【短編小説】セロリの選択

「また今日も選ばれないのか……。」

冷蔵庫の奥、セロリはため息をついた。彼は野菜室の片隅で、キャベツやトマトたちが次々と人間に手に取られるのを見ていた。彼らは料理に使われて輝く未来を信じ、堂々と構えている。だが、セロリにはその未来が訪れる気がしなかった。

「僕なんか、どうせ香りが強すぎるって言われて、嫌われるんだ。」

セロリは独り言を続けた。隣のパセリが薄暗い声で答える。
「君だけじゃないさ。僕なんて、添え物だよ。何のために生まれてきたのかわからない。」

「パセリ……。」

セロリはパセリの言葉に少しだけ慰められた気がした。だが、だからと言って自分の境遇が楽になるわけではない。そんなときだった。

冷蔵庫の奥に、不思議な声が響いた。
「君たち、何をそんなに嘆いているんだい?」

驚いて声のほうを見ると、そこには長い年月を過ごしたらしい黒ずんだ瓶があった。ラベルは剥がれ、何が入っているのかもわからない。

「誰だ君は?」セロリが尋ねる。

「私はこの冷蔵庫の記憶さ。」瓶はゆっくりと話し始めた。
「ここに来る野菜たちは皆、同じように悩むんだ。自分が必要とされないのではないかと。だが、本当の問題はそうじゃない。」

「どういうこと?」セロリが聞くと、瓶は静かに続けた。
「選ばれることだけが存在理由だと思うから、苦しいんだよ。もし、自分から役割を選べたとしたら?」

セロリは言葉に詰まった。自分で役割を選ぶなんて、考えたこともなかった。

「だが……僕に何ができる?」

「それを考えるのが、君の使命だよ。」

その夜、セロリはじっくりと考えた。そして翌朝、人間の手が冷蔵庫を開けたとき、セロリは自ら転がり出た。

「おや、セロリだな。どうしようか……」

人間は少し考えたあと、スープではなく、生のままディップにつけて食べることにした。「シャキシャキしていいな!」と笑顔を浮かべながら。

だが、セロリはその笑顔を見ても何も感じなかった。ただ静かに、次の瞬間を待っていた。彼の中に芽生えた、得体の知れない衝動。それが何なのか、まだ彼自身にもわからないまま――。