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神戸拘置所へ移送

1日目

 ついに8ヶ月間勾留されていた留置場から旅立ち、神戸拘置所へ移送されることになった。これだけ長い期間いると、もはや自家のような感覚だ。長い間お世話になった担当さんたち、罪人たち、刑事さんたちとの挨拶を交わす。仲の良かった同い年の担当さんが昨日入籍したと嬉しそうに報告してきたので、こっちも幸せな気持ちで旅立てそうだ。送迎バスに乗って神戸地検に向かっていく。これで皆と会うのも最後と思うと少し泣きそう…。

 色々思い出に浸っていると、次の警察署に着き、なんと検事取り調べの時に待合室にいた馴れ馴れしいシャブ中が乗ってきた。「オマエまだ移送されなかっのかよ…。」嬉しそうな顔でこっち見んなって!コイツと一緒に山登る(神戸拘置所は山にあるから『山』と呼ばれている)なんてついてなさすぎる…。

 そんなこんなで地検に着き、1時間くらい待合室で待ってから再びバスに乗って拘置所に向けて出発。山を登って行く道中、シャブ中が「兄ちゃん、これがひよどり越えや!」って嬉しそうに解説してくれる。どうやら源氏合戦の時の有名な場所らしい。

 30分くらいで拘置所に到着。すぐに一人ずつ小さな『箱』(シャワー室位のサイズ)に入れられPCR検査。結果は無事陰性で、その後氏名、住所、家族、病気ヤクザと関係があるか、刺青や性器に異物が入っていないか、(刑務所では碁石を削って竿に入れるヤツがいるらしい…)、目立った手術の跡が無いかなどを聞かれ、身体検査にうつる。口の中はもちろん耳鼻の穴も見られるし、チンチン、キンタマの裏、尻の穴まで徹底的に確認される。尻の穴を広げて見せるのがこれまた恥ずかしい…。身検の後は「2分だけ軽くシャワーを浴びて体流せ」と言われてシャワー室に入る。赤いライトがぼんやりついているだけで薄暗く、タイルにはカビびっしり…。まるで富士急のお化け屋敷に出てきそうな雰囲気で、できれば長居したくない感じ…。2分しかないのでササッと浴びて出る。

 荷物検査が終わるまで自分の服は着られないということで、懲役囚と同じ緑色の服を着させられる。上5枚、下2枚と重ね着するから思ったよりも暖かいのか…? その後一旦これから生活することになる舎房に案内され、そこで昼食を食べた。メニューは麦飯(通称麦シャリ)、魚のフライ2つ、昆布、大豆と豚肉の炒め物、中華スープ、オレンジゼリー。留置では冷めた飯しか出ないし、肉とかも臭くて食えたもんじゃなかったけど、こっちは味は悪くない。そして何より温かい!! 8ヶ月ぶりの温かい飯が食えてスープが飲めて(留置は汁物も出なかった)感激だ…。

 食後は自弁品の購入願箋を書かされた。最初だからとりあえず必需品を買わねばということで、ボールペン、歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸、ニベアクリーム、リップクリーム、シャンプー、マヨネーズ、醤油、七味を選択。風呂のタイミングでカミソリを借りれるらしいけど、自分は髭が濃い人なので、電気カミソリ&乾電池も購入。でも5,096円って高すぎだよな…。それ以外は所内で使えないのでしゃーなしなんだけど。そしてずっと食べたかったカップヌードル!! 意外と普段の飯の量が多いからお腹がすくことはなさそうだけど、ジャンキーな味が楽しみたい!!  ってわけで2つ購入。

 願箋書き終わったら今度は健康診断。尿と視力、胸部X線、身長、体重、問診とスムーズにあっさり終わった。検診の後はあの『箱』の部屋に戻って、持って来た荷物の所内で使えるもの、使えないものの分類作業。せっかく留置にいる時に親に差し入れしてもらっていたスウェットのズボンが、ポケットを塗ってつぶしていたので使用不可と言われた…。留置だと逆に縫わなきゃ入らなかったのに…。OKをもらった本や服は後日返されるようで、今日はとりあえず裁判書類と石鹸箱のみを持って自室に戻った。石鹸箱をあらかじめ差し入れしてもらっておいて良かった!

 自室に戻ったらすぐに夕食。拘置所の夕食は早い。なんと4時には配食されるのだ。メニューはビーフシチュー、竹輪とメンマの炒め物、麦シャリ、味噌汁。夕食後の17時前に点呼がある。「点呼よぉーい」のクセの強い号令がかかったら机を壁によせて、正座か安座で姿勢を正して道路側の小窓を向く。一室ずつオヤジ(刑務官)が回っていき、部屋の前で「番号!」と言われたら自分の呼称番号を大きな声で言わなければならない。点呼の後は仮就寝の時間で消灯は21時だけど早めに布団を敷いて寝転ぶことができる。「仮就寝の時間です」のアナウンスがこの世の終わりのような暗い声。

 この時間は消灯まではFMラジオが流れる。久々の娑婆の音楽だ…。兵庫県警の留置はスーパーで流れてそうなクソ音楽しかながれないのよ…。そもそもお昼の1時間のみ。今ってどんな音楽が流行っているんだろうか。久々に聞くラジオからは知らないおんがくばかり流れて来るけど、yukaDDさんの「遠距離」という曲の歌詞が、今の状況も相俟って刺さってきた…。遠く離れた家族とまた一緒に暮らすためにも頑張らないとな…。

 やっぱり新しい環境で勾留が始まると不安で押し潰されそうになる。独居で誰とも会話できないのもあるから特にね。逮捕されたてで、留置に入った初めの頃は、隣の房のおっちゃんが声をかけて慰めてくれて、本当に助かった。「やってしまった過去を振り返ると辛いから、前だけ向いとけ」って言葉は今でも胸に刻んでる。なんかその後めちゃくちゃ仲良くなって色々話を聞いたらどっかのヤクザの組長さんでビックリしました…。保釈で出ていかれた後、小説を差し入れてくれて本当に優しくてかっこいい人だったな。元気にされているんだろうか。

 21時にまたこの世の終わりみたいな「おやすみなさい」のアナウンスがかかり、消灯(といっても自殺防止で薄く明かりがついている)。布団はまあまあフカフカの1セットと毛布3枚。ちょっと布団がションベン臭いというかアンモニア臭がするけど我慢して寝るしかない。

 初日は色々あってつかれたのですぐに寝れた。

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