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海の底から

私は特別に危険な目にあったわけでもなく
とても海は怖いです。

あれは、学生時代、
夏の琵琶湖畔で友人家族が営むロッジを一棟貸し切って、
学友数名と夏休みの一日を過ごすということになり、
昼間は琵琶湖で泳いだり、夜は花火をしたりして、
バカ騒ぎをしたりして、あっという間に夜。
午前零時も過ぎ、話は少しづつ怖い体験の話となっていったのです。

皆が、どのような恐怖話をしたのかは、
全く記憶にないのですが、一人の友人が話してくれた、
本当に経験したという話は今もなぜか鮮明に覚えているのです。

その友人の田舎は三重県の海沿いにある小さな漁村だと言う事でした。

小さい頃から海で育っているのですから、泳ぎは当然ながら本人曰く、
永遠に泳げるらしいとのこと(羨ましい)。

そんな友人があるとき、
一人でいつもより少し潮の高い日に海に泳ぎに行った。

当然、泳ぎはうまいですから、
多少の波などは関係なく遠慮なく泳いでいたらしい。

しかし、沖の方は思った以上に波が高く、
今で言うところの離岸流の影響でかなり沖の方まで流されていったのだが、
本人はまだ冷静でゆっくりとだが、しっかり泳げれは
少し流されようがどこかの海岸に着けるだろうと思っていた。

ところが、いつの間にか日が傾き、日も落ち、
真っ暗な闇の海の上でそれでもなお、延々と泳ぎ続けていた。

波も高く、流石に焦りも出てきて、
泳ぎもぎくしゃく、すこし溺れかけたが、
立ち泳ぎをすることで無駄に体力を消耗することを避けた。

「俺はこのまま誰にも発見されず、やがて溺れて死んでしまうのか…」

しばらくすると、漁火に照らされた漁船が見えたので、
彼は懸命に助けをもとめ、その船の船長にも気づいてもらい、
なんとか助けてもらったらしいのです。

家族からの捜索願も出ていたらしく、
家へもどると両親・家族・親戚一同には
こっぴどく叱られたらしいが、なんとか命は助かった。

それから友人は
「なんとか命は助かったのだけれど
   ときたま、夢を見るようになった」

「あの日 海の底に横たわっている夢
   そして、海の上を泳いでいる自分を見上げている夢」

「たまたまこうして命があり
   皆とバカ話もできるのも
     ちょっとした奇遇、偶然だと思う」

と、彼は照れ笑いながら、そんな話してくれました。

私達も話を聞き、少し笑いながらも、
心の底ではゾッとしたのを覚えています。

そんな彼とも疎遠になり、
いまも元気にしてるのかどうかもわからないけれど……。


私は海が今も怖いです。

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