見出し画像

書評:『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス, 児島 修)

「ゼロで死ね!」と言われると、「いやいや、老後にもお金かかるっしょ」とか「いやいや、子供にも遺産残すでしょ」みたいなことを思ってしまいますが、さすがのベストセラー。なんでそういうことにならないのか、も載っているんでよね。この本。良い本だと思いました。

楽しいことは若いうちにやろうよ

この本の趣旨は、「人生短いんだから、思い出作りになるような楽しいことは後に回さないで前倒してやろうよ」ということなんですが、だから、若いうちには遊んで暮らせと暮らせと言っているわけではないわけです。セコセコとお金を貯めて、さあ、いざ、老後に使おうとしても、そう体が元気じゃないから、若い時ほど楽しくないよ、だから、お金から価値を引き出せるうちに、使ってしまおうよ。ちょうど、死ぬ時に残り資産ゼロになるように計算して、楽しみの最大化をしようよ。ということを言っている。

多分、この本は10代で読んでもあまり意味はなくて、30代とか40代以降に読めば良いと思う。20代で読んでもまあ、いいかなと思うが、わかるかなあと思う。

要するに、人間は体力が落ちるのだが、体力があるうちには金を払えば楽しめたものの、体力がなくなったら楽しめないことは多い。あとは、子供はすぐに大きくなっちゃうよ、ということを言っている。これが、意外に気づかないことで、若いうちは自分の体力が永遠に続くと思っているのであるが、30歳から感じ始め、40代には自覚するのであるが、体力というのは落ちるのである。若い頃に後回しするこのギャップが確かにあるんだよなあと思いました。要するに、90歳になって海外旅行には行けないわけで、100万円あろうが、200万円あろうが、25歳のようには楽しめないのである。「その200万円価値がなくね?しかも持って死んでるし」という、極めて合理的な主張をこの本はしているのである。

思い出の配当

この話は、私は旅行好きだからしっかりわかる。私は親に借金をして大学生の時に貧乏旅行をさせてもらった。欧州にサッカーを見に2回行った。それぞれ1ヶ月ぐらい行った。その当時は日本円が強くて、2回行ったけど、親への借金は100万円だけだった。就職してブラック企業で必死に働いたら、ちなみに、その100万円は、1年ちょっとで完済できた。

そのあと、25歳ぐらいの時にもバックパックを背負って旅行をしたが、まあ、楽しめたが、大学生の頃のようには楽しめなかった。でも、楽しかった。これも、100万円弱ぐらい使った気がする。

今、欧州に貧乏旅行に行ったとしても、多分楽しくない。為替が大きく違うという事情はあるにせよ、おそらく、今為替の弱いトルコに旅行に行こうが、昔ほどは楽しめない。

しかも、若い頃に行った欧州旅行では、フランスのこともイタリアのことも理解できて、そのあと20代では、イタリア料理もフランス料理にも詳しくなった。女の子とのデートにも役に立った。また、旅行の思い出自体が良い自分の財産になって、後で思い起こしても幸せだったと思えるし、自分の人生は良い人生だったと思える。まさに、人生の糧になっている。

また、旅先でいろんな優しい外国人に出会って助けてもらった。そういう良い思い出が、外国人への良い感情につながって、欧州の人たちとは仕事が一緒になっても気があって、楽しめた。語学も少しは上達した。

この大学生の夏休みにバイトをして100万円を稼いだとしよう。多分、この100万円は、なんの意味もない。

というように、若い頃のお金は、歳をとった後のお金とは全然価値が違う。お金のインフレが起きるのだ。

たとえ、代わりに100万円をバイトで稼いで、コツコツ株式投資をして、それを元手に5億円になったとしよう。ただし、90歳の時に。さて、この5億円で90歳は大学生の100万円とおなじ楽しみが買えるのだろうか?しかも、100万円で旅行したやつは、20-90歳の間、ずっと楽しい思い出を持って生きている。90歳にそれを超えるいい思いが、5億円で買えるのだろうか。

そういうことを「思い出の配当」としてこの本は訴えている。うまい表現だ。

老後の備えはあんまりいらない

この辺がこの本の秀逸なところなのだが、長寿保険というのがあるらしい。これ以上生き延びた時に、毎年お金あげるよ、という保険だそうだ。この保険をかけておけば、長生きし過ぎた時の老後の金銭的リスクはない。つまり、老後の不安があるからお金をとっておく必要はなくて、たとえば、90歳で死ぬと定義して、それまでにお金を使う計算をして人生を過ごす。90歳以上生きた場合の長寿保険をかけておく。これで、金銭的にはアガリである。

あと、老後に金を使おうと思ってもあんまり使えない。80歳になって、何にお金を使えるのだろうか。

著者は、おばあちゃんに1万ドルをあげて無駄だったという話をしている。だいたい100万円と換算して良いが、おばあちゃんは、その100万円で、セーターを一つ孫に買っただけで、使わなかった。いや、使い道がなかったのだ。

という意味で、資産のピークは、老後に持ってくる必要がないと著者は言っている。合理的である。

子供には死ぬ前に与える

ここの気づかなかったことであるが、子供に遺産を残すなら、子供が若いうちの方が良い。著者は、子供が26-35歳のうちに分けてしまうのが一番良いと言っている(早過ぎても行けない)

というのは、子供が一番お金が欲しいのは、子供の子供、つまりは孫の教育にかかるお金である。教育費のみならず、食費などの生活費、また、家族が多い時の家賃や家を建てるお金など、人生を豊かに暮らすためにお金が必要なのは、26-35歳なのである。

先に与えて死んでしまえば、die with zeroになるわけで、著者の言っていることはそういうことである。70歳で1億円もらっても、たいした使い道はないし、子供も独立してから1億円もらって、家を建てたところでたいした幸せはおとづれない。であれば、30歳の時に子供が産まれた直後にもらえれば、5000万円もあれば、良い教育機関にも出せるし、教育環境の良い場所に家を建てることもできるだろう。

いつまでの子供用のプールで遊べると思うな

私は、この一言が一番響いたのだが、「いつまでも子供用のプールで遊べると思うな」である。子供用のプールというと、空気で膨らませるようなプールを私は思い浮かべる。2,3歳ぐらいの小さい子供があのプールで遊ぶ様は、親にとっては、幸せそのものである。

それを子供が中学生になっても使うかといえばかなり怪しい。使ったところで、2、3歳児の可愛さはない。高校生なら尚更だろう。子供用のプールなど、使ってくれないし、使ったところで価値も引き出せない。

たとえば、家族旅行なども行ける時期は限られている。ちょうど、お金がなくなる時期とは重なるが、こういうのにはタイミングがあるので、お金を貯めるより、先に使ってしまえとこの本は言っている。

タイムバケットを作ろう

ということで、計画を作ろうとこの本は言っていて、5年10年ごとに何をしたいのかという計画を作ろういう。バケットとはバケツのことで、「時間バケツ」である。5年ごとにやりたいことを書き出してみようという話。

私も書いてみたのだが、確かにやりたいと思っていることを先送りしていると、逃すことが多いことに気づいた。わかりやすくいうと、今、この100万円を使わないと、後には使えないということが結構あるものだ。

45-60歳に資産の取り崩し始める

ということで、資産のピークは老後に持ってこないで、資産の取り崩しはもっと早く始めましょうとこの本は言っている。

人の経済情勢によって異なるが、ピークは、45-60歳で良いと著者は言っている。まだ元気なうちにお金を使い出さないと使えなくなるよということである。

お金を大量に残して死んでも、相続税で取られるだけである。では、日本ではその税金が有効に使われるのかといえば疑問で、なんとか再生機構とか、国産半導体とか言って何兆円も突っ込まれて、湯水のように消えるだけである。であれば、早いうちに子供に資産を譲って孫の教育環境にお金を使い、長寿保険もかけて、ゼロで死んでしまえと、この本の著者は言っているのである。

最後にリスクを取らないリスクもあるから、頑張れって勇気を振り絞れってこの人は言って、本が終わる。

感想

冒頭にアリとキリギリスの話が出てくる。この手の生物学的に間違っている話はよく出てくると思っているのだが、生物学的に間違っているところが、人生の間違いにもつながっているところが非常に、興味深い。

まず、童話のアリとキリギリスでは、アリが偉くて、キリギリスが愚かということになっているが、実際の虫としてのアリとキリギリスに優劣はない。どちらも、今の地球の環境に適応した勝者である。

アリがいるからキリギリスの数が少ないわけでもない。キリギリスは1年で死ぬように設計された生物で、ちゃんと子孫を残しているのだから、1年で死んでも、種は死なない。アリは集団で行動するような生物であるだけだ。だから、アリとキリギリスから教訓を引き出すことなど、そもそもできないのであるが、童話を通じて人間はそれをしようとして間違える。

そもそも交尾をして自分の子孫を残せるキリギリス。アリは、女王アリしか子供を産まない。数多くの働きアリは子孫を残せないわけで、個人としてどっちが良いかと言われれば、キリギリスの方がいいんじゃないかと思う。

お金は手段であって、人生の目的は幸せに暮らすことと定義した場合、合理的にお金から引き出す価値を最大化しようと思えば、この本の主張の通りになりそうだ。ただ、目の前でお金を増えていくのを見るのは楽しいのか、人生の慣性なのかで、老人はお金を使おうとしないで溜め込む。これが、マクロには、経済を停滞させる。

日本ももっと長寿保険を流行らせて、25−35歳の子供に相続を早くさせる税制をとって、子供を持つ親たちが楽に生きられる社会を作るのが良い日本を作るだろうし、経済的な理由での少子化と晩婚化が多いのだから、日本の少子化も解消するであろう。日本の政策にこそ、この本は活かすべきであろうと思った。

いいなと思ったら応援しよう!