配信型VTuberに対する偏見と理解
配信型コンテンツを主軸として活躍するVTuberについて、ずっと考え続けていた疑問に答えが出た気がしたので、この記事を書いてみた。
1. VTuberへの興味と関心
にじさんじやホロライブに所属する配信型VTuberの知名度がグンと上がってきた2020年ごろ、当時の自分は配信型のVTuberに対しては全くと言っていいほど興味が無かったのだけど、2021年の夏ごろに元々イラストレーターとしてファンだったしぐれうい先生(女性VTuberとしても活動している)の配信を初めて聴いてみた。
かなり聴きやすいトーンで抑揚もあり、トーク回しも安定感があって面白かった。もしかしたら、自分はVTuberを結構楽しめるタイプなのかも?と思い、それからいくつか有名な女性VTuberの配信も覗いてみるも、大抵は通常のトークでも終始落ち着きのない高音ボイスが耳に響きすぎて「うるさい」としか思えず、見始めて数分で閉じてしまうものばかりだった。
このときに、自分にとっては配信者が美少女のアバターだという事は取っ掛かりにすぎず、一定レベルの知性と落ち着きが感じられるかどうかというのが重要なのだな、という気づきを得た。
うい先生の配信が自分に合っていた要因としては、喋っているネタやスラングの使い方が完全にアラサー世代のそれなので、親近感が湧きやすかった。ニコ生全盛期における有名配信者のゲーム実況などをよく見ていた人なら共感してもらえると思うが、配信者とリスナーが相互にイジりあうという独特の雰囲気が心地よく感じるのもアラサー世代ならではの感覚かもしれない。きっと中身の人間が本当に設定年齢通り16歳だったとしたら、そもそも興味すら湧かず一度も配信を見てすらいなかったことだろう。
また、うい先生がリスナー名をあえて設定していない理由が「集団で括られる名称は悪い意味で揶揄される事が多いから」「リスナー達を集団としてではなく個別のファンとして真摯に向き合いたいから」という事からも、人柄の良さや徳の高さを窺い知れる。
あくまで個人勢という点も、変に邪推することなく純粋に応援しやすい。とは言っても、2023年8月現在、YouTubeのチャンネル登録者数が88万人を超えていて、そこらの企業VTuber並みの認知度はあるのだが(ホロライブ切り抜き専門チャンネルにも当たり前のように登場する)。
2. VTuberへの偏見と理解
その後、有名女性Vtuberが炎上した事件をいくつか観測した事もあり、VTuberに対して否定的なスタンスを取りつつあったのだけど、その中で、VTuberは「現実世界における容姿が優れていないから美少女(美少年)キャラのアバターを被っている」という偏見が自分の中にある事に気がついた。だから「VTuberはリスナーを騙して搾取している」というような否定的なイメージを抱いてしまっていたのだろう。
実際に現実での容姿が優れていないから、それを打ち消す為に美少女(美少年)のアバターを用意しているというパターンも、もちろんあるかとは思う。あるいは、容姿の良し悪しに関わらず、アバターを介さずに全世界と繋がるインターネット上に出演したくないパターンもあるだろうし、「(きっと)現実の容姿が優れていないから」などという勝手な決めつけで語るのは不適切だ。
それに、有名VTuberの『中の人』達は、ほとんどがニコニコ動画等の生配信で実力を磨いてきた30代前後の猛者ばかりだし、VTuberファンのほとんどはそういった面も含めて理解した上で評価しているのだろう。
また、VTuberに対して疑似恋愛的な感情を抱いている「ガチ恋勢」の目線に立って考えてみると、スマホさえあればいつでも会えて、二次創作で容認されているVTuberのイラストやVTuber本人の3Dモデルを使用したNSFWな動画まで容易に手に入るので、性的欲求解消の対象としても都合が良いし、ファン活動のほぼ全てがインターネット内で完結するという環境的依存のしやすさも人気を支える大きな要因となっているのかもしれない。
つまり、にじさんじやホロライブに所属するVTuber達は、現実世界での容姿や年齢といった部分を(ほぼ)無効化し、声とモーションだけを魂の依代であるアバターに投影させた『バーチャル芸能人』なのだ。
わざわざ芸能人であると定義するまでもないかもしれないが、実際、まったく名前の売れていない芸能事務所所属のタレントよりはよっぽど知名度があるだろう。
では、実際の容姿や年齢を伏せてインターネット配信をメインに芸能活動を行うという事は、果たして『卑怯』なのだろうか。感覚的に「顔を見せないのは誠実でない」と思う気持ちは理解できる。けれど、顔を晒さずに活躍しているアーティストの存在はVTuberに限らず珍しい事ではないし、旧来の価値観にとらわれ過ぎていないだろうか。
だが、自分も否定的なスタンスであった為、一番引っ掛かるポイントがどこにあるのかは理解しているつもりだ。それは、どんなに美少女のアバターやキャラ設定を用意したところで、「現実の女性がただ単にアバターを使用して配信をしている」ようにしか見えず、アバターと声を充てている人物を同一視できないという点だ。そもそも同一視しないといけないわけではないのだけど、どうしても違和感を抱いてしまう。現実に存在する女性という認知が外れないので、アバターを通して声を聞いていても、オタサーの姫がゲームをプレイし囲いのオタクが姫を応援するという構図が、YouTubeの配信枠といういくらでも囲いのオタクを収容できる部屋で行われているだけにしか見えず、今ひとつハマりきれなかった(ハマれる人はそもそもこんな事自体考えていないだろう)。
けれど、同一視できたとしたらきっとハマるだろうなと想像する事はできる。オタクという生き物は例外なくアニメやゲームが好きな女の子が好きだからだ。そうでなければ、世界的人気を誇る市場にまで成長するハズがない。
他に頻出するVTuberに対する否定的な意見としては、ソシャゲ等とコラボすると作品の世界観が壊れてしまうという問題だが、まず、コラボ企画が増える時点で作品そのもののコンテンツ力のみで運営していくのが困難である状況に陥っている場合がほとんどだろうし、運営会社としてはサービス終了に追い込まれるくらいなら、お金を落としてくれる新規ユーザーを呼び込む為に人気VTuberとのコラボ企画を行ってでもサービス継続に努めるのが必然だ。であれば、ソシャゲの運営会社がVTuberの人気にあやかる側なのだから、怒りの矛先はVTuberではなく運営会社に向けるべきだろう。
また、スパチャ機能が『弱者男性から搾り取るシステム』等と揶揄されるが、現実世界の水商売や、アイドルビジネス、ソシャゲのガチャシステムに関しても全く同じ事が言えるだろう。
それに、どんな趣味であれ依存症に陥ると金遣いは荒くなってしまうものだ。つい、他人のお金の使い道に口出しをしてしまうのも、自分が興味のないジャンルにお金を費やしている事に対してバカっぽく見えてしまうからだし、叩きたいという心情は、単に自分が嫌いなタイプの人間を見下したいというマウント行為でしかない。
しかし、どうしても商売の構造として卑怯だと思う部分はある。ライバーがモラルの無い発言によって炎上しても、その責任を負うこともなく安直な逃げの手段として形式だけの『引退』を選択し、数週間と経たない内に新作アバターという新たな"ガワ"に転生し、何事もなかったかのように新人VTuberとして再スタートできてしまう点だ(もちろん、声質やトークの特徴ですぐにバレてしまうのだが)。
人間は失敗する生き物なので、失敗してしまった事自体は仕方がない。大事なのはその後の誠意ある対応と姿勢なのだが、それがあまりにもお粗末であるせいで余計に炎上するケースが散見される。けれど、あくまで不祥事を起こしたVtuber個人が悪いのであって、VTuber全体が悪いわけではない。とはいえ、確実にVTuber全体のイメージを下げている大きな要因である事は間違いないだろう。
3. 総括
人間はしばしば、自分が気に入らないという理由だけであれこれと否定的な理由を並べ、文化そのものを丸ごと否定してしまいがちになる。理性的に理解するというストレスのかかる行為をするよりも、本能に従いレッテル貼りをして叩く方が楽だから、楽な方へと流れてしまう。自分にはどうしても合わない文化だったとしても、闇雲に批判するのではなく、分析し、考察し、理解すればいい。そうすれば、信者だアンチだという不毛な争いを避けられるし、文化を尊重する事にも繋がる。
偏見が多い人間というのは、理解する努力をサボっている怠け者にすぎない。そういった愚者に成り果てない為にも、今後もフラットな姿勢で物事や文化について考えられるよう気をつけたい。
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