2024年音楽まとめ
はじめに
作業や勉強スタイルの変化によりあまりたくさん聞けなかった(新旧含めて100枚ちょいくらい)のですが、今年の新譜で「良い!!!」となった作品を10枚まとめました。
有名なやつは大体Twitterから、それ以外は大体Bandcampのフィードに流れてきたものの中から選んでいるので、多分偏りがすごいですがご容赦ください。
以下、忙しい人向けのネタバレ画像です。
画像上:No.10〜2 画像下:No.1
10.Rihmastossa / Shakali
チェコで活動するフィンランド人のアーティスト、Shakaliの作品。ジャンル不明(一応アンビエントになるのかな?)だしどういう意図あってこういう音になったのかもよく分からない。でも、フィールドレコーディングの音もおそらくアフリカ系のパーカッションも心地よくて音のひとつひとつが何かしら人懐っこい。どこか一昔前のエレクトロニカをちょっと彷彿とさせる感じで好きな作品。
9.legs akimbo / skwirl
ベルリンのビートメーカーskwirlのビート集。洒落たジャケットから醸し出される60年代のアートワークから想像する通り、ちょっと渋めのスパイ映画っぽいサンプルを多用しているが、ビートは全体的に明るくにぎやか。とてもおしゃれで気分が良くなる。散歩用BGMとしてときどき使ってます。
8.Raw Blue / Whirr
今年の音楽を振り返っていたさなか、突如躍り出てきた番狂わせシューゲイズ。ドリーミーでかわいらしさを押していくタイプではなく、けたたましい轟音を鳴らしつつウィスパー+スローテンポな展開でうっとりさせるタイプ。その恍惚感が大変に素晴らしい。昨今のシューゲイズリバイバルにはすっかり乗り遅れてしまったが、今からでもまたちょっと漁りたい。シューゲイザーは不滅です。
7.Night Moss / Teahouse Radio & Skeldos
スウェーデンのアーティストだそう。アコーディオンの音を加工してドローンにしつつ、囁くような歌声が乗るアンビエント。実は「2曲目以降で突然ボーカルを入れるアンビエントアルバム」をこの世で椎茸の次くらいに憎む過激派アンチだったのだけど、このアルバムで卒業できた。それくらい素晴らしい。アルバム通してパレットの色は一色だけ、このジャケットの通り、暗くて渋くて寒々としているけど、温かくて心地よい。とても良質な体験ができるアルバム。
6.Echoes of the Abyss / Markus Masuhr
多分ダブテクノの文脈(レーベルの他作がそんな感じなので)なのだけど、構成をミニマルにしたダブステップのようにも聞けるベース・ミュージック。徹頭徹尾やってることはシンプルかつビートの手数も少なめなんだけど、ベースの重苦しさがずっと味わえて非常に美味。全体を通して良質な酩酊感が味わえる。ストイックだけど華やかさもあり、暴力的だけどあくまでクール。一番かっこいいやつです。
5.CHROMAKOPIA / Tyler, the Creator
もはやアメリカのブラックミュージックを牽引する存在となったTylerの新作。Tyler節ともいうべきチープで多幸感あるサウンドと、アグレッシブな飛び道具的ギターサウンドや掛け声、そしてパーカッションがめちゃくちゃ楽しい。コンセプト・アルバムとしては過去作の方が好きだしテーマと音に若干の齟齬があるような気もするのだけど、アルバムを通しで聞いたときの満足感はものすごく高い。安定して高水準のアルバムをしっかり作れるあたり、本当に職人になった感がある。次作まではこれと前作『CALL ME IF YOU GET LOST』とをローテーションしようかと思う。
4.ACELERO / Crizin da Z.O
南米の(多分)アングラヒップホップの人ら。インダストリアル系のアグレッシブなビートに怒鳴るようなラップ……というかこれはラップなんだろうか。その辺がちょっと、いやかなりDeath Gripsからの影響を感じる。QTV Seloはブラジルの実験系レーベルなんだけど、どの作品にも共通して何らかの強めな「クセ」がある。この作品の「クセ」は、ハイテンポでせわしないのに、リズムが南米由来だからなのか、キャッチーで繰り返し聞きたくなる不思議な中毒性があるところだ。とにかくやかましい、楽しいアルバムである。
なお、「crizin da z o death grips」でツイート検索すると、以下のような結果が得られる。
3.Night Palace / Mount Eerie
Phil Elverumのソロ・プロジェクト。この人もまた、不思議なアーティストである。Sufjan Stevensらと同じ一人オーケストラ系の人なのだけど、明らかなアマチュアっぽさが演奏や歌唱ににじみ出る。なのに、まとめると奇跡のような美しい音楽になってしまう。演奏力はそこそこなのに、「音楽がうまい」のである。
本作はフォーク、ロックからノイズ系のドローン、フィールドレコーディングにトラップ系のビート(?)で自然や孤独、死と生を扱う。テーマは傑作と言われた23年前の『The Glow Pt.2』とあまり変わらない。シンセサウンドはかなり洗練はされているものの、ギターのもたつきやドラム演奏の大味な素人感はまだ健在。そしてやはり、その指紋の跡さえ残るようなDIYサウンドとたよりない歌唱が、強烈な一撃となって打ちのめしてくる。普遍的なテーマがこれほど説得力を持ってしまうのだから、「音楽の力」という陳腐な言葉さえ信じたくなるような、そういう作品である。
2.Sun & Smoke / Theef
質感抜群のダブテクノ。元はSoundcloudにノンストップのDJミックスで公開されていたものを、分解してアルバムにまとめたものらしい。そのミックスされた2時間のセッションが、得も言われぬほど美しい。アルバムのラストにまるごと付属しているので、試聴等するときはまずここから入ることをおすすめする。なお、以下のレビューもこのミックス版に関するものである。
全体としては非常にミニマルな構成で、常に緊張が走る。しかしフィルターがかったパッドやディレイエフェクトにシンセのループで、そこから鮮やかなきらめきが見えたり隠れたりする。その匙加減が本当に見事。ジャケットの、真っ黒な厚い煙(霧?雲?)の向こうから、赤く燃える太陽の光がくっきりと映し出されるアートワークは、まさに本作の音楽性を見事に捉えたもの。寒い朝にぴったりの音楽である。ダブテクノの真骨頂は、もっと音像の揺らいだ、浮遊感で攻める系統が一般的だと思うのだけど、こういうミニマル~プログレッシブハウスの間を行き来しながら一個のコンセプトを追求する作品は初めて味わえた。しっかり聞くもよし、かけ流して作業に没頭するもよしの一枚です。
1.Where we've been, Where we go from here / Friko
アメリカのシカゴ出身のインディー・ロックデュオ。2024年はどういうわけかインディーズロック群雄割拠の年で、Mount EerieからVampire WeekendからMGMTからThe Last Dinner PartyからGeordie Greepから、とにかくベテラン若手含め評価の高いアルバムが大量に発表された豊作の一年だった。正直全部聞けたわけではないのだけど、間違いなく自分の心を捉えて離さなかったのはこの新人、Frikoです。
ものすごく明るくキャッチーで歌心のあるメロディに乗せて、人生への絶望や諦めを力強く、しかしヘロヘロと歌う。これもビートルズの頃から繰り返されて手垢のついたパトリシアンポップス(貴族主義・選民主義ポップス)の常套手段なんだけど、とにかく曲の出来が良い。ちゃんと一本筋の通った、最長でも5分程度のたった9曲をわざわざ「ロック」の「アルバム」という半ば死に体のフォーマットでこの時代に出す心意気もすごいが、その期待に答えるだけの力量がえげつない。
特に終盤、全曲通して一番ハイテンポでご機嫌な(そして多分一番皮肉な)"Get Numb to It!"で最初の曲のアウトロでありタイトルコールにもなっているメロディがリピートされる展開で泣きそうになった。あざとすぎる。いや好きすぎる。何を言ってもやすやすと引っかかってしまった自分が悪いのだから仕方ない。とにかくいにしえから「アルバム」というフォーマットを偏愛してきた人間に刺さるものをちゃんと全部入れた偉いアルバムである。ここまで書いておいて「結局、老いた自分が全部悪いのでは?」とすべてを加齢のせいにしたい衝動に一瞬駆られてしまったが、ちゃんと正直に言おう。私はこのアルバムが大好きです。