパイラルタワー近辺へ向かうには便利ですが、混雑が緩和される、とは到底思えません。また、笹島へ向かう利用者は柳橋駅で降りればよい、としていますが、これも違います。距離がほとんど変わらないからです。名古屋駅からささしまライブまでは約1.2km。対し柳橋駅からだと約1.1km。わずか100mの差に留まります。しかも柳橋駅からだと名駅通を横断する必要が生じ、信号での待ち時間も加味するとほとんど変わらないでしょう。
他に賛成している意見も、ほとんどが重きを置いているのは柳橋地区の利便性、そしてさらなる活性化と再開発についてでしたし、柳橋駅の場所を納屋橋付近と勘違いしているであろうものも散見されました。
一方反対の意見は私がまとめたような意見が多いですね。混雑の悪化や所要時間が伸びる、そもそも柳橋駅自体の必要性、名駅からの距離が近すぎる、国際センター駅の存在、などです。
まとめると
ざっくりといえば、「柳橋地区の利便性&再開発」と「東山線の利便性」の天秤だと思います。だからこそメリットしかない柳橋の周辺住民からは設置の要望が出るのは当然ですし、逆に私のような柳橋はどうでもいい東山線利用者からは反発されるのも当たり前です。どちらを取るか、という話ですが、母数で言えば圧倒的に後者でしょう。なにせ1日6,000人すら見込めない駅ですから。
真面目な話、本当に設置が決まったら何かしら法的な手段で抗議するかもしれません。それぐらいには必要ないと思っています。柳橋地区は現状のC-758を中心とした市バス路線、そして国際センター駅で十分な利便性がありますし、再開発もその交通機関を軸に進めればいいだけです。市長の思い付きで柳橋地区だけのために東山線の利便性を著しく下げないでいただきたいです。(元)沿線民として強く思います。以上、柳橋駅についてでした。