書評:『未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること』 (河合雅司)
一作目の「未来の年表」がよかったので、2冊目も読んでみたけど、残念ながら駄作だと思った。一冊めの信頼度を下げる結果となった。
著者の河合さんは新聞記者ということで、その限界だと思う。未来予測をするのに必要な知識の幅が足りていないと思う。理系の知識が弱すぎる。
著書の内容は、未来年表に基づく、高齢化社会における日本の生活をわかりやすく影響を書いている。カタログとして起きることを書いている。最後にちょろっと、その処方箋が書いてある。処方箋の方はページ数も少ないが、内容もかなりしょぼい。
予測にも、問題がありそうだ。
長期の未来予測であるにも関わらず、テクノロジーの進化が全く織り込まれていない。また、2000年になってから、DNA解析の技術が実用化され、インターネットの活用が進み、深層学習の利用で自動化が容易になった。そのようなすでに起きた未来が、未来の予測に反映されていないのは問題だ。まだ起きていない技術進化を過剰に予測に取り込むのは希望的観測でよくないのは分かるが、著者は、技術の流れがあまりにも読めていない。
例えば、「食卓から野菜が消え、健康を損なう」とあるが、耕作放棄地が増えて農業従事者が少なくなって起きることは、農業の生産性の向上だろう。農業の主体が個人から農園に代わり、運営規模が大きくなることで、機械化が進み、農業の生産性は劇的に上がるだろう。野菜に需要があれば、供給を増やすのは難しくない。ドローンでもなんでもあげて、効率的な野菜作りをして、食卓からなくなる前に、農業の生産性は上がるだろう。農業従事者が減ったが農業生産量は落ちなかったのは、すでに、米国で起きたことである(と、ドラッカーが20世紀に本で書いている)。古い話、ローマ時代のイタリアは小作農だったが、カタルゴは農園経営である。人口が少なくなれば、農園経営になるのは、歴史が証明している。農業は規模があれば、機械化は容易である。
「ネット通販が普及し商品が届かなくなる」も同様。通販が増えるがドライバーがいない。自動運転になっても最後の配達をロボットで出来ない、最後の配達は人が必要なので、物流と通販は破綻すると著者は言う。
ほんとだろうか?
ボストンダイナミクスなどが作っている犬型ロボットをみれば良い。トラックから荷物を運べそうではないか。物流倉庫の中では、ロボットが荷物を運んでいるのが今の現状だ。人件費が上がれば、ロボットの方が安くなる。宅配ボックスにbluetoothのビーコンでもつければ、少なくともトラックから宅配ボックスまではロボットが荷物を届けることができる。自動運転とともに、物流の自動化は、2030年には実用化されると私は思う。2040年にはこの実用化は、確実に自動化しているだろう。
20年も経てば大きく常識も変わる。おそらく10年でもかなり世の中変わっているだろう。著者は、高齢化と社会の変化はシミュレートしているのだが、技術の進展と実用化の方はシミュレートできていない。だから、全体的に妙に悲観的な予測に終わっているのだ。
私であれば、この本の悲観的な予測を新たな機会として捉える。高齢化に伴い、このような課題が出るので、それを解決するソリューションにニーズが出てくる。それだけの話であるのだ。
例えば、建て替えできないマンションの話がある。逆にこれは建て直しの機会に繋がる。同規模のもう少し若い中古マンションを古いマンションの住民にあてがって転居させ、古いマンションを建て替えれば良い。都心のマンション用地は不足している。全ての土地ではないが、良い場所の土地は、土地の収容が進むのはチャンスである。これからも、コンパクトシティには健康な高齢者のニーズが高まるので、良質な新築住宅は必要である。空き家が一定数出れば、土地の集約もしやすくなる。住宅地も、農地と同様に集約を進めれば良いだけの話に思える。
「オフィスの高齢化」と言うから何かと思えば、新人取れないから、いつまでも新人と同じ仕事をしている冴えない40代が増えると言っている。
アホか、賃金制度を変えろ。変えない会社は潰れるだけだ。年功序列も、終身雇用ももうダメなのである。社員がやる気をなくすような企業はさっさと廃業させ、新たな制度を持った元気な企業を作れば良い。廃業が進めば、転職も増えて、社会は進展する。法人の新陳代謝が進んで良いではないか。
中小企業の後継者不足は、M&Aで売却すれば、問題がない。
一番ひどい予測と思ったのがガソリンスタンドだ。ガソリンスタンドなど、もういらないのだ。灯油による暖房はやめ、他の燃料に切り替えれば良い。地球温暖化を考えたらヒートポンプに変えるべきだ。車の燃料もいつまでガソリンを使い続けるんだ。車の燃費もよくなっているし、車の走行距離も減っている。ガソリンスタンドなど、いずれ全廃させればいいぐらいだ。ガソリンと灯油によるエネルギー供給は、20世紀で役割が終わったんだ。21世紀には必要ない。かつての馬車を支える社会インフラは、現代にはないのと同じだ。ガソリンスタンドの労働力を他に回せ(そもそも、米国のスタンドもほとんどセルフ型だ)。
田舎のエネルギーは、電気なり、ガスなりにエネルギーは一本化して、コミュニティで発電すれば良い。ムラ用の自給自足型エネルギーユニットを作って、エネルギーのインフラの相互接続をなくせば、電気自動車の効率も良くなるだろうし、自動運転でどうにでもなるんじゃないかと思う。その辺りに商機が見える。
大量に発生する定年女子は、良質な労働力確保で利用する企業が出てくれば良い。
と言った調子で、この本は、これから高齢化する日本社会で発生する商機が書いてある本、と理解すると、起業家の皆さんにはありがたい本になると思う。そう言う視点でみれば、役に立つ本になるかもしれない。