貴女のことが、だいきらい――殺伐百合概念のおはなし
近年、「殺伐百合」の流れが来ています。
うん、来てます。来てるんですよ。知らない? なるほど、でも大丈夫。令和もまだ二年目です。今履修しておけば古参面できます。
そんなわけで、百合字書きの端くれが自ジャンルである殺伐百合を紹介・布教するだけの記事です。狭い界隈に住んでるので見解は偏ってます。
でもあなたが知ってくれるだけでこの世界も広がります。あなたの一読が界隈を救います。ありがとう。
あ、画像? 殺伐百合太極図です。
百合の中に殺伐があり、殺伐の中に百合がある。殺伐百合そのものを示す真理ですね。
分からない? この記事を読めば分かるようになるから大丈夫です。
1.そもそも殺伐百合って何?
まず「殺伐百合」の定義をしましょう。
はい、歴を積んだ百合好きの方はここで反応するかもしれません。正解です。まずもって「百合」そのものに明確な定義がないので。
正確には「百合」の定義が十人十色というべきでしょうか。完全に人によります。
女の子同士の恋模様(ガールズラブ)だけを百合と呼ぶ人がいれば、百合は精神的な触れ合いであって肉体的接触ではないと言う人もいる。
男の出る百合は百合じゃないと叫ぶ人がいれば、男もいる世界で女性を好きになることが尊いのだと言う人もいる。
女性同士の恋愛だけではなく、友情や依存や嫉妬、名状しがたい関係性まですべてひっくるめて「百合」と呼ぶ人もいる。
まあ正直時事的なトレンドとしてふんわり共有されている定義はあるのですが、百合とはなんぞやという問いには「百合は無限大」「己の百合を信じろ」という他ないです。
(とはいえ、さすがに「男の娘×女の子は百合!」とか言い出したら燃えます。超燃えました)
さて前置きが長くなりましたが、殺伐百合についてもこれは同様。明確な定義はないのです。
とはいえそれでは紹介にならないので、個人の見解を述べます。
殺伐百合における「殺伐」とは、主に以下の3つがあります。
■1.1世界観が殺伐
ポストアポカリプス、戦時下、デスゲーム……色々ありますが、まあ要は生死がかかった極限状況下での百合です。
ここで「百合って学校でキャッキャウフフ戯れるものじゃないの?」って思ったあなたは百合の定義について読み返してきてください。百合は無限大です。
■1.2展開が殺伐
上と一部かぶりますが、「女が無念の死を迎える」「百合乱暴(察してください)される」「消えないトラウマに苦しめられる」「そもそも全員死ぬ」……などなど。要は女が酷い目に遭う百合です。
ここで「百合って優しい世界なんじゃないの?」って思ったあなたは百合の定義について(略)
■1.3女女関係性が殺伐
「あの女が許せない」
「あなたがどうしようもなく憎い」
「あの子の苦しんでいるところがだいすき」
「きみのことがね、世界で一番嫌いだった」
「何を犠牲にしてでも、彼女は私が殺す」
……百合です。以上の女から女への感情は、すべて百合です。
ここで「百合って女の子同士の好意のことを言うんじゃないの?」って思ったあなたは百合の定義について……と言いたいところですが、さすがに不親切なので解説します。
上でも書きましたが、「百合」とは女性同士の恋愛関係に限りません。
嫌悪、憎悪、嫉妬、悪意、殺意、執着……こんな負の感情も、女から女へ向けられれば百合となるのです。
じゃあ「例えば男女カップルの彼氏が別の女に浮気すれば、彼女Aが浮気相手Bに向ける感情は殺伐百合なのか?」という問いもあると思います。
これには「百合に『なりえる』」と言うに留めます。私個人としては、彼女AがBのことを「彼氏の浮気相手」ではなく「殺してやりたいくらい嫌いな女」といち個人として認識・執着したなら、それは殺伐百合だと思います。
要は、女から女へ向けられる感情・女と女を繋ぐ関係性が殺伐としている百合のこととなります。
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以上三点が「殺伐百合」の目安になると思います。
これがどう組み合わさっていてもいいですし、なんなら全部なくてもいいです。何度も言いますが、あなたが殺伐百合と思ったものが殺伐百合なのです。
ちなみに私は性別問わず非恋愛が好きな殺伐百合原理主義者なので、私の思う「殺伐百合」は以下のようなモノです。
故意か過失かは問わない。
その女と女の間に存在する感情が互いの、もしくは片方の心身を傷つけることになる関係性。
それでいて相手が替えのきかない唯一無二の存在である百合。
要は「私がこの手で殺すと決めた女」だとか「存在するだけで私の存在意義を否定する女」だとか「一緒にいればいるほど互いの何かが失われていく女と女」だとか、そういうのですね。
でも言葉で言われるだけじゃ分からない? そうですよね。なので殺伐百合入門にぴったりな作品を以下に紹介しておきます。逃がさんぞ。
2.殺伐百合入門作品
一応言っておきますが、下記に列挙した作品は私が独断と偏見で「殺伐百合だなあ」と思った作品たちです。
公式でそのように名乗ってはいませんので、話半分に聞いてください。
■2.1殺伐百合アニメ
・CANAAN
リンク先のボックスにいる、薄い色の髪の女の子とコートの下の露出度がすごい女が私の推し殺伐百合です。
何気にキャラデザがFateシリーズの武内さんです。すごい。
内容は色素の薄い髪の少女エージェント・カナンが師匠を殺したコートの女・アルファルドとの因縁に導かれ闘うガンアクションです。
カナンちゃんは基本的にアルファルドにボコられまくりますが、アルファルドはカナンちゃんと闘う時だけめちゃくちゃ楽しそうにするんですよね。自分を慕う部下の女には無表情でスルーなのに。なんなの。
ちなみにこの二人の殺伐百合がお口に合わなくても、カナンちゃんには世界一大事な光・親友のマリアちゃんがいるので、そちらの百合もお楽しみいただけます。
・MADLAX
画像の中の銃持ってる二人が推し殺伐百合です。
黒髪の銃持ってる女・リメルダは内戦国家の女スナイパーです。
しかし茶髪の銃持ってる女・マドラックスにしてやられたことをきっかけに、彼女はマドラックスへの執着を深めてゆき、マドラックスとの決着を望むようになります。
ややネタバレになりますが、このリメルダとかいう女すごいです。好き勝手マドラックス追い回して死人も出して最終的に大勝利します。
いいのそれ!!!??!「ふっ…まるで告白じゃない」とか誇らしげにすな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!女!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ちなみにこちらもマドラックスちゃんと真っ当にねんごろになる女は別にいるので、味が濃すぎたらそこで中和してください。
■2.2殺伐百合マンガ
・裸足のキメラ
かつて百合姫にいた鬼才・大北紘子先生の百合短編集。私はこの方のおかげで「幸せではない百合があってもいいんだ!」と知りました。
私のお勧めは「名もなき草の花の野に」と表題作「裸足のキメラ」です。
どちらも女が女に向ける情念の最果てがあまりに鋭く美しく残酷。前者は電子書籍サイトによっては試し読みで全部読めると思います。
あとは別の短編集ですが、「月と泥」収録の「六花にかくれて」も好きです。軍人百合が性癖なので。
現在連載中の「夜明け前に死ぬ」も楽しみですね。
・ジャックポットに微笑んで
現在「この恋を終わらせてくれないか」を連載中の筒井いつき(つつい)先生の短編集。
執着、独占欲、嫌悪、劣等感……上の大北先生作品とはまた違った形でグサグサ刺される百合ばかりです。
表題作はpixivに同人誌版があがっているので、これが気に入ったら買いましょう。
■2.3殺伐百合小説
・月と怪物
百合小説を読み書きしていてこれを知らない人はあまりいないでしょう。
去年開催された(第一回)百合文芸小説コンテストにてその異質さから「ソ連百合」として大きな話題となったド傑作です。ブクマ数は現在驚異の6000超。すごすぎる。
さて、知っている人はこう思うかもしれませんね。「これって百合SFじゃないの?」と。
そうこの作品、なんとクオリティを早川書房に見初められ「アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー」に収録されました。シンデレラストーリーやんけ!!!!!!!!!!!!!!!!!
ですがこの作品は百合SFであり同時に殺伐百合でもあります。しかも私の妄想じゃないです。傍証がある。
この『月と怪物』にはプロトタイプとなった作品『灰と怪物』があり、これが収録されているのがなんと同人で発行された殺伐百合アンソロジーなのです!!!!!!!!!!
つまり、この作品は明確に作者さんが「これが己の殺伐百合だ!!!」と思って生み出されたものであり、立派な殺伐百合です。
内容も繰り返しますがド傑作なので、未見なら一読をオススメします。
ちなみに続く第二回百合文芸小説コンテストでもガガガ文庫賞を獲った作品がなかなかの殺伐百合であり(こっちはただの偏見です)、殺伐百合が領土を広げてきていることが分かりますね。
・About lovely rabbits
ここまでは商業作品(もしくは後に商業化するもの)を紹介してきましたが、当作品はカクヨム連載のWeb小説です。
まあいつか確実に書籍化して月9で実写ドラマ化されると思ってるんで同じ枠で紹介します。
舞台は脱走犯特化の女子刑務所――要はヤベー女しかいない無法地帯です。
過去にトラウマを持つがゆえ粗暴に振る舞う被捕食者、自身の身を女に売りながら生きる不器用者、荒くれ者たちですら統率するリーダー、淑やかな振る舞いの裏に凶悪性を隠した女、謎だらけのトリックスター……当初のメインキャラを並べただけでもこの有様です。
内容も殺伐の一言。麻薬、百合乱暴、死姦、自殺教唆、殴り合い。言っておきますがこれメインキャラたちがやってることですからね。メインキャラ以外もやりますけど。世紀末かよ。
まさに殺伐百合の教科書と呼ぶに相応しい作品なので是非ご履修ください。私の推しはラッキー×サタンです。推せ。
ちなみにこの画像は途中まで読んだ時点で私が作った相関図です。何も間違ってないのでよろしくお願いします。
3.いざ共に殺伐百合へ
まあ長々言ってきましたが、殺伐百合が書きたいにしろ読みたいにしろ自分の殺伐百合を信じ、そして他者の殺伐百合も受け入れる、これが大事です。
百合が何者にも囚われないように、殺伐百合も自由なのです。なので好きなようにやりましょう。
殺伐百合の多様性を示すのが、現在Twitter上で開催されている企画「殺伐感情戦線」です。(企画者は私じゃないです)
毎週出されるお題に沿って、各々が殺伐百合作品を持ち寄る殺伐百合の祭典。殺伐百合の広まりを感じさせる素敵な企画です。
Togetter上で第一回から参加作品をまとめておりますので、よろしければどうぞ。
……さて、これであなたも立派な殺伐百合を「識った」側の人間です。もう後戻りはできません。
自分の「好き」を、新しく見つけてみましょう。
あとこれは私の書いた殺伐百合たちです。上から
「80年代冷戦下 最悪女×復讐少女の殺伐おねロリ」
「戦時下封鎖都市での後悔・救済・殺意感情女女女」
「女軍人と高官夫人の旧友コンビが理不尽に立ち向かう軍人百合」
となっております。よろしく。
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